愚か者の貪欲さ
できる限りの仕事をこなした後、結局一秒たりとも休む暇はないだろうと思いながらも、ベッドに倒れ込んだ。
「ヒカルくんにメールしようかな……今、起きてるかな?」
午後9時。今の人生では、前世よりももっと頑張れた気がする。前世では、その作業が簡単でいつでもできると思っていたせいで、少し先延ばしにしてしまっていたことを認める。誰にもそんなことはお勧めしない。
【荒川海斗】
やあ、ヒカルくん。起きてる?それとも寝てる?
(いや、寝てたら返事できないだろ。なんでこんなメッセージ送ったんだ俺……)
【宮村ひかる】
まだ生きてるよ、カイくん ~
【荒川海斗】
許可なくあだ名をつけるなよ!
【宮村ひかる】
いや、カイくん……カイくん
【荒川海斗】
あ…仕方ない、ただ何か話したいだけなんだ。退屈で眠れないし。
【宮村ひかる】
うんうん、僕も二人でデートに行く話したいし…そう言うのはちょっと恥ずかしいけど、もうこの家に閉じこもってるのには耐えられない。
【荒川海斗】
バカなことを言わないでよ。でも、どこにでも行けると思うよ。あと2日で土曜日だし、その時は……うーん……ゲームセンターでも行こうか。
【宮村ひかる】
うんうんうん、ちょうど両親が海外出張に行くから、君もうちに来てもいいよ。
【荒川海斗】
うーん……ただ、騒いだり変なことはしないようにね。
【宮村ひかる】
ねえ~~カイくん、そんなこと言ったら、そこで不適切なことをするって意味になっちゃうよ、だ~でも僕たちは男だし、そんなことできないし……
【荒川海斗】
その可愛い顔をぶっ壊してやる、バカ。
【宮村ひかる】
まあ、もう寝なきゃいけないし、じゃあね……カイくん~
【荒川海斗】
じゃあね。
(あの自惚れ屋なバカ、ゲイみたいだし、振る舞いもそうだし)
あと数分は彼と話せると思っていたのに。連絡先をもう一度見直して、『カイト』はそれほど社交的じゃなかったことを思い出した。ある意味、本来の『カイト』を失いつつあるような気がする。説明するのは難しいけど。
(まあ、それでもこれはいろんな意味で役に立っている)
「ああ……ただ眠りたいだけ……」
(この世界をぶち壊してやりたい)
重要なことはすべて心の中で語り、口に出す言葉は常に慎重に選ぶことに決めた。
……
翌朝は金曜日、その週の授業の最終日だった。この日が来るなんて思ってもみなかったので、いつもと同じことをすることにした。
「お兄ちゃん!友達が家に来てるよ、一緒にいたいって!」
(何だよ?いや…いや…いや…)
「今、下りていくよ!」
誰のことかは明らかだった。とはいえ、結局のところそれほど悪いことではないだろう。友達と一緒に高校に行くのも珍しいことではない。『友達』に困ることなんてなかった、あの頃を思い出した……いや、そう思い込んでいただけかもしれないが。
朝食を急いで済ませ、いつものように母に挨拶をして、急いで階下へ降りた。
「二人とも、気をつけてね」
母は、彼女らしい優しい笑顔で玄関まで見送ってくれた。
歩きながら、周りの家々を眺め、それらがどれほど質素なものか考え込んだ。
「カイくん、君のお母さんは独身なの?」
「おい、ヒカくん。俺の母さんをその辺の女みたいに言うなよ!」
「でも……僕が君の義父になるのを嫌なの?」
「これ以上、母さんのことをそんな風に言うなら、そのバカみたいな顔をぶっ壊すからな、いいか?」
「わ、わかったよ。ちょっとだけからかいたかっただけだよ、カイくん」
こういう会話は、ある意味馴染み深かった。 こんな風に話せる相手は、ただ一人しかいなかった。
(いや……ありえない、あいつがそんな馬鹿げたことを平気で言うほど厚かましいわけがない)
俺たちはのんびりと高校まで歩いていった。そこで『偶然』また彼女と出くわしてしまった。
「おい、下賤者。お前の視線が気持ち悪いってことは、もう分かってるはずだろ? 豚野郎!」
予想通り、神崎は俺とほぼ同時に現れた。今回は彼女に立ち向かわなきゃ……
「どうしたの、神崎? 弱い者いじめをして優越感に浸ってるの? それって臆病者のすることよ」
「あんたのことなんて知らないけど、今すぐ殴ってやりたいわ、マリア……ヒナタ……このバカどもに一泡吹かせてやるわ」
ひかるくんがあんな振る舞いをするのを見て驚いたのは認めるけど、今となっては、俺たちをこんな状況に巻き込んだ彼を呪っている。あの3人の女子が結集すれば、文字通り高校全体の評判を一瞬で台無しにしてしまうだろう。とはいえ、実際には神崎だけがそれをできる。ゲーム内の彼女のルートでは、この悪女が部下にしたかったという理由だけで、彼女たちの家族を操っていたことが明かされているからだ。その手口は、組織犯罪と呼ぶにはあまりにも複雑で、ここで説明しきれないほどだ。
(あの時みたいに振る舞うべきか? いや……それはあまりにも馬鹿げている。今この瞬間、彼女たちを殴り飛ばしても構わないが、俺の将来に重くのしかかっている……! この馬鹿げた『バタフライ効果』とは一体何なんだ!)
