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『親に夢を諦めさせられて医者になった俺、転生して今度こそ本気でサッカーをやる』  ~最新スポーツ医学で"90分落ちない身体"を設計し、世界一のサイドバックになる~  作者: 猫の飼い主
第五章 降りなかった者たち

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第91話 決着はユースで

 六月に、青嵐との公式戦が組まれた。


 三年になって初めての、リクとソラのいるチームとの試合だった。


 整列で、走はリクの前に立った。


 リクは走を見て、少し笑った。去年の十二月とは、笑い方が違っていた。


「走」


「……ああ」


「二番か」


「ああ」


「上等じゃん」


 走は、胸のあたりが少し熱くなるのを感じた。


 四月からこの番号を着ている。誰かに言われたのは、これが最初だった。


「……そっちこそ」


「あ?」


「七番」


 リクの背中には、七がある。去年の十二月は、別の番号だった。


「見てんのかよ」


「見てる」


「気持ち悪」


 リクはそう言って、前を向いた。


 挑発も、皮肉もなかった。


 走はそれを、少し意外に思った。


 前半、リクは走の前へ来なかった。


 青嵐から見た右。尾張から見れば、左だ。走とは反対のサイドだった。


 二十分が過ぎても、来ない。


 走の眼には、それが何を意味するか見えていた。


(――避けてる)


 いや、違う。


 この男は、避けているのではない。


 こちらの右を使わずに勝てるなら、そのほうが速い。それだけの判断だ。


 去年の十二月のリクなら、走の前へ来た。難しい道を選んで、力ずくで押し通した。証明のためだ。


 今年は、来ない。


(――来い)


 走は、そう思った。


 思ってから、その考えを一度、脇へ置いた。


 去年の十一月に覚えたことがある。来ないなら、来させればいい。走が上がれば、相手は走の裏を狙いたくなる。


 走は二度、その形を作ろうとした。


 二度とも、時機が合わなかった。一度目は海が下がっていて、裏を持てる人間がいなかった。二度目はボールが逆へ流れて、上がる前に相手の攻撃が始まった。


 それでも走は、持ち場を離れなかった。


 右で待つ仕事を、この二十分、一度も抜いていない。


 抜いていないぶん、余計に手持ち無沙汰だった。


 前半の三十五分に、青嵐が一点取った。


 尾張の左からだった。相馬が縦を切りにいって、内へ持ち替えられる。大村が寄せたところへ、ファーへ流れたボールが入った。鷲尾が触ったが、届かなかった。


 〇対一。


 走のいる右は、この時点で一度も破られていない。破られていないのに、一点取られている。


 走は自陣へ戻りながら、その事実を飲み込んだ。


 自分のサイドを閉じることと、チームが勝つことは、別のことだ。


 中一の四月に走が突き当たった壁が、形を変えてまだそこにあった。


 ハーフタイムに、走は自分から海の隣へ行った。


「氷室さん」


「なんだ」


「俺の右、使われてません」


「見てた」


「後半、上がります」


 海は走を見た。


「言うと思った」


「裏の半分を、お願いします」


 走は言った。


「もう半分は、俺が戻ります。十二秒で戻れる」


「計ってあるのか」


「去年から」


 海は短く笑った。


「上等だ」


 それから、条件を一つ足した。


「相馬の側が二本続けて破られたら、上がるのをやめろ。そっちが先に落ちる」


「……分かりました」


 走はそれを、頭の中にもう一本の線として置いた。


 後半、走は上がった。


 最初の五分で三本。


 右サイドを、四十メートル上下する。相手の左サイドハーフが、走についてこなければならなくなった。


 六本目で、その選手の戻りが遅れた。


 七本目で、青嵐の右が下がりはじめた。


 リクが、走のいる側へ回ってきた。


 守るためだ。


 攻めていた男が、走を止めるために戻ってきている。


 走の息は、上がっていた。四十メートルを七本、十分で往復している。肺の底が熱い。


 熱いのに、笑いそうになった。


「やっと来たな」


 走は言った。


「うるさい」


 リクが返した。


 二人が並んで戻る途中で、リクが続けた。


「お前、上がる本数増えたな」


「増えた」


「去年もやってたけどさ。今年、しつこい」


「しつこくした」


「なんで」


「上がったほうが、勝つからだ」


 リクは少し笑った。


「上等だよ」


 それから、リクは前を向いた。


「じゃあ、こっちも変えるわ」


 次の一本から、リクが走の前へ来た。


 今度は、走を抜くためではなかった。


 走を、下げるためだ。


 リクが持つ。走が戻る。走が上がれなくなる。


 この男は、走の攻撃を止めるために、自分から走の側へ来た。


 走を怖がっている、というのとは違う。


 走が上がることに、値段がついた。


 二年前、走が上がっても誰も気にしなかった。去年、走が上がると海が埋めた。今年、走が上がると、相手のエースが戻ってくる。


(――これが、そうか)


 走はその意味を、走りながら理解した。


 自分の設計が、相手のチームの形を動かしている。


 守るだけの選手には、これは起きない。

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