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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第33話:星屑のダンス

「きゃっ!」


声の方に目をやるとメロディのバッグが

もぞもぞと動いている。まるで中で小動物が

暴れているような見え方だったため、

私は後ろからバッグの紐を緩めた。

すると黒い何かが瞬時に外へ飛び出す。


それはあの老婆から渡された黒い丸石。

一度勢いよく天に舞い上がった後

私とメロディの間に急降下し、中空に留まった。

ふわふわと浮かびながら小さく左右に揺れている。


「急になんなの!? びっくりした……」


メロディの声に反応したように

石はゆっくりと大通りから逆の方向へ進み始めた。

しかし途中でピタリと止まり、

そのまま動かなくなる。


「もしかしてメロディを呼んでるんじゃない?」

「え? まさか……」


試しにメロディが石に近付くと、

一定間隔を保ちながら石が直進する。


「やっぱりそうだよ! 付いていってみようよ」

「えー! もうすぐショーが始まっちゃうのに

 そんなことしてる場合?」

「ひょっとしたらまたメロディの願いに

 反応したのかもよ?」


願い? とメロディは首を傾げたが

スグに何かに気付いたように目を

大きく見開いた。


「よく見える場所を

 案内してくれるってこと!?」


私たちは周囲を一度見まわしてから

そろそろと人々の列を抜け出し、

石が飛んでいく方向へと急いだ。


大通りから横道へ逸れ、

店と店の間を縫うように走っていく。

路地裏は多少暗かったが、至る頃に立つ松明の

灯りのおかげで何とか足元までは見通せた。


丸石の輪郭はぼんやり光を帯びており、

暗闇の中でもその位置はわかりやすい。

急な土階段を登り、ショー会場の

丁度真裏辺り、民家が密集する場所に出た。

ほとんどの家の明かりは消えており、

かび臭いニオイが充満している。


石は突然薄暗い行き止まりで停止した。

しかしここからでは家と家に挟まれて

とてもショーの観覧は出来ない。


頭に疑問符を浮かべている途中、

それまで乱雑だった楽器の音色がピタリと止まり、

ワッと歓声が漏れる。おそらく踊り子が

登場したのだろう。


「ちょっと! もう始まっちゃうじゃない!」


メロディが石に近付くと、

今度はその場で垂直に上昇し始めた。

その後コツンと音を立て、一軒のなだらかな

平屋根の上に着陸する。辺りを見回すと

古びた梯子が地面に寝かされてあった。


「もしかしてこれで登れってこと……?」


その梯子はかなり頼りない見た目ではあったが、

屋根に向かって斜めに立て掛ければ

丁度上まで届きそうなほどの長さだった。


ここまで来たら最後までやってみようと

私たちは二人で梯子を立て、音を立てないように

誰が住んでいるかもわからない家に向かって

梯子を引っ掛けた。ガタっと鈍い音が鳴ったが

部屋の明かりが点く様子はない。


まずはメロディから先に足を掛ける。

一歩踏み出すたびに梯子が悲鳴を上げた。

しかしメロディはみるみるうちに

梯子を登り終え、屋根を伝って奥へと進む。

一瞬視界から消えたものの、スグに

満面の笑みを浮かべて戻ってきた。


「凄いよ! 早く来て!」


その声を聞いて私は興奮を抑えられず、

一目散に梯子を登って屋根の上へ向かった。

そこからは遥かな天空が見渡せるだけでなく、

大通りの中心で今まさに始まろうとしている

ダンスショーの全貌が鮮明に見えた。


多少の距離はあるものの、臨場感においては

最前列で観賞する人々にも負けず劣らず。

遮るものが何一つない特等席だった。


「あんたが連れて来てくれたの?」


メロディがうんともすんとも言わない

シャーマナイトを拾い上げ、手の平で

優しくポンポンと叩く。それはまるで

ペットを愛でる飼い主の姿に見えた。


「凄い眺めだね。カミラの家から見たときの

 何倍も凄い……」

「そうね……あ、ほら! 始まるみたい!」


人々が円形に取り囲むその中心へと

踊り子が歩を進め、両手の指先で

スカートの裾を柔らかく摘まみ上げると、

ピタリとその場で静止した。


ブラウスに織り込まれた金の糸が

キラキラと光を反射している。


静まり返る広場……しかし次の瞬間

民族衣装に身を包んだ男性が、

見たことのない弦楽器を力強くかき鳴らした。


そこにギターやハープ、笛のような楽器の

美しい音色が合わさっていく。どれも

一般的なそれとは違う、歪な形状の楽器だった。


演奏が最高潮に達した頃、踊り子がその場で

くるりと一回転し、すらりと伸びた腕で風を切った。

まるで蛇のようにしなやか動き。

激しいステップでスカートが舞い上がる。

風を司る精霊シルフィードのように

そのダンスは見る人すべてを魅了した。


周囲から歓声が上がっても、踊り子は

眉ひとつ動かさず、目を閉じたまま風を纏い続けた。

今この場で生まれるどの音よりも最初に耳に届くのは

彼女のダンスシューズが奏でる小さな音色だった。


私とメロディは屋根の上で息をするのも忘れるほど、

彼女に釘付けだった。時折うっすら開けた

その瞳から視線を感じると、胸が高鳴る。

たとえ纏っている服がボロきれ一枚だったとしても、

その美しさは変わらないだろう。


演奏者の一人が手に握った何かを

おもむろに踊り子の頭上へ放り投げた。

金色の砂のようなものが舞い上がり、光を反射する。

その輝きは地面に落ちることなく、女性の周囲を

取り囲むように浮かんだまま、中空に停滞した。


恐らく風の魔法の一種だろう。

女性は柔らかい関節を駆使し、

星屑の中を縫うように舞踏を続ける。


「なんて綺麗なの……」


メロディがため息交じりに呟く。

これがあの日見たかったキャラバンの光……。

その晩、王都のすべての人々が

彼女と比べればただのわき役だった。

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