第八十五話 霧
霧の中を進んでいく。
まだ回復しきれていないリュトに肩を貸し、白い空間を進んでいく。
その白いまどろみの空間の中から声がした。
「なんだ……… この霧は?」
息が止まりそうになる。
ビルツの声だ……… 近い………
ミルクのような濃い霧で、姿も影さえ見えないが近い位置にいる。
口の中が乾き唾を飲み込もうとするが、その時の喉の音さえ聞こえてしまうかもしれない。
そう思えるほどの緊張が全身に走る。
そのとき、リュトの身体が硬直したように感じた。
見るとリュトはナイフを手にかけていた。
私は慌てて、だけど無言でリュトのナイフにかけた手に、そっと自分の手を添える。
そして、リュトの目を見て首を横に振る。
この霧に紛れてなら敵を討つことが出来ると思ったのかも知れない。
だけどそれはダメだ、絶対に。
ここで目的をおろそかにしてはいけない。
リュトは悔しげな表情を浮かべるが、顔を声の聞こえた方向から逸らすと、ナイフの柄から手を離し足を元の位置に向けた。
ホッとするのも束の間、私は物音を立てぬように慎重に足を運んでいく。
そして数歩進んだとき、精霊さんの声が胸の内に聞こえた。
「(サキニ ススンデ)」
私はその声のした方向へ顔を向ける。
不安を表して………
霧でその姿は霞んでよく見えない。
ぼんやりと薄く光っているだけだ。
精霊さんは囮になろうとしている。
私には精霊さんの言葉の内に、それに気づく。
「(ダイジョウブ シンパイシナイデ)」
そして、精霊さんも私の気持ちに気づいたのだろう、そのような言葉が浮かんできた。
だけど………
「(サキニ ススンデ)」
もう一度精霊さんはそう言うと、霧の中に完全に消えてしまった。
そして………
あまり時をおかずに、坑道内に騒音が響き渡る。
今までにも聞いてきた、鉄が岩を砕く音だ。
あのグール騎士がランスを振り回しているのだろう。
精霊さんは心配だけど、音がしているということは同時に無事ということでもある。
騒音を警戒してかリュトが立ち止まる。
「大丈夫です。あれは精霊さんが囮になってくれているからです。先に進みましょう」
私は自分に言いきかせる言葉そのままに、リュトに向かって言った。
精霊さんの言葉を信じよう。
今、私たちの最善手はこの場所から離れることだ。
響き続ける音に後ろ髪を引かれる想いで、私は足を進めた。
最近、創作のノリが悪いっす。