やがて、荒々しい風貌の金髪の少年が近づいてきた。その存在感からは、無視できないほどの獰猛なオーラが漂っていた。
「おい……俺の未来の妻、モモたん、髪の毛一本でも触れるなんて、絶対に許さないぞ……ガキども」
「お前……クソ野郎、神崎お嬢さんにこれ以上近づくなんて考えもするな。お前に彼女の名前の一文字すら口にする資格なんてないんだから」
ほぼ同時に、ヒナタがマリアの横に立ちはだかり、あのバカの行く手を阻んだ。
「落ち着いて。君はモモたんをガキどもから守る役目だけだから。妻を教室まで連れて行くのは私がやるから……」
神崎は二人を押しのけ、その馬鹿へ一直線に近づくと、怒りを込めて股間を蹴り上げた。
「お前が私にセクハラまがいの真似をしてきたのも、これで五十回目よ! お前のような豚に対するこの無礼は、決して許さない」
「いや……それでも……お前が一生俺のものになるまでは、決して諦めない。俺だけが唯一の男になるんだ」
一瞬のうちに、3人の少女たちは彼の顔、胸、お尻を拳で殴りつけ、彼を傷だらけにして地面に叩きつけた。それでも、あのビッチのためならどんな痛みでも耐える覚悟だった彼は、立ち上がろうとしていた。殴り終えた後、神崎は、あのバカどもがもうそこにいないことに気づいた。
「ちょっと待て……あのガキどもはどこだ……何か知っているか? マリア」
「どうやら……私たちがこの欲情した豚の相手をしている隙に、逃げ出したみたいよ」
「彼らにはただ一つの仕事しかなかったわ……主導権を握っているのは私で、あなたは私の操り人形に過ぎないことを思い出させてあげよう。自分の立場を忘れないでね……下賤な女」
彼女はマリアを殴りかけようとしたが、マリアは怯えた様子でうなずき、彼女と一緒に教室へ向かって歩き出した。何しろ、現実はまさにその通りだったのだ。
ちなみに、床に倒れているあの馬鹿は山田誠だ。股間をあれほど殴られてもまだ生殖能力が残っているなんて驚きだ。前にも言った通り、彼は名家の出身だからとても傲慢で、あの瞬間に彼が現れたのは、まさに命の奇跡だと思う。
「あのバカが来てくれてよかったね」
「同感……でも、あんな態度をとったことについては謝らなきゃね。彼をうまく利用できると思ったからさ」
「君のせいじゃないよ、ヒカくん。ただの衝動だっただけだから」
「そういえば……もう僕に親しみを込めたあだ名をつけてくれたね、へへ」
「ただ、お前のふざけたあだ名への仕返しだよ」
「でも、そのあだ名、気に入ってるの? 僕は君がつけてくれたあだ名、気に入ってるんだけど 」
「黙ってて」
否定できなかった。中学時代のあのバカたちが、俺に気づいてもらおうとよくそう言っていたのを思い出したからだ。授業が始まり、絵画の時間だった。先生が選んだクラスメートの顔を再現することになっていた。
「よし……今回のモデルはレイカさんにするよ。みんな、うまく描けるように頑張ってね」と、先生は微笑みながら言った。
(くそ、あの女は運がいいな!)
