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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第一章 アルマ

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第8話:家出

幸いカミラはこちらに背を向けた状態で

ベッドに横になっている。

夕飯時には見当たらなかったので、

どこか奥から出してきたのだろう。

装飾も何もない大きくて簡素なベッドだった。


眠っているカミラの横を通って扉の内鍵を開け、

ゆっくりと押し開ける。ギシギシと音が鳴ったが

カミラが起きる様子はない。


拍子抜けするほど簡単に外に出られた私は、

二歩・三歩とネモフィラの間を縫うように

歩き出した。土と花の匂いが風に溶けて、

寂しい気持ちを運んでくる。


でも、自然と足が止まる。

逃げられることへの開放感以上に、

夜の闇に対する恐怖が私の身体を

ガチガチに固めた。


また熊が出たら?

いや、熊よりも危険な魔物が襲ってきたら……

魔法の一つも使えない私ではひとたまりもない。

クロエやドロシーに会いに行く? どうやって?

サイレントフォレストに向かう

道のりもわからないのに?


遠くから聞いたことのない獣の鳴き声が聞こえる。

気付くと私は一目散に家へと引き返し、

扉に駆け込んで内鍵を閉めていた。

暑いわけでもないのに背中が

じっとりと濡れている。


「早い帰りだったね」


振り向くと、そこには

白いナイト・ガウンを着たカミラが

腕組みをして立っていた。


「出ていくんじゃないの?」

「……」

「まぁ少しは利口だったようだね。

 そのまま進んでいたら、

 朝には骨も残らなかっただろうよ」


驚いて顔を見上げると、

カミラはふっと息を吐いた。


「この辺りには熊も出るし、

 あながち冗談でもないさ。いいかい?

 あんたが出ていくのは自由だ。

 どこで野垂れ死んでも私には関係ない。

 だから引き止めることもしないし、

 逃げるなら隠れず堂々とやってもらって

 構わない」


鋭いまなざしを向けるカミラに、

私は何も答えることが出来なかった。


「今のあんたは魔法も使えない

 世間知らずの役立たずさ。

 私があんただったら……逃げるなんて

 馬鹿なことはしない。住むところにも、

 食べ物にも困らないだけでありがたいことさ。

 死ぬほど嫌な相手との共同生活だって我慢できる」


カミラの言っていることはもっともだった。

今の私には、ただここで大人しく過ごす以外の

選択肢がない。


「少しは頭が冷えたかい? 唾を吐いて出ていくなら

 独りで生きられるだけの力を付けることだね」


背中を丸めてとぼとぼと二階へ引き返していく

私の姿は、自分から見ても情けなかった。

寝床ではメロディが自分の毛布を

抱きかかえるようにしてすやすや眠っている。


私はゆっくり隣に横になり、

現実から目をそらすように瞼を閉じた。


    ◇


翌朝、私とメロディはカミラが鍋を叩く

強烈な音と共に目覚めた。


「さあ、顔を洗ってきな。

 次は家の周りの草むしりだ。

 その後は洗濯物を取り込んで。

 終わったら朝食だよ」


急かされるままに井戸へ行き、

冷たい水で顔を洗った。

早朝の肌寒さもあり、ビックリするほど目が覚めた。

その後服を着替えるのだが着替える服がないため、

私はメロディのお古を借りた。

ボロボロの手袋を手に付けて

家の周囲の草むしりを始める。


「ねえ、早速なんだけど……」


私の傍に駆け寄ってきたメロディを見て、

カミラが遠くからすかさず叫ぶ。


「二人並んで草むしりかい?

 そんなんじゃいつまで経っても

 終わらないよ!」


メロディは青ざめた顔で小走りに

家の裏手へ回っていった。私はそのまま

入口付近の草地に腰を下ろす。

遠目にはある程度は整っているものの、

近くで見るとかなりの数の雑草が

元気よく飛び出していた。


草むしり……私の家では使用人が

毎日やっていたため、自分でやるのは初めてだ。

無造作に背の高い雑草を引きちぎって

放り投げていると、カミラが木のおたまで

私の頭を小突いた。


「こら、根っこから抜かないと意味ないだろうが。

 こうするんだよ」


おたまを私に預けるとカミラはどっかりと

腰を下ろし、素手で雑草を力強く引き抜いた。

土がパラパラと飛び散っても気にせず、

何本か引き抜くとさっと振り返り、

おたまを受け取ってさっさと家に戻っていく。


後には無残な雑草の亡骸だけが残されていた。

カミラの真似をして私も根元から引き抜いてみる。

少し力は必要な分、抜ける瞬間の

何とも言えないスッキリ感があり、

私はしばらく黙々と草むしりを楽しんだ。


「精が出ますな」


無心で雑草を抜き続ける私の傍に

見慣れない初老の男が立っていた。

その服装はどこかで見たことがある……

そう、村の自警団が着ていたような

しっかりした制服に身を包んでいる。


「初めて見る顔だ。カミラさんの……養子か何か?」


男のなめるような視線に肌が粟立った。


「カミラさんは中かね?」

「はい……」

「ありがとう」


男は紳士ぶって深くお辞儀をしたが、

その所作が妙に嘘くさく、私はすぐさま

男から距離をとり、離れた場所で

草むしりを再開した。


男がドアから中に入ってどれぐらい経っただろう。

ある程度の草むしりを終え、

私は抜き終えた雑草を一か所に集めていた。


するとドアが再び開き、中から男とカミラが現れた。

向かい合ってお辞儀をする男にカミラは反応せず、

腕組みをして仁王立ちしたままだった。


背を向けて帰っていく男の表情は非常に険しく、

今度は私には目もくれずにさっさと

丘を下って行った。


「もう終わっただろ。早く洗濯物を取り込みな」


カミラは私に乱暴に言うと、力強く家の扉を閉めた。

気持ち家全体が揺れたような気がする。

家の裏手へ向かうと既に草むしりを終えたメロディが

洗濯物を取り込み始めている。


「ちょっと、いつまで草むしりしてるのよ!

 早く手伝って!」


私は急いでメロディの反対方向から

洗濯物を取り外す。生地からは

気持ちの良い太陽の匂いがした。


「ねえ、さっき男の人が来てたよ」

「え? どんな?」

「立派な服を着たおじさん。小太りの」

「ああ……軍人さんだ。

 城下町から時々やってくるの」

「何をしに?」

「さあ? いつもカミラと何か話してるけど、

 私が聞こうとすると怒るのよ」

「ふうん」


私たちは洗濯物を家の中に取り込むと、

カミラが用意してくれた朝食を食べた。

固いパンにミルク、昨夜の残りのポテトに

ローストポークのソースが掛かったもの。


食事中はみんな無言だったが、

昨日の夕飯と比べたらまだ味がわかった。


朝食を済ませたら洗濯物を畳み、

ワードローブに詰め込む。花の飾り彫りが

施されたとても綺麗な年代物だった。


「今日は城下町に行くから、

 さっさと着替えて準備しな」

「え!」


メロディの上ずった声が室内に響く。


「遊びじゃないからね」


すぐにピシャリとカミラにたしなめられたものの、

その頬の紅潮から相当興奮していることが窺える。


私とメロディは二階に上がって服を着替えた。

メロディはお気に入りの花柄のワンピース、

私は彼女のお古、モスグリーンの

分厚いチュニックを着た。

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