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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第34話:王都の夜

その後もダンスショーは数十分続き、

大盛況のまま閉演した。踊り子が馬車に戻るまで

誰もが彼女を羨望のまなざしで見つめており、

中には祈りを捧げる人物までいるほどだった。


「凄かったね……」

「うん、来れて良かった……」


私たちは屋根の上で寝転がり、

満点の星空を眺めていた。人々の声が徐々に

遠ざかり、広場の松明が一つずつ消されていくたびに

星の光と空の群青色が濃くなっていく。


「なんだかまだ夢の中に居るみたい」

「ねぇ、私思ったんだけどさ……」


メロディがふと上半身を起こし、

真剣な表情で私に向き直った。


「今から帰るなんて危ないじゃない?

 だから王都に泊まっちゃう……なんてどう?」

「えっ!!」


私がその場で勢いよく起き上がると、

屋根の瓦がカタカタ鳴った。


「王都なんだから空いてる宿屋なんて

 いくらでもあるでしょ? お金だって

 まだ余ってるし……」


メロディは銀貨の入った巾着袋を手に取り、

中身をじっくり確認した。


「ほら、結局食料しか買ってないじゃない!

 たまにはフカフカのベッドで寝てみたいわ」

「でも王都の宿って高いんじゃない……?」

「そりゃあ良いところは高いだろうけど、

 観光客用の安宿なんていくらでもあるわ!

 ほら、早く探しましょうよ!」

「うーん、いいのかな……」


口ではそう言ったものの、王都に一晩

泊まるだなんて滅多に出来ない体験だ。

私の胸はこれまでにないほど高鳴った。


梯子を慎重に下りた後、私たちは宿を探して

軒先に灯るランタンを頼りに再び町へ繰り出した。

しかし大通りに面する宿は大体が割高で、

少し奥まった場所まで行かないと

現実的な値段の宿はなさそうだ。


いくら比較的安全な王都とはいえ、

やはり闇の深い場所を子ども二人で

歩くことには多少の抵抗があった。

かといって夜警に話しかければ、

子どもという理由からもっと面倒なことに

なりかねない。


「ねぇ、やっぱり帰ろう? 危ないよ……」

「はぁ? あんたこういうときのために

 棒術をやってるんでしょ!

 しっかりしなさいよ!」


それはそうなのだが、夜の闇はやはり怖い……。

せめて宿がどこにあるかぐらいわかればいいのだが。


「そうだ!」


メロディが何かに気付いたようで

バッグの中に手を入れると、例の石を取り出した。


「さぁ、安くて快適な宿まで私たちを案内して!」


メロディの願いに呼応するように

石がぼんやり輝き、その場にふわふわと浮き始めた。


「うそ!? そんなことも出来るの?」

「物は試しよ! ほら、宿はどっち?」


石は左右に少し揺れ動いた後、

ルイーザ城のある方角へゆっくり飛び始めた。

私たちは石を追いかけ、右往左往しながら

暗い小道を歩き続ける。


やがて一軒の二階建ての建物の前で

石はゆっくり停止し、その場にコロンと落ちた。

そこは宿屋とレストランが合わさった店で、

一階で数人の客が静かに酒を酌み交わしている。

鳥が描かれたステンドグラスがランプに照らされ、

美しい光沢を放っていた。


“宿屋 カラスの吐息”


使われている木材はカラカラに乾いており、

まるで枯れ木のようにも見える。

良く言えばアンティーク調、悪く言えばボロ屋だ。


私たちは床を軋ませながら恐る恐る店に入り、

店主らしき女性に話しかけた。


「えっと……今晩部屋は空いてますか?」

「部屋? あんたらが泊まるの?」


逞しい腕で頬杖をついていた恰幅の良い女性は

私たちを見るなり訝(いぶか)しげな視線を向けた。


「親は? 金はあるの?」

「お金ならあります」


メロディがカウンターの上に銀貨1枚を乗せると

女性は軽く頭を掻いてから店の奥に行き、

古く錆びた鍵を一つ持ってきた。


「二階に三つある部屋の真ん中だ。

 サービスはない。素泊まりだよ」


女性はそう言って鍵を手渡すと、

ホールに出てテキパキと木製のマグを

片付け始めた。


私たちは半ば逃げるように

壁沿いに続く階段を上り、二階へ向かった。

そこでは三つの扉が横一列に並んでおり、

言われた通り中央の鍵穴に鍵を差し込む。

建物が傾いているのか、ガチャンと金具が

外れる音と共に、扉は勝手に内側へと

勢いよく開いた。


そこは思っていたよりは整った部屋で、

薔薇の彫刻が入ったベッドが二つ、

部屋の中央に並べて置かれていた。

シーツの膨らみからして羊毛の

暖かそうなベッドだ……今夜は良く眠れそう。


壁には長テーブルが備え付けられており、

その上に水の入ったバケツと

キレイな布巾がいくつか畳まれている。


窓枠には小さめのステンドグラスが

はめ込まれており、月明りがカラフルな影を

室内に落としていた。


メロディが窓際に掛けられた灯油ランプを

手に取ると、慣れた手つきで小さな光を

芯に飛ばして火をつけた。なんて便利なのだろう!


私たちはひとまずベッドに腰掛けて

灯りを頼りにまじまじと部屋の中を観察した。


「ちょっと地味だけど、

 まあ贅沢は言ってられないわね」

「十分だよ……それにこのベッド!

 とっても気持ち良いよ!」


私は柔らかい枕を抱きながら

敷かれた毛布の上をごろごろと

転げまわった。さすが王都だ。

物置の寝室よりも、カミラのベッドよりも

何倍も気持ちが良い。


「大通りからは少し離れるけど、

 この値段でこれなら良い方ね!

 石ころに感謝しなきゃ……」


メロディがバッグをどさっと床に置き、

例の石を中から取り出してそっと撫でた。


「私の魔道具はいい感じだけど……

 アルマのはどうなの?」


私は自分のバッグから飛び出た

茶色い棒をゆっくり引き抜き、

壁に立て掛けた。コツンと

金属がぶつかるような不思議な音がする。


「わからない……家に帰ったら稽古で

 使ってみるつもり。これにも何か

 不思議な力があるのかも」


そう言ってはみたものの、

何だか得体の知れないこの魔道具が

私には少し怖かった。

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