その2
11月14日
とりあえず、生き残った。
遺書代わりに書いたメモを元に、あったことをすべて書きたいと思う。
ちなみに11月4日から13日のメモは紛失した。
せっかく書いたのに、悔しい……
食べ物を出す時に、落としちゃったのかなあ。
10月24日
目撃者の情報では、魔王(女)は高笑いをしながら、西北の方向へと飛び去ったらしい。
用意する物
・食べ物
・水
・薬
・装備品
装備品はギルドにあった備品を拝借した。
怒れるムラタさんの奥さん(後から聞いたところによると、元Sランク冒険者の猛者らしい)を連れて、首都ゼロホーンを目指す。
魔王も、長い眠りから目覚めて、ようやく復活を遂げたというのに、なぜ最終兵器・ムラタさんの奥さんを敵に回したんだろ?
10月25日 雨
足が痛い。
こんなことになるんだったら、もうすこし運動するべきだった。
10月26日 曇り 寝る前に雷雨
出現する敵をバッタバッタ包丁で倒していく奥さんは凄すぎる。
私がすることといえば、ドロップアイテムを拾ったり、地図と睨めっこするぐらい。
そういえば、出会い頭に私とぶつかって、逃げたはずの妖精がついてくる。
言葉を理解するみたいなので、理由を聞いたら私に興味があるらしい。
ウェンディという名前の水妖だ。
ドМなんだろうか。
10月27日 曇り時々雨 風邪引きそう
昨夜、見た光景が忘れられない。
野営をしようとテントを張って、スープを作ったので奥さんを呼びに行ったら、
包丁を研磨しているところで、夜に夢で出てきそうなぐらい怖い形相だった。
魔王、悪いことは言わない。謝るなら今のうちだ……
10月28日 曇り
奥さんの包丁は抜群の切れ味だ。
包丁を借りて、狩った兎の肉を捌いたのだが、あまり力をかけないでも、ストンと骨ごと切れた。
すごいけど、切れ味良すぎるのも怖い。
10月29日
真っ赤に熟した実を食べたところ、腹具合がおかしくなった。
ウェンディが鳥も食べないと、腹を抱えて笑った。
以後気を付ける。
10月30日 晴れ
奥さんが水浴びに行った隙に、盗賊が現れた。
言葉がなまりすぎていて何と言っているかわからなかったが、ビンタ一発かましてやった。
『ギルド職員舐めんな。こちとら毎日、修羅場くぐってんだよ!』
って言ったら逃げていった。
怖かった。
言葉が通じなくとも、威嚇って大事。
10月31日 晴れ
やっとゼロホーンに到着した。
宿屋に行って、その日は泥のように眠った。
11月1日 晴れ
妖精って何を食べるんだろうと思ったら、普通にA定食を食べた。
あぁあぁ、食費が倍になるじゃない。
B定食はキノコが入っているからいやだ? 好き嫌いまであるのか。
魔王の行方はゼロホーンでも話題になっていた。
ってか誘拐されたはずのムラタさん、定食運んできたし。
なんでこんなとこにいるの。
私とムラタさんの奥さんを見て、ムラタさん、ぶわッと泣いた。
「助けて! 畑に戻りたい! 芋が待ってるんだ!」
あぁ、うん……
騒ぎを聞きつけて、魔王が走ってやってきた。
エプロンつけてるし……
なぜ魔王が、定食屋の女主人になってるんだ。
え? ムラタさんと一緒に盛り立てる……?
運命の人だ?
いや、既婚者なんですけど。
ムラタさん、すごい手を左右に振ってるよ。
とりあえず修羅場になりました。
帰ったら、お風呂入って、この前買った人生論という本が読みたい……
11月2日 曇り
魔王の顔がパンパンに腫れてた。
阿呆だなあ……
ゼロホーンのギルドに魔王を引き渡した。
後の処理は頼むよ。
ある意味、自分のギルドの管轄内で魔王が見つからなくて良かった。
魔王を収容できるような施設のない弱小国のギルドでは荷が重い。
輸送、国への報告などなど考えてもかなりの手間だ。
考えるだけで、ぞっとする。
あ、どっちにしても国への報告はしないとだめか。
やだなぁ。
11月3日
魔物からドロップしたものを換金して、食料品を買った。
またあの道を歩いて戻らないといけないと思うと、憂鬱だ。




