41 帰郷
四妃の食事の場が終わり、冬の園遊会は幕を閉じた。とりあえず、小鉢に毒を盛られた以外は何も事件が起きなかったのは幸いだった。おかげで死人が出るなどということもなかった。
* * *
――場所は、コウリン妃の住まう宮殿・紅玉宮に戻る。
「ご立派だったな、レイレイ」
そう言うのは宦官・リンシ。どうやら、園遊会でのレイレイの毒見に大層感心しているらしい。いや、そりゃまあそうだ。なにせ、彼女の毒見のおかげで妃が死なずに済んだのだから。仮に彼女が毒見を拒んでいたらどうだろうと思うと、ああ恐ろしい。
「ありがとうございます、リンシ様」
と、レイレイの方も彼に敬意を払った。いやまあ、彼女――レイレイにとって、毒見なんてお安い御用なのだ。なにせ、彼女の出所でも知ればそんなことはたやすく分かる。とまあ、まだこの小説は一言も彼女の過去については触れていなかった気がする。
そう――第一話にて、彼女は市井で女官狩りに会い、そしてすぐにここ・後宮に下女として売られた。だから、だ。彼女が後宮に来る前、一体市井で何をし、どういう人生を送って来たかというのは依然として謎のままなのである。それを解き明かすのがこの章――帰郷編なのである。
「レイレイ。君は大変素晴らしく、見事に妃の命を救った」
「はい。それは自分でも重々承知しております」
「それで、だ」
「それで…?」
とまあ、リンシとレイレイの話が続く。リンシの顔色が変わった。どうやら、レイレイに何か大事な話があるよう。もしかして、褒美か何かを与えてくれるかも――? いや、どうだろう。
刹那、にこやかな表情で、リンシは言った。
「一時的な処置だが、レイレイ。君に帰郷の機会を与えよう」
「きっ…帰郷ですと??」
「そそ、帰郷だ。文字通り、故郷に帰って良い、ってコトだ」
「やっ…」
やったー!! と、喜ぶレイレイ。そりゃまあ、そうだ。なにせ、このレイレイ――以前からこの後宮という窮屈な女の園での生活に飽き飽きしていた。早く市井に帰りたい――そればかりずっと考えていた。
いやしかし、気になるのは、あくまで『一時的』な帰郷だということ。だがまあ、ここで文句を言ってもしょうがない。レイレイはリンシのお言葉に甘え、すぐにこう返答するのだった。
「はい! 私――故郷に帰りますっ」
こうして、レイレイの故郷への長いようで短い帰郷への旅路が始まるのであった。




