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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第30話:持たざる者

セージの香りが満ちた小部屋。

老婆は思い出したようにそっと立ち上がり、

四つのキャンドルのうち

三つの明かりを指先で消した。


瞬時に暗闇が濃くなる。

先ほどまで聞こえていた水の音や

高い反響音もすっかり消えてしまった。

完全な“沈黙”の中、絹のこすれる微音だけが

やけに目立って聞こえる。


老婆が両手で水晶を包み込むように囲い、

その隙間からじっと中を見つめている。

しばらくその時間が続き、

私たちが居心地悪くし始めた頃、

やっと老婆が呟いた。


「あんたらは少し普通じゃないね。

 “もたざる者”だ。こりゃ珍しい」

「もたざるもの?」

「捨てられたのかい? 可哀想に」


私とメロディは互いに固まってしまった。

捨てられたというのは……親のことだろうか?

もちろん老婆には何も伝えてはいない。


「そしてあんたは魔女ではないが

 普通の人間でもない。血は抗えないものね」


老婆がチラリと私を見る。


「……なぜわかるの?」

「わかる? 違うよ。あんたらが

 教えてくれるんじゃないか」


肌が粟立つ。このまま占いを続けて良いのか、

この末恐ろしい老婆に何もかも

見透かされてしまう気がする


「さあ二人とも。この水晶を見るんだ。

 自分を写す鏡だと思ってね。おっと、

 もう後戻りは出来ないよ」


その言葉を聞いた瞬間、体に走った違和感。

全身が硬直し、少しも身動きが取れない。

眼球だけを動かして隣のメロディを見やると

彼女も同じように流し目でこちらをみつめていた。


「そう、続ける他に道はないんだ。

 これはあんたらのためでもあるんだからね」


この老婆の目的はわからない。

でもこうなってしまった以上、

指示に従うしかなさそうだ。

私もメロディも、黙って水晶を見つめた。


ミルクのように白く濁った表面。

最初は細かな傷以外何も見えなかったが、

薄闇に照らされた中でじっと眺めていると

段々とその濁りが晴れていくのがわかった。


透明な水晶に最初に映ったものは

この小部屋にいる私とメロディと老婆の姿。

部屋全体を斜め上の角度から俯瞰(ふかん)しているような

不思議な映像で、まるで現実感がない。

でもその後ろ姿はまさしく私たちだった。


やがてその光景は霧のように晴れていき、

次に映ったのは私たちの家。

そこにはカミラの姿もあった。

それはカミラが出ていったあの日、

言葉少なに過ごした朝食時の映像だった。


「その人があんたたちの保護者かい?

 なるほど、かなりの力を持った人物だ。

 血の方にも何か混じっているね。

 多少の素養はあるようだが、

 所詮はただの人だね」


老婆は不敵な笑みを浮かべ、

唇の付近を二、三度指で撫でた。


「彼女は大きな渦の中に

 身を投じようとしている。

 それは勝算のない不確かなものだ。

 このままだと死ぬかもしれないね」


カミラが死ぬ……?

ゾワっと寒気が全身を襲い、

額からぬるい汗が流れ落ちた。

キャンドルの炎が風もないのに大きく揺らめく。


水晶には馬車に乗ってどこかへ向かう

カミラの姿が映し出されていた。


「行き先はあらゆるものの信仰の対象。

 美しき魔術の都……しかしそんなものは

 ただの偶像さ。黒くて醜い何かが

 奥深くで徐々に大きさを増している。

 それはただきっかけを待っているに過ぎない。

 やがて火のついたマッチが投げ入れられて、

 一夜にして街は崩壊するだろう」


それはおそらくアウシュラのことだ。

隣国からの侵攻を受けているという話は

本当だったのだろう。これがきっかけで

戦争へと発展する……とでもいうのだろうか。


「そして忘れちゃいけない、あんたらのことだ」


老婆がこちらに目線を向ける。

影の落ちた瞳はまるでそこにだけぽっかりと

穴が空いたかのように黒く窪んで見える。


「あんたらはどうやら今、

 岐路に立たされているようだね。

 一つは穏やかな道だ。

 長く平坦な人生が約束されている。

 ささやかな喜びや出会いもあるだろう。

 しかしもう一つは茨の道だ。たくさんの人の

 死と直面するだろう。そこに救いがあるかも

 わからない。あるのは深くて永い絶望と、

 ほんの一筋の希望だけ。あんたらはどちらを

 選ぶのかね」


老婆の語りが終わった瞬間、身体から力が抜けた。

どうやら声も出せるようだ。


「その二つの道って、一体何のこと?」

「あんたはわかっているはずだよ。

 私にとっちゃどちらに進もうが関係ないが」

「あなたには結末が見えるの?」

「さあね、でも一つだけ言えることは

 持たざる者はこの世界のことわりの外にいる。

 どちらへ転ぶかはあんたら次第さ」

「さっきからまどろっこしいわね!」


メロディが間に入ってきた。


「カミラが危険なんでしょ?

 じゃあ助けに行く以外ないわ。

 ……まあ、このお婆さんの話が

 本当だったらだけどね」


そうだ。メロディの言う通り。

この占いが真実かどうかなんてわからない。

何か別の狙いがあって私たちを

焦らせている可能性だってある。

こんな時こそ冷静にならなければ。


「ふふふ、お嬢ちゃん。残念だけど

 占いに絶対なんてものはない。あんたらは

 全部自分たちで決めなきゃならないのさ。

 本当か、嘘かなんて大した問題じゃないさね」

「……」

「まぁ付き合ってくれた礼に良いものをあげようか。

 こっちへおいで」


老婆が椅子から立ち上がり、

消えたキャンドルに向けて手をかざすと

あっという間に四つの燭台に火が灯った。

その瞳にも光が戻ってきている。


私たちはゆっくりと店内へ誘導され、

魔道具の並べられた一際大きな

テーブルの前まで歩いた。

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