第七十九話 誇り
「コホッ! 誇りを捨てただと? 何をいうか……… この騎士ほど誇り高き者はおるまい。この者は死してなお、事に仕えておる。生きている間は騎士として何の疑いもなく仕事に邁進し、騎士として死した後も新しい任務を授かっているのだ。それすら理解出来ぬからドワーフなど劣等の種族なのだ。コホッ!」
ダレフさんの言葉に、ビルツという人が言葉を返す。
めちゃくちゃな言い分だ。
あの騎士の、あの姿のどこに誇りがあると言うのだろう。
無惨としか言いようがない。
その時、私は気づいたことがある。
騎士のただれた頭部から、小さくキラリと光るものがあると。
それはピアスだった。
左の耳たぶに生前のままなのであろう、小さな宝石をあしらったピアスを付けていた。
そして、それはこの騎士が既婚者であることをを意味していた。
この国では婚姻を結ぶと、夫婦となる男女はお互いにピアスを送る風習がある。
「ハン! 詭弁だね! 胸くそ悪い! お前たちはいつもそうだ! テメェに都合がいいように講釈たれやがる! 死人にもなってどこに誇りがあるってのさ! その騎士の嫁さんもずっと、その騎士の帰りを待っているんじゃ無いのかい? ろくでなしめ!」
シェランさんが激昂している。
当たり前だ、怒る気持ちもわかる。
だけど、だけど私はただ、ただ悲しかった。
たぶん、きっとシェランさんの言うとおりなのだろう。
あの騎士を待っている人がきっといるはずなんだ。
「リュト! お嬢ちゃん! 気合を入れな! あの騎士を弔うよ!」
シェランさんの声が飛ぶ。
その声に私は自分を取り戻す。
そうだ、今は悲しんだりする時じゃ無い!
そう思いながら、私はシェランさんの方を向いて目を見開く。
「姐御!」
隣のリュトが叫ぶ。
「わかったかい! いいかい! 目的を果たしな!」
シェランさんは騎士に顔を背けることなく、そう言い放った。
「身の程知らずが………」
シェランさんの声を聞いて、あの男の人、いやビルツが声を返す。
あんな酷い人は呼び捨てでいい。
「いまさらだけど、ウチのギルマスからなんか聞いて無いのかい?」
シェランさんの呼びかけに、ビルツは無表情に応える。
「あのような騎士崩れの言葉に何の意味があろうか……… コホッ! それに、ここは我が聖域。それを汚した者を逃すなど、ありえるものか。許さんぞ叛逆者どもコホッ!」
「もうちょっと気持ちを込めて、言ってもらいたいものだねぇ」
中腰のまま構えるシェランさんの横に複数の火の玉が浮かぶ。
「ダレフさんよ! いくよ!」
シェランさんが声を上げる。
「ホッ 女魔法使いよ、ここで我が名を呼ぶか」
太く、厳つい腕に無骨なアックスを構えたダレフさんが口を開く。
「ならば応えねばなるまい」
そう言うと、ダレフさんの腕がさらに膨らみ、血管が浮きでて、異様な雰囲気をまとう。
これが開戦の狼煙となったのだ。
次話はまだ出来上がっておりません。
途中まで書いているけど、展開が決まってなくて時間が掛かりそうなので、連絡を兼ねて投稿します。




