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ALMA -とある魔女のお話-  作者: 廃墟のロボット


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第4話:3人での日々

挿絵(By みてみん)

(サイレントフォレスト:AI生成)



「そうだよ」


即答だった。


「ひょっとして私のことも魔法で治療を?」

「うん!」


本物の魔法使いを見たのは

両親を除いて初めてだった。


「二人はここで何を?」


クロエはチラリとドロシーの顔色を

うかがってから話し始めた。


「ごめんね、私たちのことはあまり話せないの。

 ここは秘密の場所だから」


私がえっと声を漏らすと、ドロシーが会話を遮った。


「アルマ。色々なことに目を向けるのは良いけど

 まずはクロエに御礼を言って。それと、

 あなたのこともちゃんと話して」


そうだ、私は命を救われてから

今まで一言のお礼もしていなかった。


「怪我を治してくれて、美味しいご飯も作ってくれて

 ありがとうございました。私は」


そう言いかけた時、不意に絶望が押し寄せる。

私にはもう帰る場所も、生きる価値もない。


「私はま、魔女じゃなかったので、

 それで……お母さんに捨てられました。

 もう戻る場所はありません」


言葉が上手く出てこなかった。


「……これは?」


ドロシーは千切れて黒く変色した羊皮紙を

私の前に差し出した。

それはお母さんが私に渡した地図だった。


「叔母の家への地図です」

「ここに行けと言われたの?」

「はい。でも会ったこともない人です……」


ドロシーは諭すように続けた。


「戻る場所がないなんて、簡単に言ってはダメ」


それは悲しさと厳しさが入り混じった言葉だった。

ドロシーが目配せすると、クロエが立ち上がって

私の隣へ寄り添った。


クロエが暖かい手で私の肩を撫でるものだから、

たまらなくなった私は思い切って言った。


「ここにいちゃダメですか?」


まだ出会ったばかりの人に

こんなことを言うのは図々しいし、おかしい。

でもとにかく心細くて仕方がなかった。

ドロシーは私の問いに首を横に振る。


「ダメよ。ここはそんなに良い所じゃないの」


どこだって叔母の家に比べれば……

口から出そうなその言葉をぐっと飲み込む。


当たり前だ。

突然流れ着いたわけもわからない人物を

受け入れてくれるわけがない。


「……はい」


クロエの食事を口にしてから身体が

いつもよりも軽く、怪我がほとんど

完治していることはわかっていた。

本来なら喜ぶべきことなのに、

治ったらここを出なければならない事実が

余計に私を追い詰めた。


その後、1週間ほどではあったが

私は二人の家で療養した。

生活を共にする中で

2人がサイレントフォレストで

暮らす理由は話してもらえなかったが、

代わりにいくつかわかったことがある。


【サイレントフォレストを

 訪れる人間は皆無であること】


【2人は完全な自給自足の暮らしをしており、

 その日に食べるものをその日に収穫すること】


【オドが宿った食材は、口にするだけで

 免疫力を高めてくれること】


【森には意識があり、

 オドは悪意ある者に対しては毒となり、

 好意的な者には薬となること】


【ドロシーは本当は人間だが、

 自分の意志で猫の姿に変化していること】


どれも日常生活では役に立たない知識だったが、

私のとっては掛け替えのない二人との絆だった。


一緒に植物や果実を収穫したり、

ジィを遠くから観察したり、

たくさんのハナニラに囲まれて昼寝をしたり、

釣りをしたり……。


クロエとドロシーは私の怪我が

既に完治していることを知りながらも、

休息する時間と猶予を与えてくれた。


夜中にはクロエがドロシーと

私の枕元で話していたこともあった。


「アルマはすっかり元気になったね」

「うん……でももうお別れかと思うと寂しいよ」

「これでいいのよ。絶望を知っているからこそ、

 あの子は大丈夫」

「うん。きっとそうだね」


頭を優しく撫でるクロエの手が気持ち良くて、

私はそのまま眠ったふりをした。


楽しい時間はあっという間に過ぎていき、

ついに森を出る日がやってきた。

元々着ていた服や靴は使い物にならないため、

白いポンチョ、簡素なズボン、清潔な下着、

柔らかくて丈夫な革製の靴を着させてもらった。


クロエと共に家を出る際、

ドロシーは玄関先で私に屈むよう促すと

二本足で立って私のおでこにキスをした。


「頑張ってね。今だけ抱っこしてもいいわよ」


その言葉を聞いた私は、

全身でドロシーを抱きかかえた。

ずっと我慢していた気持ちをすべて吐き出すように

数分間抱き着いていると、

ドロシーが居心地悪そうに身体をよじった。


とても暖かくて柔らかくて、

身体からは太陽の匂いがした。


その後、ドロシーと別れた私はクロエと2人で

広大な森の中を歩いた。かなりの時間を要したが、

不思議と息切れはなく、汗が出る事すらない。

クロエによれば森に流れるオドが私たちを歓迎し、

手助けしてくれているそうだ。


途中、私のポンチョの背中を

クロエが指で何回かなぞった。


「心が元気になるおまじないをしたよ」


と言ってニッコリ笑ったが、私はそれに対して

苦笑いを返すことしか出来なかった。

森が終わる気配が強まっていたからだ。


出口付近に到達するとクロエが立ち止まり、

私の背中をポンポンと叩いた。


「私は森から出られないからここでさようなら。

 このまま真っすぐ行けばすぐに着くよ」


ほんの数日一緒に居ただけなのに、

拠り所のない私にとって

クロエは大きな存在になっていた。


「また会えるかな?」


私がそう言うとクロエはスグに大きく頷いた。


「私、またあなたと会う気がするの。

 だから大丈夫!」


私は恐る恐る森から一歩を踏み出す。

強い風が吹いたと思うと、

次の瞬間私は小高い丘の上に居た。


辺り一面に緑の絨毯が広がり、

目の前でうねった一本道が

一軒の家へと繋がっている。


後ろを振り返るとクロエはおろか

森そのものがなくなっており、

緩やかな下り坂が続いているだけだった。


夢の中に居るような

曖昧な感覚が薄れてくると、

青臭い匂いが鼻に届いてきた。


「いってらっしゃい!」


クロエの声と一緒に背中に

手のひらのぬくもりを感じた。


目と鼻の先に見えている黄色い三角形が叔母の家。

不思議と緊張や恐怖を感じないのは、

すぐそばにクロエとドロシーの存在を

感じていたからだ。


私はほんの数十メートル程度の一本道を一歩ずつ、

それこそ十数分かけてゆっくり歩いた。

足元で揺れるネモフィラがチラチラと目に入って

少しだけ気が遠くなった。

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