05 タコ毒
――タコの中には、唾液に毒を持つヤツもいる。
そう――名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか、ヒョウモンダコってヤツだ。身体に浮かび上がる青い輪のような模様がヒョウ柄に見えることからそう呼ばれたというそのタコは、非常に強い神経毒・テトロドトキシンを持っている。故、触るだけで危険なのだ。
そして、このテトロドトキシンっていう毒、厄介なことに無色透明。墨とかに混ぜたりとか容易だ。では、この毒で犯行に及んだってことで確実か――? とまではいかない。
なにせ、今回の現場は手習い所。当然、書道用の墨を用いる現場だが、そう――あくまで『書道用』の墨だ。先も話した通り、書道用の墨にイカやタコなどの生物性の墨は用いない。よって、タコ毒で犯行に及んだという線は今回の事件では無いということになる。
とまあ、色々考えたが、これですべて振出しに戻ってしまった。さて、どうするものか、レイレイよ。
と、その時だった――。
「レイレイ。この紙に書かれた墨の文字を見てくれ」
「えっ? あっ、はい」
突如、先ほど話しかけた宦官――リンシが話を持ち掛ける。彼の言うとおりに、現場にあった紙を観察する。と――、
「この文字、なにやら紙の上で線がぼやけていますね」
「そうだろ。それに、先ほどまで黒かったはずなのに今や茶色っぽく変化している」
「この特徴は――、」
ハッ――とした。刹那、レイレイの脳裏に浮かんだのは、とある知識。
タコ墨――それは確かに一般的に書道用の墨には用いられないが、そもそもその理由とはなんなのか。それは、タコ墨ってのは書道用の墨とは違い、主成分がタンパク質の一種であるムチンであるから。故に書道に用いると煙幕のように広がってしまい、シンプルに書きづらい。
また、文字を重ねて書いているうちに、茶色っぽく変色もするらしい。あっ、それって――、
そう――読者の皆もお気づきだろうが、この性質、さっき現場でリンシに見せてもらった紙の字とめっちゃ一致するっ!! あっ、ガチじゃん。ガチでコレ、タコ毒で確定じゃん。
てなわけで、タコ毒が書道用に使われてるってだけで怪しさプンプンだし、それを親切に教えてくれたリンシ様はおそらく犯人ではない気がする。いや、これもなんとなく、だけど。
とすると、犯人はおそらく――、っていや、今度は殺人の証拠探しだっ!!




