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ALMA -とある魔女のお話-  作者: 廃墟のロボット


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第5話:叔母の家

挿絵(By みてみん)

(カミラ:AI生成)



近付くほどに大きくなっていく叔母の家は、

クリーム色の外壁に四角窓の付いた

シンプルなもので、小さな煙突から

薄い煙が立ち上っていた。


耳に届くのは周囲の風の音だけで、

玄関の前に立っても

人気(ひとけ)が感じられない。


私は少しホッとした。もし留守となれば、

このまま会わずに済むと思ったからだ。

重そうな焦げ茶色の扉に付いた

真鍮のドアノッカーに手をかけ、

軽く叩こうとした瞬間、

内側から勢いよく扉が開いた。


出てきた背の高い女性が、

驚いて飛びのいた私を怪訝そうな顔で見つめる。

深い緑のワンピースに純白のエプロン、

ブロンドの髪には強いパーマが掛かっていた。


「……アルマ?」


切れ長な瞳をより一層細くして女性が呟き、

私は恐る恐るお辞儀を返した。


「あなたがパキタの娘?」


パキタは私のお母さん…だった人の名前だ。


「はい」

「そう……もう来ないかと思ってたわ」


女性はそう言ってくるりと私に背を向けると、

家の中へ引き返しながら

「早く入りなさい」とため息交じりに続けた。


言われるがままに扉をくぐる。

室内には窓からの陽光が入るが、

それほど大きくはないため、隅の方は薄暗い。


壁の棚にはいくつもの瓶詰めのジャムと、

重なったラクレットチーズが

几帳面にピッタリ収まっていた。


奥にあるキッチンでは何かが煮込まれており、

煙がどんどん煙突に吸い上げられていく。

ふと懐かしいセージの香りが漂ってくることに

気付き、気持ちが少しだけ軽くなった。


「座って」


長テーブルに向かい合って置かれた立派な木の椅子。

それはかなり重かったため、

引く際に少し手間取ったが

私は促されるままに座った。


向かいに座った女性は品定めをするように

私のことを観察した後、

テーブルに肘をついて前のめりに顔を近づけた。


「どう? 親に捨てられた気持ちは?」


私は思いもよらない問いかけに、

何も答えられず俯いた。


「魔女になれなかった出来損ないだって?

 だから用済みになったわけだ」


女性は椅子の背に深くもたれ掛かり、足を組んだ。


「……何とか言ったら?

 魔女じゃなくても口ぐらい利けるでしょう?」


そう言われた私は大きく息を吸って

心を落ち着かせ、女性の目を見て話し始めた。


「家を出てから滝に落ちて、

 そこで魔法使いの人に助けてもらいました」


女性がわずかに反応する。


「ほんの数日だったけど、手当をしてもらって、

 一緒に過ごしました。とても楽しかったです。

 お母さんのことも忘れるくらい。

 だからもう良いんです」

「へぇ、驚いた。滝の先っていったら

 サイレントフォレストだね。

 “(つい)の魔女”の伝説があったけど……」

「ついのまじょ?」

「ただの子ども騙しさ」


女性はそう言って椅子に深く座り直し、話を続けた。


「私もね、妹があんなだからそういう噂も

 多少は知ってる。あの森はね、魔法使いの墓場さ。

 寿命が来た魔法使いは皆あそこに呼ばれる。

 そこで数日暮らして、オドに殺されるんだ。

 眠るように逝けるらしいよ。

 終の魔女はそこの番人。魔法使いにとっちゃ

 死神みたいなもんさ」


ドロシーとクロエが森の番人だなんて話は

もちろん聞いたことがない。でもふと、

あの時のドロシーの台詞が私の脳裏を過ぎった。


“ダメよ。ここはそんなに良い所じゃないの”


なぜあの二人が森の中で自給自足の生活し、

外に出ずに暮らしているのか?

その理由が今の話であるなら納得はいく。


ふと目を上げると女性がこちらを

じっと見つめていることに気付いた。


「金は?」


そう言われてハッと息をのむ。

お母さんに貰った銀貨のことを忘れていた。

敗れた羊皮紙はドロシーが持っていたが、

銀貨の袋はどこへ行ったのだろう?


あの二人がこっそり持ち出すなんて

考えられない……。そうとなれば滝に落ちた際に

散り散りになってしまったと考えるのが自然だ。


「パキタは何も持たせなかったの?」

「……」


女性は下を向いて黙り込む私を見て

呆れたようにため息をついた。


“なくしました”、そう言いかけたとき、

不意にポケットに何かの重みを感じた。


右手で探ってみると冷たくて

ゴツゴツした塊に指がふれる。

出てきたのは手のひらに収まるほどの

石ころだった。


近くで見ると石の中に青い光の明滅が確認できる。

それはまるで小動物が呼吸をしているかの

ようだった。


「それは……」


女性が私の手に視線を落とし、

コンコンとテーブルの上を爪で叩いた。

私がよくわからないまま石を置くと、

女性はさっとそれを手に取り

ポケットから出した錆びかけのモノクル越しに

まじまじと眺めた。


時折光にかざすように上や下へと

石を移動させる。


「これは? パキタに貰ったの?」


女性が石から目を離さずに私に話しかけた。


「いいえ、わかりません。

 気付いたらポケットに……」


女性は手早くモノクルをしまうと、

石をエプロンで優しく磨いた。


「あんたの話は本当だった。

 終の魔女に会ったんだね。

 私はカミラだ。これは駄賃に貰うよ」

「あっ」


カミラと名乗った女性が石を持ったまま

背を向けようとしたため、私は思わず声を漏らした。

あれはきっとドロシーとクロエが

私に持たせてくれたものだ。


2人との思い出が奪われてしまう……

そんな気がして堪らなかった。

カミラは相変わらず冷たい目で

こちらを睨んでいる。


「お前をタダで家に置いてやるんだ。

 文句は言わせないよ」


この人からは少しも優しさが感じられない。

でも不思議と悪意も感じられなかった。

あんなに優しかったお母さんは私にずっと嘘をつき、

挙句の果てに私を捨てた。


……それなら表向きの優しさなんていらない。

もっと強くならないと。


「わかりました。私は何をすればいいですか?」


カミラは私の態度が変わったことに

少し驚いたようだった。


「随分聞き分けが良いんだね。

 じゃあまずは洗濯でもしてもらおうか。

 洗い物は家の裏にある。

 すぐそばの川で洗ってきて頂戴」


私は無言で立ち上がり、

入ってきた扉に手を掛けようとする。


「そっちじゃない。ほら、

 裏口があるからそっちから出て」


手際よくエプロンの紐を結い直しながら

カミラが家の奥を指さす。そこには樫の木で出来た

一回り小さな焦げ茶色の扉があった。


扉は建付けが悪く、開こうとすると

ギシギシと嫌な音がした。

外の明かりが一気に室内に広がり、

緑の匂いがフワッと鼻まで届く。


家の裏手にはバスケットに山盛りの洗濯物が

置いてあり、一直線に続く枕木の道が

川までの歩みを促すように伸びていた。


バスケットは両手で持てないほどの

重さではなかったが、これが水を吸った後に

どうなるかを想像すると気が滅入る。


とはいえ、あの室内で二人顔を合わせているよりは

幾分マシだと思い、私は早歩きで家から離れた。

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