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銀河戦記フライハイト 〜廃棄惑星から始まる銀河帝国滅亡史〜【祝40万PV】  作者: 廣瀬誠人
第12章 領地査察編

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第116話 公開処刑

 リュグドラートでの『闇のオークション』制圧から、一週間後。


 俺の乗る超弩級戦艦『フェンリル』は、何万光年もの距離を跳躍し、無事に新銀河帝国帝都・ノルドステーションへと帰還を果たしていた。


 予定では半年は掛かると見込んでいた視察旅行だったが、アイゼンハルト伯爵を手駒にしたことで劇的に手間が省け、わずか二ヶ月程度で戻ってくることができた。


 全く、運が良かったとしか言いようがない。


 そして帰還したその日、帝都の中心部に設けられた巨大な特設広場では、一大イベントが執り行われていた。


 リュグナー元子爵の公開処刑である。


 広場には数え切れないほどの帝都市民が詰めかけ、さらにその映像は、新銀河帝国全土のネットワークを通じて全星系へと生中継されていた。


『殺せ!その豚を殺せ!』


『俺たちの同胞を売り飛ばしやがって!許さねぇぞ!』


『クズめ!さっさと死ね!』


 広場を埋め尽くす市民たちから、リュグナーに対する凄まじい罵声と怒号が飛ぶ。


 彼らの多くは、つい最近まで5等民として旧帝国貴族に虐げられていた人々だ。


 自分たちの同胞を商品として扱い、私腹を肥やしていた元凶の姿を見て、怒り狂わないはずがない。


 その熱狂の中心。


 広場に高くそびえ立つ処刑台の上には、両手両足を重い拘束具で縛られ、無様にひざまずかされたリュグナーの姿があった。


 かつてオークション会場で見せた不遜な態度は見る影もない。


 豪華な衣装は剥ぎ取られ、みすぼらしい囚人服を着せられた彼は、群衆の殺気に完全に怯えきり、ガタガタと震えながら涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。


 処刑台の最上段、一段高くなった特等席に、皇帝である俺は座っていた。


 漆黒の儀礼服に身を包み、冷ややかな視線で眼下の惨状を見下ろす。


 これもまた、統治者としての重要な仕事だ。


「法を破ればどうなるか」を、全宇宙に知らしめるための見せしめである。


「静粛に」


 俺の傍らに立つ、国務尚書シズの冷徹な声が、マイクを通じて広場全体に響き渡った。


 その一言で、数千万人の群衆が水を打ったように静まり返る。


 シズは手元のデータ端末を開き、感情の欠落した機械的な声で、リュグナーの罪状を読み上げ始めた。


「罪人、リュグナー元子爵。その罪状は、旧帝国時代からの長期にわたる数億人規模の不法人身売買、違法薬物の密輸、マフィアとの結託による治安破壊……および、新銀河帝国法が定める『国家反逆罪』に該当し、いかなる理由があろうとも万死に値する」


 シズの言葉が一つ響くたびに、リュグナーはビクッ、ビクッと肩を震わせた。


「以上の罪により、皇帝陛下直々の裁可をもって、罪人リュグナーには『死刑』を言い渡す。また、一族郎党の財産および身分は全て剥奪の上、領地に残る縁者も現在、軍務大臣ヴォルフ元帥の部隊により適正に『処理』されている」


『ひぃっ……!お、お助けを!命だけは!命だけはぁぁっ!』


 リュグナーが処刑台に額を擦り付け、必死に命乞いをする。


 だが、そんな言葉に耳を貸す者は、この銀河に一人として存在しなかった。


「刑を執行せよ」


 俺が静かに、しかし絶対の威厳を持って宣告した。


 処刑人が、リュグナーの首を冷たい木枠の中に固定する。


 彼の上段には、新帝国軍の紋章が刻まれた巨大なギロチンの鋼刃が、鈍い光を放って吊り下げられていた。


『や、やめろ!私は貴族だぞ!いやだああああああっ!!』


 ガキンッ!


