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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第二章 半分の魔法

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第21話:修行の始まり

翌日からカミラによる杖術の稽古が

ついに始まった。といっても普段の家事は

続けながら、作業が落ち着く昼前後と

夕飯以降に集中的に行われる。


最初の課題は筋力を鍛えること。

カミラが昔使っていたという

訓練用のオリーブウッドの杖

(長いすりこぎのようなもの)

を持ち、ひたすらに素振りを繰り返す。


両手で高く構えた後に振り下ろし、

その勢いを殺さずに正面への

突きへと移行する。


この一連の動作をひたすらに繰り返す。

初日は百回のノルマを課されたが、

これがかなりの苦しさだった。


持ち手のないただの円柱の棒は

握力を弱めるとすぐにすっぽ抜けたり

落ちてしまうため、常時掌に

力を込め続けなければならない。


長さもかなりあるため、杖に振り回されて

姿勢を崩してしまうこともざらだ。

少しでも緩んだ素振りを見せると

カミラはその回をカウントしなかった。


「ここに来た頃と比べたら

 少しはマシになったと思ったが……

 そんなんじゃ明け方までかかっちまうよ!」


その言葉は脅しでも何でもなく、

規定の回数をこなすまで一日の稽古は

決して終わらなかった。


なんとか振り終えたら裏手の川で水浴びをし、

家に戻って眠る。これを毎日繰り返す。

素振りの回数は一日ごとに二十回ずつ増えるため、

疲れたなどと言っている暇はない。


掌に出来たマメが潰れ、筋肉が悲鳴を上げる中

ひたすらに杖を振る。それでも決して

弱音だけは吐かないようにした。


これは私が稽古を始めたときに誓ったことだ。

その代わり辛くてどうしようもないときは、

人目を気にせずとにかく叫びながら

稽古に取り組んだ。


メロディも最初のうちはそんな私を

ただ遠巻きに眺めるだけだったが、

いつからか私よりも家事を多めに

やってくれたり、

そばで魔法の稽古らしきものを

するようになった。


小さな光の玉を浮かべては遠くへ飛ばす。

それはいつもの炸裂魔法の小さい版のようで、

夜の稽古の際には明かりの代わりになるので

とても助かった。メロディもそれを意識して

やっていたのだろう。


稽古を繰り返すこと二十二日目。素振りの回数が

500回を突破した頃、ようやく次の稽古に

進むことになった。


「やっと少しは動けるようになったか。

 今日から掛かり稽古だ。私に打ってきな」


カミラはそう言うとあの巨大な杖を構え、

私に正面から向かい合った。

良く見ると杖の先からは

銀細工が外されており、

丸くて角の無い先端が露出している。


いつも通り素振りの頭になっていた私が

戸惑っていると、カミラは容赦なく

私の杖に一撃をくらわせた。思わず

手放しそうになったところをぐっと堪える。


「よく離さなかったね。でも来ないなら

 もっと激しくいくよ。どうする?」


その真剣な表情を見て、私も覚悟を決めた。

杖を高く構えてカミラに近付き、振り下ろす。

が、その一撃は簡単にいなされてしまった。


「思いっきり来いと言ったろう?

 なんだその気合の無い一撃は。

 殺す気で振り下ろせ!」


カミラの鋭い突きが私の頬をかすめる。

耳が切れ、血が頬を伝った。


「戦いにおいて油断や遠慮は死に繋がる。

 あんたはまずその内向的な性格を直さないとね。

 もう一度だけチャンスをやろう。来い」


私はぎゅっと杖を握った。

自身を守る力がない、誰かを助ける力もない。

私は変わらなければならない。

過去の自分と今ここで決別するんだ。


「やああーーー!」


振り下ろした杖は簡単に避けられた。

でもこれまでの稽古の賜物か、

スムーズに二撃目の突きへと身体が移行する。

しかし渾身の突きもカミラの杖に弾かれ、

逆に大振りの薙ぎ払いを脇腹に受けてしまった。


「う!」


一瞬息が止まり、一歩下がって呼吸を整える。

再び杖を両手に構え、私は突っ込んだ。

今度は突きからだ。迷わず腹部を狙ったが

カミラは器用に身体を反らせ、避ける。


また横からの薙ぎ払いが来る!

そう思って杖で防御したが、今度は逆方向からの

一撃をくらってしまった。


「ほらほら、もう終わりかい?」


カミラの挑発に対し、私は今度はすぐそばまで

一気に距離を詰めた。これで薙ぎ払いは使えない。

杖が長い分、近距離はきっと戦いづらいはずだ。


下から切り上げるようにして

カミラの顎を狙うが、またしても避けられた。

まるで全身に目が付いているような

淀みない動きだ。


「腰が抜けてるよ!」


巨大な杖の重たい振り下ろし。

なんとか防御したが、杖からくる振動で

掌がビリビリと痺れた。


「基本の息遣いと体重移動を忘れるんじゃない。

 力が乗っていない杖なんざ痛くもかゆくもないよ!」


私は一度後ろに下がって

カミラから距離を取った。

素振りの稽古とはまるで違う。

肉体的な疲労もそうだが、

凄まじい緊張感で急激に心拍数があがってきた。

身体から湯気が噴き出しそうだ。


これまでの動きを冷静に思い返す。

今の私は杖を振ることに精一杯で、

足さばきまで意識が向いていない。

だからこそ簡単に見切られてしまう

“止まった攻撃”しか出せないんだ。


その場でジャンプして足を積極的に動かす。

もう一度だ。杖を斜に構え、カミラに突進する。

突きと見せかけ、直前で杖を左手に持ち替えた。


左からの切り上げ。攻撃は軽いがカミラは

ほんの少しだけ動揺し、杖で防御した。

カンという衝突音が出てスグに私は右手を杖に添え

くるりとその場で一周回ると、今度は右から

両手で薙ぎ払う。が、カミラがその場で

垂直に跳んで避けたため、私の攻撃は空を切った。


反撃が来る……! 地面を蹴るようにして

カミラから身を引くが、長い杖から

逃れることは出来ず、次の瞬間には

先端が私の首元にピタリとくっ付いていた。


「今のは悪くなかった。それが戦いだ」


杖を引きながらカミラは少し満足気だった。


「これから素振りと掛かり稽古を毎日繰り返す。

 素振りの型は毎回変えるよ。いいね」

「はい!」

「……それと、明後日ルイーザ城へ行く。

 あんたたちも付いてくるんだよ」

「お城へ?」


カミラは特に理由を話すことなく、

さっさと杖を片付けて行ってしまった。

私は近くに居たメロディを呼び止めた。


「明後日ルイーザ城に行くんだって」

「ああ、カミラは城の近衛師団(このえしだん)

 時々杖術の稽古をつけに行くの」

「近衛師団?」

「王様を守る兵士たちのこと!」


驚いた。只者ではないと思ってはいたが

まさか城の兵士を指導するほどの

腕前だったとは……どうやら私は

とんでもない人物に師事してしまったらしい。

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