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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第二章 半分の魔法

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19/25

第19話:杖術について

メロディは目覚めて開口一番

私を見つけると、凄い勢いで

抱き着いてきた。


「アルマ!やっぱり魔女だったのね?

 あんなことが出来るなんて!

 どうして内緒にしてたの?」

「違うよ。あれは私がやったんじゃなくて」

「アルマが手を握ってくれて

 そしたら痛みがスッと引いていって……」


見兼ねたカミラがメロディの両肩を

ぐいっと引っ張り、自分の胸元へ引き寄せた。


「あ! カミラ? どうして?」

「あんたたちが遅いから迎えに来たんだよ」

「そうだ! バイコーンは?」

「安心しな、もう追い払ったよ」

「そう……」


メロディはそこで突然言葉に詰まり、

カミラの胸の中で泣き出してしまった。

緊張の糸が解けたのだろう、

その姿を見ながら私もつられて泣いた。


今から思い出せばあんなに巨大な

バイコーンに、音だけ凄まじい魔法と

シダ箒で立ち向かおうとしていたのだから

正気の沙汰ではない。


カミラはそっと私のことも抱き寄せて

しばらくの間私たちの背中を

優しく撫でてくれた。


村の人々はせめて今夜は

ここに泊まって欲しいと渋ったが、

断固として拒否するカミラに根負けし、

私たちは松明を持って家へと

引き返すことになった。


空では満点の星が煌き、

虫たちや梟の声が静かな世界を彩る。

私は問題なく歩けたが、

まだふらつきが残るメロディは

カミラに負んぶされて少し恥ずかしそうだ。


「二人とも今夜は私のベッドで寝るんだよ」

「カミラはどうするの?」

「私は二階で寝るさ」


砂の上を歩くジャリジャリとした音も

今日は妙に心地が良い。


「二人とも。悪かったね。

 私が行かせたばっかりに」


カミラにとっても今回の出来事は

予想外だったのだろう。いつもの態度が

嘘のように意気消沈している。


「私も悪いんだ。流れでお願いを

 引き受けちゃったから」


メロディがそう言ったが、カミラは頭を振った。


「ジャムを売ってくれようとしたんだろ?

 あんたたちは悪くないよ。馬鹿だね私は……

 失いそうになってやっとわかるなんて」


カミラはそこから家に着くまでの間、

ほとんど口を開かなかった。

私たちは着くなり二人でカミラのベッドに寝かされ、

明日までゆっくり休むよう言いつけられた。


遠目に見る分にはそれほど大きく思えなかったのだが

実際に横になってみると子どもが二人で眠るには

十分な広さがあり、仮に大人二人でも

問題がなさそうだ。


いつも見えるものとは違う天井に

少し興奮していたため、眠くなるまでに

時間が掛かるかと思ったが、たっぷりの干し草の上に

リネンのシーツがかけられたベッドは

二階よりも随分と寝心地がよく、

私たちはいつの間にか眠りについていた。


    ◇


朝方に目を覚ますとベッドの横に椅子が付けてあり、

そこに座って眠っているカミラが目に入る。

余程心配だったのだろうか、一晩中そばで

見守ってくれていたようだ。


カミラが昨晩私たちに掛けてくれた毛布は

メロディ側に寄っており、私はほとんど

服だけの状態。

その日は朝から気温が上がっていたため、

なんとか風邪を引く心配はなさそうだった。


寝ているカミラの横を通り、私は家の外へ出た。

雲一つない青空が広がり太陽がいつもよりも

大きく見える。ふと辺りを見回すと、

昨日カミラが使っていた巨大な杖が

軒先に立て掛けてあった。


興味本位から杖に触れてみる。

太くガッシリした樫の感触……

表面は(やすり)が掛けられて

サラサラとしており、

触り心地はかなり良かった。


試しに両手で持ち上げようとしたが

まるで地面に固定されているかのように動かない。


「うそ?」


これをカミラは軽々と振り回していたのか?

私は信じられず、何度か持ち上げようとしたが

杖は微動だにしなかった。


「それが気になる?」


杖と格闘している背後から

突然声を掛けられたので、私は思わず

その場で飛び跳ねた。

振り向くとそこに居たのはカミラだった。


「勝手に触ってごめんなさい!」

「いいよ。あんたには重いだろ?」


カミラはおもむろに杖を掴むと、

まるで手品のように軽々持ち上げてみせた。


「この杖は特注なんだ。私の身体に合わせて

 作り込まれている。だから私以外の人間には

 滅多なことでは持ち上げられないよ」

「どうしてカミラはこんなに大きな杖を

 持っているの?」

「パキタ……あんたの母親に

 負けたくなかったからさ。

 魔法なんて使えなくても私はあいつより

 強くなりたかった。だから杖術(じょうじゅつ)

 学んだんだ」


そっと杖を元の場所に戻す。


「じょうじゅつ……?」

「杖で戦うための技さ。昔に比べて大分腕は

 (なま)ったが」


メロディの魔法をものともしないバイコーンに

生身で立ち向かい、圧倒したカミラ。

鈍ったといっても、

とんでもない強さであることに変わりはない。


もしあのとき、カミラが来てくれなかったら

どうなっていたか、思い出してもゾッとする。


メロディは曲がりなりにもバイコーンに

立ち向かった。私の方はといえば、

何も出来ずにただ突っ立っていただけ。

あのときの悔しさと恐怖は忘れられない。


「私にも杖術が使える?」


カミラは目を丸くした。


「アルマが?」

「私も強くなりたい……」


頑張って言葉を紡ぎ出すけれど

動悸がかなり激しくなり、私は胸を抑えた。


「生半可な気持ちで言うんじゃない」


カミラの鋭い視線が突き刺さる。


「子どもは子どもらしく、

 穏やかに過ごしていればいいんだよ」

「でも……私は何も出来なかった。

 カミラが来てくれなかったら二人とも死んでた」

「これからも何度だって助けてやるさ」

「もう何も出来ない自分は嫌なの!」


私は思わず叫んでいた。

魔法が使えず親に捨てられ、

カミラのところに転がり込んで家事をこなす日々。

それがいつまでも続く保証なんてない。


いつかカミラも私のことが不要になって

家から追い出すかも。そのときに私はどうする?


別に本気で疑っているわけではない。

そんな人柄でないことは

今回の件でよくわかった。


でも……今の私には何もない。

恐怖に立ち向かう勇気も誰かを守る力も。


「私は一人でも生きていける力が欲しい。

 誰かに甘えて生きていくのは

 もう終わりにしたいの。

 だからお願いします。私に杖術を教えてください」


気付くと私はその場で深々と頭を下げていた。


「本気?」

「はい」

「私は中途半端は嫌だからね。もしやるとなれば

 思いっきりやる。弱音を吐いたら追い出すよ。

 それでもやるかい?」

「はい」


カミラはそれから少しの間黙っていたが

小さくため息をついた後、私の頭を

ポンポンと叩いた。


「稽古は明日からだよ。

 今日はゆっくり過ごして良い」

「はい!」


顔を上げるとカミラはもうこちらに背を向けて

家の裏手へと歩いて行くところだった。

私は再び頭を下げて、その優しさに感謝した。

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