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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第35話:盗み聞き

この宿は素泊まりのため、

私たちは今日買ったパンに

バターとチーズを乗せて食べた。


そのままでは味気ないため、

メロディに魔法でパンの表面を

焙ってくれないかとお願いしてみた。


「こんなことに私の魔法を使うなんて……」


メロディは明らかに不満げだったが

やってみるとこれが意外と上手くいき、

バターの溶けた香ばしい匂いが室内に広がる。

食欲には逆らえず、メロディ自身も

自分のパンを焙って食べながら

頬を緩めていた。


「メロディも頑張ればパン屋さんになれるかも?」

「嫌よそんなの! 私はもっと凄い魔女になるんだから!」

「凄い魔女ってどんな?」


私の問いにメロディは少し悩んだ後、

決心したように答えた。


「誰からも凄いって認められる魔女よ。

 私を捨てたり、バカにした連中が後悔するぐらい」

「……きっとなれるよ」


メロディは凄い。辛かった思い出から目を背けず、

さらに自身の誇りも失わずに前に進もうとしている。


私も親に捨てられた身ではあるものの、

もうあの頃の自分は無かったものとして

考えているし、ここ最近は昔のことなんて

記憶から消してしまおうとすら思っていた。

そうでもしないと心が耐えられないから。


「アルマには夢はないの?」


メロディが今度は私に聞き返す。

夢……そんなこと考えたこともなかった。

私は魔女にはなれないから、将来は

普通に大人になって、普通に結婚して、

普通に家族をつくっていくのかな。


それかカミラみたいに一人で暮らして

ジャムづくりでお金を稼ぐのもいいかもしれない。

ああ、杖術を練習して人に教えられるぐらいに

なれば、そっちの道もあるかも。


「……」


いくら考えても私には答えが見つからなかった。

どれも全然魅力的じゃない。

私のやりたいことって何なのだろう?


「……いいわ。見つかった時に

 教えてくれれば」


次のパンの切れ端に手を伸ばしながら

メロディはサラッとそう言った。

それはきっと彼女の優しさだったのだろう。

私は手元のパンを齧りながら、

麦の素朴な香りで心を落ち着かせた。


パンを食べ終えた私たちは

昼間の買い物の疲れもあり、

布巾で身体を拭いてから下着のままで

ベッドに横たわって、今日のダンスショーの

感想を言い合った。


あの踊り子の名前はなんだろう?

どこの国の人なのかな?

本当に綺麗な魔法だった!

毎日やっているのかな?


そんな他愛のない話が面白くて

夜更けまで話し込んでしまい、

私たちはいつの間にか寝入ってしまったようだ。


気付いたときには既にランプの灯が消え、

足元を照らすのは窓からの月明りのみ。

今自分が王都の宿に泊まっていると思うと、

それだけでなんとなく心が躍った。


隣のベッドですやすやと眠るメロディに

毛布を掛けた後、私も再び横になろうと

したのだが、不意に人の話し声が聞こえてきた。


それは男の声だったが、何を言っているのか

までは聞き取れない。ただ、音の出どころは

すぐ近く……おそらく右隣の部屋だ。


私は興味本位でベッドから降り、

音のする方の壁にそっと耳を当てた。


「それにしても上手く考えたよな。

 あの女を利用するなんて」

「魔女ってのは警戒心が強いからよ~。

 俺も苦労したぜ?」


粗雑な声の男が二人、小声で話している。

“魔女”という言葉が聞こえた瞬間、

私はより強く壁に耳を押し当てていた。


「まぁ結局は“代官さま”のお力添えのお陰だな。

 さあ今日はたっぷり飲んでくださいよ」

「いやいや、これは私たち全員の手柄じゃないか。

 一緒に楽しんでくれたまえ」


男二人のほかにもう一人、

聞こえてきた妙に鼻につく男の声。

私はその声に覚えがあった。

突然激しい焦燥感に襲われる。


酒を酌み交わしながら大声で笑う男たち。


「あの女、アウシュラのことを話したら

 血相変えて馬車に乗っていったよ。

 もう一度あの顔を拝みたいぜ」

「自分が故郷を襲うことになるなんて

 想像もしてないだろうさ」

「これ、あまり大声を出すんじゃない。

 誰が聞いてるかわからんからね」


あの男、ヴァーノンが男二人をなだめている。

アウシュラ……魔女……まさかヘレナのこと?


「でもヴァーノンさん、ここだけの話さ。

 その魔術っていうのは魔女にでも効くのかい?」

「問題ないさ、もう実験も済んでいるしね」

「あれかい? 王都に出た蜘蛛蛇!」

「それは別だよ。あれは人間ではなく本物の魔物だ。

 試したのはバイコーンのほうだよ」


男たちは一瞬静かになった後、

これは傑作だ、と言いながら再び大声で笑った。


「あのバイコーンの件もあんたの仕業だったのか!

 こいつは凄い。するとあれは誰だったんだい?」

「辺鄙(へんぴ)な村の長だった魔法使いさ。

 大した魔力はないが、パン屋も同じようなものだろう」


ヴァーノンが笑う。私は震える身体を抑えきれずにいた。

この人たちは一体何の話をしているんだ? 

ヘレナに何かしたというのか?


「アウシュラとディムドは元々いがみ合って

 いたからな。戦争が始まってお互いに

 潰し合ってくれれば……ヴァーノンさんの

 一人勝ちってもんさ」

「ふん、たかが領地のくせに魔法使いどもを

 集めて、ルイーザ様に取り入ろうとした罰だ。

 奴らは大きくなり過ぎた」


詳しいことはわからない。けど、とてつもなく

悪いことがアウシュラで起ころうとしている

ことは事実だ。ヘレナ、カミラ……


私はそっと壁から身体を引き離す。

しかし、思いの外体重を掛けていたため、

床が大きく軋んでしまった。その瞬間、

騒がしかった男たちの声がピタリと止まる。

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