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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第二章 半分の魔法

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第16話:力の差

村の中心、一番広い通り道に

私とメロディは立ちすくんでいる。

2つのジャムの籠は先ほどの女性が

集会所の奥に保管してくれた。


「ねぇ、なんであんなこと言ったの?

 大丈夫なの?」


私の問いにメロディは

ため息をつきながら頭を掻いた。


「仕方ないでしょ。ああでもしないと

 ジャムなんか絶対に売れなかったわ。

 むしろ私に感謝して欲しいわね!」

「バイコーンって聞いたことはあるけど

 かなり危険な魔獣だよね?」

「バカね、バイコーンなんてこんな村に

 来るわけないでしょ。熊か野生の馬でも

 見間違えたのよ、きっとそう」


強がってはいるが、その表情は明らかに

緊張している。確かにメロディの魔法は

熊を追い払うのには十分だったが、

あれが魔獣にも効くかどうかは疑問だった。


マナの量も有限だとすれば

きっと撃てても二発か三発か……

そもそもあの魔法以外に使えるのだろうか?


「ねぇ、メロディは

 いつものとは違う魔法も使えるの?」

「……」


どうやら愚問だったらしい。

村人が居なくなってから三十分ほど

経っただろうか。徐々に日が傾き

空が赤らんできた頃、

周囲の雰囲気が変化し始めた。


息がつまりそうな重苦しい空気が

どこからともなく流れはじめ、

巨大な雲が村全体に影を落とす。


「なんか嫌な感じ……」


メロディがそっと小ぶりの杖を取り出し、

村の入口に向けて構える。私はその隣で

先ほど集会所から拝借した大きくて立派な

シダ箒を握った。多少は武器として使えるはず……


やがて村との境界線となる

二本の杭の向こう側に何かの気配を

感じた私たちは、顔を見合わせてから

じっと目を凝らした。


そこには長く逞しい両足で

地面を踏み鳴らす馬のような姿があった。

立派なたてがみの間から禍々しくカーブした

二本の鋭い角が天を突いている。


「うそ……」


メロディの力ない声に肌が粟立つ。

私たちの二倍以上はあろう筋骨隆々の体躯と

艶やかな漆黒の肌。その姿は

紛れもなくバイコーンだった。


バイコーンは本来人里に現れることはなく

洞窟や地下迷宮などの暗闇を

根城にする魔獣だ。危険ではあるが

彼らの縄張りを脅かさない限り

人間が襲われるケースはほとんどない。


「あれ、結構マズいよね?

 私初めて見ちゃった……」

「私だって……」


バイコーンは入り口付近で

少しの間唸り声を上げながら

何か考えている様子だったが、

やがてゆっくりと村の中へと入ってきた。

こちらをしっかりと見据えているものの、

生物としての格の違いを感じさせるほど

悠々としていた。


村の家々から一切の物音が消える。

誰もが恐怖に震えているのだろう。

私たちもそうだ。身体が硬直して

身動きが取れない。もはや正視すら耐えられず、

私はバイコーンの足元に目をやった。


蹄が地面に着くたびにレンガに

黒く焦げたシミのような跡が付く。

もはや残り数メートルとなったところで

一つのレンガがバイコーンの体重に耐え切れず

ピシッとひび割れた。


鋭い音に身体が一瞬だけ反応する。

メロディは咄嗟に構えた杖を振り抜き、

閃光弾を放った。


それは至近距離で脳天に見事命中し、

巨大な破裂音と光をまき散らす。

耳を(つんざ)(いなな)きと共に

パニックになったバイコーンは

一番近くにあった家屋に突進し、

頭を激しく打ち付けた。

中から驚いた村人の悲鳴が聞こえる。


「当たった!」


頬を紅潮させるメロディの腕を引っ張り、

私は咄嗟にその場から距離を取って

近くの家の裏手に隠れた。


「暴れてる! 危ないよ!」


バイコーンはかなり錯乱しているようだが、

その額に傷のようなものは見受けられない。

物理的なダメージはなさそうだ。


そのまま村の外まで逃げてくれれば

良かったのだが、残念ながらバイコーンは

何度か頭突きをして家屋の土壁に

ヒビを入れた後、少しずつ平静を取り戻し始めた。


その唸り声は明確な怒気を孕んでおり、

じっと立ち止まって私たちの気配を

探っているようだ。


「怒らせたみたい……」

「もう一発当ててやるわ!」


興奮の冷めないメロディは

なぜか自信満々だったが、

もう一度当てたところで次も

効果があるかはわからない。


私は必死でバイコーンについての知識を

思い出そうとしていた。神話の中では

善良な男性を食べると言われていたが

実際にはそんな偏食の事実はなく、

肉でも野菜でもなんでも食べる。


暗くてジメジメした場所を好むのは

肌が乾燥に弱く、すぐにひび割れてしまうため。

光の届かない場所で暮らすため、

強烈な光が弱点ではあるのだが

先ほどのメロディの一撃では足りなかった。


……だめだ、突破口が見つからない。

このまま逃げるわけにもいかないし、

かといって二人で戦って勝てる相手でもない。


しばらく隠れていると、

虚空を見つめていたバイコーンの瞳が

ぐるりとこちらを視認する。

そう、バイコーンの二本の角は

優秀なセンサーになっており

空気の流れで獲物の位置を

容易に特定できることを忘れていた。


バレた。そう思った次の瞬間、

バイコーンはこちらに向かって

一直線に突進してきた。


「危ない!」


メロディがバイコーンの正面に立ち、

再び閃光を放つ。激しい音と光だったが

先ほどと違うのはバイコーンが魔法を

物ともせずそのまま突っ込んできたこと。


「うっ」


私の目の前でメロディは角による

突き上げをもろに受け、数メートル先へ

軽々と吹っ飛ばされてしまった。

身体が固い地面に落下する鈍い音。


「メロディ!」


私はシダ帚を放り出してメロディの元へ走った。

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