第七十八話 坑道の騎士
「ビルツ………」
リュトが呟く………
鎧の騎士の背後から声の主が影の中から現れる。
どこか不気味に感じるあのビルツという人だ。
「ふん、精霊か? キノコなどにも宿りおるか………」
精霊さんにそう言った後、ビルツという人は私の方に顔を向けた。
その瞬間、私の身体にビクッ! と身震いと共に悪寒が走り、鳥肌が立つと同時に冷たい汗がふきでてくる。
何! あの人!
こんな暗い坑道の中で私の姿が見えるのだろうか?
得体が知れない……… 気持ち悪い………
あの人を見ると蛇……… いや、カマキリの目を思い出してしまう。
何を考えているかわからない。
「ハン! どっちが叛逆者だよ! 聞いたよ! 鉱山夫を丸焼きにしたのはそっちの手の者と言うじゃないか! アンタん所の鉱山夫は何かの犯罪者かも知れないけどね! それを勝手に殺しちまうアンタこそ国に対する叛逆者じゃないのかい!」
シェランさんの放つ啖呵にビルツという男は、無表情に何の感情をのせることなく淡々と答える。
「私に対するその言いよう……… それが叛逆と言うのだ冒険者風情が……… コホッ!」
そう言いながら右手を小さくあげる。
それを合図に鎧の騎士が動き出した。
騎士の横に転がる古びたトロッコからランスを取り出すと、また腕の関節を無視した動きで、ランスを構えた。
騎士の兜がこちらを向く。
その瞬間、
巨大な水と氷の塊が騎士を襲った。
バランスを崩し、地面に倒れこむ騎士。
あれは精霊さんの魔法だ。
グレーターベアのときよりひとまわり小さい。
けど氷も混じっているので衝撃はかなりのものだと思う。
それを見ていつでもリュトと走り出せるように、リュトの手を私の肩に回す。
そしてシェランさんの方へ顔を向ける。
だけどシェランさんは止まれの合図を出していた。
私はそれを見て再度、敵の方に目を向ける。
「なにをしておる。早く立ち上がらんか」
焦る様子もなく、無感情に無表情でビルツという人は騎士に言い放つ。
その様子を見てシェランさんは悪態をビルツという人に放つ。
「地方のいち役人が騎士さまに随分とえらそうな言葉を……… !!」
だけど、シェランさんの悪態が絶句に変わる。
私もそうだ………
あの騎士を見れば………
倒れた衝撃で騎士の兜が外れ、その兜は濡れた状態で地面に転がっている。
そして起き上がる騎士のむき出しの頭部は人間のものではなかった。
いや、人間ではあったのだろう。
だけど目は潰れ、髪の毛と共に皮膚がめくれ上がっている。
それでいて血は出ておらず、皮膚は干からびたまま、しわくちゃに刻まれている。
そして鎧の首元からは瘴気が溢れていた。
どう見てもあれは………
「グール………」
リュトの呟く声が信じられないものを見ていることを表していた。
「なるほどのう、そういうことじゃったか」
ダレフさんがアックスを構えて腰を落とす。
「人間は誇りをも捨てたのかの………」
ダレフさんは寂しげに諦めにも似た言葉を吐くと、足を前へと踏み出した。




