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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第31話:二つの魔道具

雑然と並べられた道具たちを

老婆は乱暴に横へ押し退け、

テーブル下の引き出しから

二つの何かを取り出した。


一つは白い色で鳥の羽の模様が描かれた

丸くて黒い石。大きさ的にも

ルーンストーンに近いものだが、

ルーン文字とは異なる模様で、

ツヤツヤとした輝きを帯びている。


もう一つはひどく汚れた木の棒のようなもの。

表面は焦げ茶色く、毛羽立ちも見える。

直径は四センチほどで全長は

一メートルほどだろうか?

見ただけでは一体何なのか

まるで見当がつかない。


色鮮やかに飾られた他の魔道具とは違い、

どちらも重苦しい雰囲気を醸し出している。


「これは今のあんたらに必要なものさ。

 使い道は自分で考えるんだね」

「やっぱりね! これを高値で私たちに

 売ろうってんでしょ? そうはいかないわ」


メロディの刺々しい台詞を聞き、

老婆はその場で笑い声を漏らした。


「随分用心深いお嬢さんだこと!

 代金はいらないよ。

 これは私からの贈り物だからね」

「これが贈り物? こんな魔道具見たことないわ!

 片方は何だか汚いし……」

「メロディ! ちょっと失礼だよ!」


私はたまらずメロディを嗜めた。

この老婆はおそらく何かの意図を持って

私たちに忠告してきているのだろう。

それを一方的に拒絶することが

良いこととはどうしても思えなかった。


私は本能的にテーブルの上に置かれた棒を

右手で掴んでみた。重い……杖術の稽古に

使っているオリーブウッドの棒よりも

遥かに重い。


しっとりとした粘りのある材質。

木のようでもあるが確信は持てない

不思議な感触だった。両手で抱えるとまるで

限界まで水が入った桶を揺らした時のように、

中で何かが重力に引っ張られる感覚があった。


「これは一体何ですか?」

「さぁね、私はただ用意しただけだからね。

 それが何なのかはさっぱりわからない」

「少し振ってみても良いですか?」

「好きにしな。それはもうあんたのものだ。

 じゃあそっちの石は金髪のお嬢さんのものだね」

「そんな勝手な……」


メロディと老婆のやりとりの横で

私は棒で何度か素振りをしてみた。

やはり何かが中に入っているような……

振り下ろす瞬間にグイッと重心が移動し、

体重を持っていかれそうになる。


でも不思議と恐怖心はなく、むしろ

その奇妙な動きには心地良さすら感じた。

棒を手から離そうとすると、

ポロポロと表面の繊維が零れ落ちた。

手の甲を見てみると極小の茶色い

ツタのようなものがジワジワと這っている。


「!!」


驚いてその場で飛び退き、思わず棒を

放り投げてしまった。が、絡まったツタの影響か

棒は一瞬私の手にプラプラと引っ掛かった後、

ボトッとその場に鈍い音を立てて落ちた。


「おや、どうかしたかい?」

「何か……ツタみたいなのが絡みついて。

 気持ち悪い……」

「随分気に入られたようだ。良かったね」


悪い人ではなさそうなのだが、

この老婆と話しているとどうも調子が狂う。

手に付いたままの茶色い欠片を払うと、

パラパラと簡単に零れ落ちていった。

痛みや違和感などはないが、

さっきのは何だったのだろう?

まるで生き物のようだった。


私はためらいながらも、落ちた棒を拾い直す。

ただ手に持っているだけでは何の変化もない。

力を入れて振ろうとしたときだけ

あの現象が起きるのか?

わからないことだらけだ……。


私のドタバタの横でメロディはいつの間にか

手にあの石を持ってまじまじと観察していた。


「結構重い……材質な何かしら?」

「おそらくシャーマナイトかねぇ」

「シャーマナイト?」

「古くから呪術やら祈りやらの儀式に

 使われてきた天然石さ」

「……持ってみたけどなんともないわ?

 ただの石じゃないの?」

「念を込めるのさ、石っていうのは持ち主の

 想いに応える。どういう形でもね」


老婆に怪訝な表情を向けるメロディだったが、

言われるままに石を手の平に乗せて

ゆっくりと目を閉じた。魔法を放つ時と同様、

集中しているようだ。


石表面の羽の模様が段々と

濃くなっているような気がする。

初めは誰も気付かない程度の小さな変化だったが、

それはやがてぼんやりと白い光を帯び始めた。

目を開けて石を見たメロディ自身も驚いている。


「何が起きてるの?」


店内にふわりと風が舞ったかと思うと、

石はゆっくりメロディの手を離れて

その場に浮かび始めた。


「え!」

「おお、これは凄い……」


石は鳥のようにメロディの頭上を飛び回り、

くるくると誇らしげに旋回してみせた。


「なにを念じたの?」

「いや、ほら。羽の模様があったから、

 飛行魔法が使えますようにって……」


石はひとしきり中空を飛び回った後、

鳥が羽休めをするかのように

メロディの脳天にゆっくり舞い降りた。


恐る恐るメロディがさわってみるが

石はもうすっかり元の重く固い鉱物に

戻っており、先ほどの出来事が

幻だったのかと思わせるほどだった。


しかしそこに残る僅かな暖かさが、

この魔道具が本物であることを証明していた。


「さぁ、それはもうあんたらの得物だ。

 どう使うか、いつ使うかもあんたら次第。

 よく覚えておくと良い。肌身離さず

 持っておくんだよ」

「あなたは何者なんですか?

 どうして私たちにこんなことまで……」


ニヤリと笑った老婆の口元から

所々に黒いシミのある、黄色い歯が

チラリと見えた。


「私は賭け事が好きでね。決まった未来を

 待つのは好きじゃないのさ。あんたらは賽だ。

 いい目が出ることを祈るよ」


その会話以降、老婆は店の奥にある

肘掛け椅子に座ったきり、一言も

話してくれなくなった。


私たちは貰った魔道具のようなものを手に、

仕方なく店から外に出る。空には遠くから

茜色の雲が近づき、飲食店の店先には

色鮮やかなランプの明かりが灯り始めていた。


ハーブの香りに包まれた場所から外に出たせいか、

いつもよりも土の匂いが濃く感じられた。

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