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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第二章 半分の魔法

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15/25

第15話:バイコーンの恐怖

涼しい風が通る小道を進んでいくと

遠くに村の入口を示すような

二本の木の杭が見えてきた。

その手前あたりからレンガが敷かれ、

村への導線となっている。


「見えてきた!」


先頭を行くメロディが

嬉しそうな声を上げる。

城下町と比べたら随分近く

私もホッと胸を撫でおろしたのだが、

少し違和感があった。


「何だか静かすぎない?」


あと数分歩けば村に辿り着くような状態なのに

人々の声や生活音が聞こえてこない。


「もう! そんなのどうでもいいわ。

 早く売らないといけないんだから!」


メロディはジャムの入った籠を

力強く持ち直すと、小走りに

杭の間を抜けて行った。私もすぐに後を追う。


そこは赤土とレンガの家が並ぶ

こじんまりとした村だった。

通りは広く、地面には規則正しく

レンガが敷き詰められている。


いくつかの家の煙突からは

灰色の煙がゆらゆらと上がっており

人々が生活していることはわかるのだが、

相変わらず人影は見当たらなかった。


先ほどまで活発だったメロディも

雰囲気の異様さに気付いたのか、

通りの真ん中で不思議そうに立ち止まっている。


「誰もいない……」


私たちはジャムの入った籠をその場に置いて、

近くで煙の上がる家の一つに近付いて

ドアをノックした。応答はない。


「すいません! 誰かいませんか?

 ジャムを売りに来ました」


メロディがドア越しに元気よく話しかけたが、

返事はない。今度は私がノックする。


「あの……味は抜群なんです。

 蒸したポテトにもとても合いますよ?」


私の声にも反応がない。メロディはそれを見て

なぜかクスクス笑っていた。

このままでは埒が明かないため、

私たちは他の家もいくつか回ったが

やはりどこからも返答はなかった。


最後に残ったのは大きな茅葺き屋根の建物。

そこは村の集会場のようで唯一扉がなく、

誰でも中に入れる開かれたつくりになっていた。


四方に風の通り道がつくられており、

時折窓際に吊るされた七色の羽の

ドリームキャッチャーが優しく揺れる。


「ここにも誰も居ないかな……」


メロディがそう呟くとほぼ同時に

建物の奥から一人の女性が姿を現した。


「ひっ!!」


女性はまるで怪物でも見たような

恐怖に満ちた表情をし、素早く物陰に隠れた。

メロディが叫ぶ。


「待って! どうして逃げるの?」

 私たちジャムを売りに来ただけ

 なんだけど」

「ジャム? そんなものいらないから

 早く帰りなさい! ここは危険よ!」

「どういうこと? 理由を教えてよ!」


メロディはそう言うと壁の向こう側へ走り、

隠れていた女性の服の袖を引っ張りながら

こちらへ戻ってきた。目の下にクマのある

若い女性で、長い髪には金色の髪飾りが

光っていた。


「離しなさい! 魔物が来る!」

「魔物? この村に?」

「そうよ! 日が暮れたら血に飢えた

 バイコーンがこの村にやってくる……

 もう何人も奴に殺されたわ!」


バイコーンは二本の角を持つ大型の魔獣で

ユニコーンと対をなす存在として知られている。

その姿は黒い牛や馬のようだと言われ、

狡猾かつ残虐な性格を持つ危険な魔獣だ。


「バイコーン? あり得ないわ。

 そんな大型の魔獣がこんな人里に来るなんて

 聞いたことない」


メロディのバカにしたような態度に

女性は怒るどころか、何かに気付いたように

伏せていた顔を上げた。


「……どうしてそんなに詳しいの?

 あなたってまさか魔法使い?」

「そうだけど?」

「魔法は使えるの?」

「え? ……まぁそれなりにね」


女性の表情はみるみる明るくなり、

いつの間にかメロディの両手を

包み込んでガッシリと掴んでいた。


「魔女さまが来てくれた!

 みんな、魔女さまが来てくれたわ!」


それはこれまでと打って変わって野太く、

後からやまびこが聞こえてきそうなほど

遠くまで届く声だった。


声を聞きつけてそれぞれの家から

人々がポツポツと集まって来る。

老若男女様々で、私たちと同じぐらいの歳の

子どもたちも居た。


「魔女さま、どうか魔物から

 この村をお救いください……」

「なんと神々しいお姿か……」

「まるで聖母のよう……」


すべての人々がメロディの周囲を

取り囲み、羨望の視線を向けながら

褒めたたえる。私はいつの間にか

輪の中心から追い出され、

その様子を遠くから独りで眺めていた。


メロディは最初こそ戸惑っていたものの、

自慢げに杖を掲げて見せたりと

まんざらでもない様子だ。


「魔物はもうすぐ、黄昏時に現れます!

 あなたさまの魔法でなんとか追い払って

 いただけませんか?」

「え? バイコーンを追い払う?」


その上ずった声からメロディは

相当動揺していることがわかる。


「難しいですか?」

「……いや、出来るに決まってるでしょ!

 ただ私たちは今急いでて」

「お礼ならいくらでも差し上げます!

 私たちに出来ることであれば」

「お礼っていったって……」


そのとき、メロディは何か閃いた様子で

口角を上げた。


「じゃあそのジャムの瓶二つ!

 銀貨十枚で買ってもらおうかしら」

「え!」


女性が驚いて声を上げる。


「それだけですか?

 それではあまりにも……」


予想外の反応にメロディは

一瞬固まってしまった。


「えっと……じゃあ、今後も

 定期的に買ってもらえたら……」

「わかりました! 追い払ってくれたら

 長くお付き合いさせていただきます!」


あっという間にジャムの定期購入の

契約まで結んでしまったメロディ。

これでカミラの指令も無事クリア……

だなんて楽観的になれるはずもなく、

その後の彼女は虚ろな瞳で

ボーっと虚空を見つめていた。


    ◇


それからしばらく時間が経ち

日が傾き始めると、村人たちは

後は任せたと言わんばかりに

続々と家の中へと籠りはじめた。

音を殺しながらこちらの様子を

窺っているようだ。


話していてわかったが最初に出会った女性は

どうやら村長の娘らしく、最後までメロディを

褒めたたえていたが、太陽に雲が掛かると

怯えた表情で集会場の奥へと下がっていった。

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