06 万人不同の確固たる証拠
手習い所の墨にタコ墨が用いられていたということは確定。そして、そこに毒が仕組まれていたと考えることも妥当。そうすると、残るは犯人探しというわけだが――、
おそらく、犯人はこの男――リンシとは別のもう一人の教師係の宦官。割と年配の宦官だが、コイツが毒を仕組んだに違いないってのはまあ勘だがおそらくそうだ。
だが、今はただタコ墨が用いられていたってコトしか分からないし、コイツが女官を殺したっていう証拠はない。故に、証拠を探す必要があるわけなのだが――、
そうだ――、万人不同である確固たる証拠があるではないかと、レイレイはとあることに気づく。そして、それは今ここにある道具で容易に確認することができるのだ。
「あの、リンシ様」
「なんだ、レイレイ」
リンシに頼み、早速ソレを実践しようと試みるレイレイ。彼女はリンシに用意すべき物を指示した。
「毒性のない、普通の墨はありますか。それを用意してほしいのですが」
「分かった。それを使って何かするのだな」
「はい。指紋を、指の紋様ってヤツを確認します」
「しっ、しもん??」
そう――指紋。現代となっては当たり前だが、指紋ってのが万物不同で犯人捜しの証拠になるってわかったのは近代になってから。そして、その噂ってのは西洋からここ中華の国にまで渡っていたという歴史もある。
あっ。正確にはこの小説の舞台は中国ではなく、架空の中華風の国だ。しかし、あくまで中華とほぼ同じ感じの雰囲気を保っていると、そう捉えてもらって構わない。
さて、話を戻すとしよう。
「レイレイよ。準備ができたぞ」
「ありがとうございます、リンシ様」
にしても、レイレイってやつは全く。新米下女という身分でありながら、妃に仕える優秀な宦官に平然と指示を出すとは、トンだ恩知らずだ。ってのはさておき、このリンシという宦官もさながら訳が分からぬ。初対面の平凡な下女に対しここまで奉仕してくれるイケメン宦官がいて良いものか、いやない。
とまあ、こんなこと言っていては話が進まないったらありゃしない。レイレイは早速、リンシが用意した墨を使って実験を始めた。現場にいた二人の宦官を並ばせ、こう指示をする。
「リンシ様、そしてそこの教育係の宦官様…」
「チョウコだ」
「失礼致しました。チョウコ様」
リンシとチョウコ。犯人候補である二人を使って行うのは、二人のどちらかが犯人であるかの実験。