 無慈悲な音と共に、重厚なギロチンの刃が振り下ろされた。


 リュグナーの絶叫は途中でプツリと途切れ、ゴトリ、と重い音が処刑台に響いた。


 数秒の静寂の後。


 広場を埋め尽くす群衆から、地鳴りのような歓声と拍手が巻き起こった。


 それは、旧帝国の悪夢から完全に解き放たれたという、民衆の勝利の雄叫びでもあった。


「……終わったな」


 俺は席から立ち上がり、処刑台から目を逸らしてマントを翻した。


「はい、マスター。これで旧帝国の負の遺産は、ほぼ完全に一掃されました。全星系の民衆からの政府支持率も、過去最高を記録しています」


「そうか。後片付けは任せるぞ、シズ。……俺は、行くところがある」


 群衆の歓声を背に受けながら、俺は処刑場を後にした。


 血生臭い仕事はこれで終わりだ。


 ここから先は、俺の『日常』に帰る時間だ。


 ***


 ノルドステーションの最上層。


 絶対のセキュリティで守られた皇室専用のプライベート区画へと足を踏み入れると、先ほどまでの喧騒が嘘のように、静かで穏やかな空気が流れていた。


 リビングの扉を開けると、そこには窓辺で、ゆったりとしたソファに腰掛けているシャルロットの姿があった。


「シャルロット」


 俺が声をかけると、彼女は手の中で編んでいたベビー服らしきものを置き、パッと顔を輝かせて振り向いた。


「クロウ様……!」


 シャルロットは少しふっくらとしたお腹を抱えるようにして立ち上がり、ゆっくりとした足取りでこちらへ近づいてくる。


 俺は小走りで駆け寄り、彼女の体を優しく、壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。


「ただいま、シャルロット。……遅くなってすまない」


「お帰りなさいませ、クロウ様。……いいえ、予定の半年よりもずっと早く、二ヶ月で帰ってきてくださったではありませんか。とても嬉しいです」


 シャルロットは俺の胸に顔を埋め、安堵の吐息を漏らした。


 彼女の温もりと、少し甘い花の香りが俺の鼻腔をくすぐる。


 オークション会場の腐った脂の臭いや、処刑台の血の匂いが、彼女の存在によって綺麗に浄化されていくのがわかった。


「留守の間、何も変わりはなかったか?気分が悪いところはないか?」


「ええ、とても順調です。医療ドロイドたちが完璧にサポートしてくれましたから」


 シャルロットは幸せそうに微笑み、自身のお腹を愛おしそうに撫でた。


 妊娠七ヶ月。


 視察に出る前よりも、その膨らみは明らかに大きくなっていた。


「少し、触らせてもらってもいいか?」


「ふふっ、もちろんです」


 俺はシャルロットの前に膝をつき、その大きくなったお腹に、そっと両手を当てた。


 温かい。


 そして、確かにそこに『命』があるという確かな重みを感じる。


 俺はそのまま、ゆっくりとシャルロットのお腹に耳を押し当てた。


「……あ」


 トクトク、トクトク。


 微かに、だが力強く、小さな心臓の鼓動が聞こえてくる。


 その直後、ポコッ、と内側から俺の頬を蹴るような、元気な胎動が伝わってきた。


「……元気なやつだ。今、俺の顔を蹴りやがったぞ」


 俺が思わず顔をほころばせて言うと、シャルロットもクスクスと笑った。


「クロウ様が帰ってきたのがわかって、きっと喜んでいるんですよ」


「そうか。……お前たちの平和は、俺が絶対に守り抜いてみせる」


 俺はもう一度、その小さな命の鼓動に耳を澄ませた。


 新銀河帝国皇帝、クロウ・フォン・フライハイト。


 銀河のほぼ全ての富を独占し、数多の星々を恐怖で支配する魔王。


 だが、この瞬間だけは、ただ一人の夫であり、もうすぐ生まれてくる子供の父親だった。


 窓の外には、ノルドステーションを取り巻く無数の星々が、平和な光を瞬かせていた。

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