彼女にとっては、まるで運のステータスが最大値に達しているかのように、何事も完璧にうまくいく気がする。俺は絵が苦手だと自覚していたので、ただ集中してプライドを飲み込み、うまく描いて良い点数を取ろうと努めた。
(うわっ……カイト、本当に絵が上手いね。才能みたいなものがあるんじゃないかな)
俺は慎重に彼女を描き始めた。こんな状況でも、彼女なら気にしないだろうと分かっていたから……
(眠い)
不知火、いつものように、その時に眠れないと愚痴をこぼしていた。彼女はただ、良いイメージを装っていただけなんだ。
絵が完成した時、ほとんどの人が完璧に仕上げようとして、時間が足りなくなっていた。
(あいつら、なんて負け犬なんだ)
俺の場合は、完璧でもひどくもなく、いわば普通だった。結局、俺が最高点を取ったんだけど、なぜか白井も、あの……いいポーズをとったおかげで高得点だった。
(彼女なら何でも完璧にこなすのも当然だ)
バカ村と一緒に次の授業へ向かう途中、まだ得意げな山田と「偶然」出くわした。
「お前、荒川だろ?」
「いや、俺はキリトだ」
「小賢しい真似はやめろ!誰か知ってるよ、ただお前かどうか確認したかっただけだ」
「違う、俺はキリトだ。良い一日を」
逃げようとしたが、山田は私の制服を止められないほどの力で掴み、そのオーラが私の体を貫くのを感じた。
「ここから逃げられると思うな、クソガキ。お前にはとても魅力的な提案があるんだ」
「そんな馬鹿げた話に巻き込むな。お前の言うことなんて…絶対に受け入れない」
「俺の言う通りにしてくれれば、50万円やるぞ」
「承知いたしました、ボス」
俺は山田の前でひざまずいた。人生で巡ってくるチャンスはすべて掴め、とずっと言われてきた、お金、とりわけ50万円となると、何と言ってもその金は様々な形で役に立つだろうから。
「カイくん! 一体どうしたんだ!?」
「分かってないな……これは俺の人生で最大のチャンスの一つなんだ! 50万円もタダでくれるなんて、誰もいないだろ」
「まさか、50万円で君の命が買えると思ってるのか!」
答えを決める前に少し考えた。いや……もう決めていた。
「その額ほどの価値はないだろうが、その一部は賄える」
「クソ貪欲な野郎め! ところで……そんな大金と引き換えに、何を頼むつもりなんだ?」
「山田家を甘く見すぎだ。その額は、我々が蓄積してきた富に比べれば微々たるものだ。俺が頼もうとしていることは、金のことしか考えない無能な奴にはうってつけの、実に単純なことだ」
「俺の本質を理解してくださってありがとうございます、ボス!!!!」
「お金のためだけに、そこまで堕ちちゃダメだよ、カイくん!」
まるで高予算のシネマティックシーンが展開されるメインイベントのように、山田は窓辺を歩きながら、吹き始めた風が制服を翻らせ、何もしなくてもオーラを放っているかのように見える。
「3日前、君がモモたん一緒にいるのを見かけたよ。彼女が君に横暴な態度をとっているにもかかわらず、社会的に潰れずに済んでいる数少ない人物の一人だったことに驚いたよ……だから、お願いがあるんだ……これからもモモたんの前で自分を辱め続けてほしい。そうすれば、俺だって加わって、俺のモモちゃんと一緒に君を辱めることができる。そうすれば、モモたんに、俺たちの関係が本気だって証明できるんだ」
彼女はそう言いながら、指をパチンと鳴らし、まるで重要な任務に選ばれたかのように俺を指差した。彼はオーラのファーミングが本当に上手だったと認めざるを得ない。
「バカね、カイくんはそんな屈辱を受け入れるような凡人じゃないわ。効果があるかどうかも分からないまま、無期限に辱められ続けるなんて、カイくんがそう簡単に受け入れることじゃないわ……」
「承知した……ボス! 」
「今回はお前一人だ、カイト」
敬称なしで呼ばれたことがすごく痛かった。自分の本性を隠すことはできなかった。
(ごめんね、ヒカくん、後で全部説明するから)
「おい、ガキ、お前の友達に怒られたからって、今さら泣き出すつもりか?」
「たかが口論くらいで動揺すると思うか? 本気で泣くには、それ以上のことが必要だ」
「本当に変だな、最高だ!」
(そう…完璧だ。あのバカに神崎を惚れさせるために、ただひたすら屈辱を受け続ければいいだけだ。これ以上の条件なんてあり得ない!もし本当にあのバカが彼女を惚れさせたら…俺はただ田辺とだけ相手すればいい!一石二鳥だ)
そう…このバカは、目の前に現れる『どんなこと』でもやって、ヒロインたちからとにかく距離を置こうと考えている。そんなチャンスを無駄にするはずがない。
「このバカ、俺を操っているつもりだろう……だが、操っているのは俺の方だ。計画は失敗に終わったな、ハハハハハ」
俺は彼の自信に満ちた顔を見つめた。彼も俺を見つめ返し、緊張は最高潮に達し、その瞬間、俺たちのオーラがぶつかり合い、その時点でどちらがより多くのオーラを放っているかを競い合った。
「よし、ガキ。お前がかなり賢い奴だとは知っていたよ」
彼は相変わらず軽蔑の眼差しを向けていた。あまりにも憎たらしいので、その場で殴りたくなったが、彼がくれるお金のためだけに、俺は我慢した。
授業があることをほとんど忘れていたが、ほんの数秒のうちに、俺たちは電話番号を交換し、まるで奴隷であるかのように、俺がすべきことすべてについて指示を受けることになった。個人的にはどうでもよかったが。
「ついに……モモたん、俺の君への愛を認めさせてやるよ」
山田はそう言いながら、廊下を反抗的な態度で歩いていった。その姿からは、強力な敵役としてのオーラが明らかに漂っていた。




