第37話:命のやりとり
男の巨体を支える足元へ
渾身の力で棒を振り抜く。
棒がぶつかると鈍い音が響き、
男から苦悶の声が漏れる。
下がった頭に向けてそのまま二発目。
男はたまらず仰向けに倒れ込んだ。
巨躯がぶつかった拍子に床が大きく軋む。
今度はもう一人の痩せ型の男の方が
抜き身の曲刀で横から切りかかってきた。
棒で受けようとしたところ、背後から
メロディの放ったリンゴほどの大きさの光弾が
男の頬にぶつかる。ぎゃっと嫌な声を上げて、
男は廊下まで吹っ飛ばされた。
壁に激突した鈍い音が聞こえてくる。
私はひとまずその場から一歩下がり、様子を窺った。
倒れていた男は目をしばたたきながら
のそのそと起き上がり、廊下に出てから
倒れた相棒を助け起こすと、再び部屋へと戻ってきた。
「おい……本気でやるぞ。ここまでやられちゃあ
名折れだ。二人とも殺してやる。
いいよな? 代官さまよぉ」
ヴァーノンは世話が焼けるといった態度で
呆れた表情をつくったあと、わざとらしく
大きく頷いた。
棒を握る手にぐっと力を入れる。大丈夫。
さっきの感じなら問題なくやれる。心配ない。
男に向けて再び踏み出そうとした瞬間、
鼻先を刃が掠めた。
思った以上に曲刀が大きく、間合いを見誤った。
ぞくっと背中が寒くなる。まずい、気後れした。
男は止まらず再度切りかかってきた。
なんとか直前に棒で防いだが、力は格段に男が上。
そのまま押し切られる!
「アルマ!」
メロディによって放たれた光が
男に向かって飛んできたが、
刀の身幅で受け流され、天井にぶつかった。
棒から刀が離れた隙に一歩下がる。
“杖術は力を真っ向から受けてはだめ。
受け流して反撃の起点を作るんだよ!”
カミラの教えが頭に浮かぶ。でも……恐い。
これが殺意? これが命のやりとり?
まるで大木を振り下ろされたような衝撃だった。
震える足を強く叩く。
メロディの方に目をやると、
いくつもの小さな光の玉を
自分の周囲に浮かべ、もう一人の男が
近付けない様に防御している。
でもそれも時間の問題。
既に何度か魔法を使っている……
早く助けに行かないと魔力が心配だ。
「よそ見をしてんじゃねえ!」
大柄の男が再び突進してくる。
カミラは難なくバイコーンの一撃を受け流していた。
私だって……やらなきゃ!
グッと棒に力を込めると、棒の表面から
手の甲に何本もの細いツタが這い出してきた。
でもそんなことを気にしている場合じゃない。
男の刀が一直線にこちらに切りかかって来る。
カミラの杖術と比べればこんなもの遅い。
冷静に方向を見極め、斜に構えた棒の表面を
滑らせるように受け流そうとする。
ただ、そこで想定外のことが起きた。
曲刀と棒が触れるや否や、凄まじいスピードで
ツタが刃の表面を這いまわり、それは瞬時に
男の手元まで達した。
「うお!?」
男は驚き、得物を引こうとしたものの、
刀と棒の接地面は溶接されたようにくっ付き、
私と引っ張り合う形になった。
「くそ、なんだこりゃ!」
男が両手で力いっぱい引いたとき
突如ツタが千切れ、そのまま後ろに
倒れ込んだ。
まるで……一緒に戦ってくれているみたい。
そう思った瞬間、棒の中で何かが動く。
重心が移動した感覚。中央から先端へ。
私はここぞとばかりに大振りに棒を振り上げ、
天高くから倒れた男に振り下ろした。
胸当てが拉げるほどの衝撃で
押しつぶされた床の一部に穴が開き、
バキバキと音を立てる。埃が宙を舞った。
うめき声を上げ、男がそのまま動かなくなる。
「情けねぇやつだ!」
もう一人の男がしびれを切らし、
メロディから離れて私の方へ走ってきた。
急いで棒を取ろうとするも、深く凹んだ
胸当てに挟まり、うまく取り外せない。
私はひとまず棒を捨てて身軽になり、
男の切り払いを避けながら
メロディの隣まで近付いた。
「メロディ!」
握ったその手は僅かに汗ばみ、震えていた。
「ありがと!」
メロディが杖を指揮棒のように小さく振ると
周囲に舞っていた小さな光が消え、
今度は巨大な一つの光の玉に変化した。
こちらに向かってこようとする男に向けて
杖を振りぬくと、玉は思った以上のスピードで
男にぶつかると、そのまま壁まで押し出す。
最後は叫び声を上げる男を押しつぶしたまま
その場で破裂し、火花のような煌きを残して消えた。
男の胸当てや服の表面が焦げているのを見ると、
かなりの高温だったことが窺える。
嘘のように静かになった室内。
意識を失い、倒れる男二人。
そしてまだ一人、私たちの敵がいる。
「いやー、まさか。こんな子どもが
ここまでやるとはね。驚いたよ」
ヴァーノンは余裕たっぷりの表情で
腰元から美しく装飾されたサーベルを
引き抜いた。
「こんなならず者に頼った私が
馬鹿だったよ。さぁ、今諦めるなら
許してやろう。まだ死にたくはないだろう?」
ヴァーノン、この男自身も戦うとは
思いもしなかった。到底鍛えているようには
見えない細い二の腕。ベルトのバックルが
食い込んだ、だらしないお腹。
まるで英雄を気取っているかのような
大袈裟な構え……。
しかし油断は出来ない。何か特別な技や
魔法を使ってくる可能性もある。
メロディがこちらに目配せしたが
私は彼女の手を放し、男の胸当てから
乱暴に棒を引き抜くと、
独りでヴァーノンの前に立った。
この男には聞きたいことが山ほどある。
強力な魔法で意識を失わせるわけにはいかない。
ここは私だけで対処するんだ。




