異世界税関と試練の日1
2024年、9月。税関は試練の日を迎えていた。
「本日、国王殿下訪日日程が正式発表されました」
朝の朝礼で大曲さんが配ってきたのは北の国の王家御一行様訪日についての概要をまとめた資料だ。
日程は11月8日から14日までの6泊7日、その間に東京とその周辺を回ることになるらしい。
「我々税関としてはこれが最初の大仕事になります、気合入れて頑張りましょう」
「持ち込み手荷物検査もやるんですね?」
三角さんが不思議そうにそんな事を大曲さんに訪ねてくる。
「本来の外交使節団の入国手続きにおいては検査を行いませんが、北の国はウィーン外交加盟条約非加盟ですので今回は一般人の入国審査と同様の手続きを行うことになります」
「24人分の手荷物検査を私と菱刈さんだけでやるのはちいと厳しい気がしますわあ」
「当日は僕と丸山さんも旅具通関の手伝いに回ります、一般通関も一人だと厳しいでしょうから柱谷君も手伝ってあげてください」
「わかりましたー」
「あーしも手伝い回った方が良いっすか?」
「三つ葉さんは日常業務優先で手が空いたらぐらいでお願いします、それに殿下の来訪前から仕事がありますので……」
不思議そうに首を傾げた三つ葉さんに対し、私はすぐにピンときた。
相手は一国の王様、かさばる荷物は事前に運び込んでおくから事前に検査が必要になるのだろう。
「本格的に忙しくなるのは10月下旬以降になりますが、そこに備えて可能な限り仕事を溜め込まないようにお願いします」
ちらっと私の方を見て「くれぐれもよろしくお願いしますね?」と釘を刺してきた。
変なところで信頼されてないなあと心底思いつつ「わかりました」とだけ軽く答えた。
*****
北の国の訪日に向けて一番に届けられた仕事は、事前に届いた荷物の検査だった。
事前申請によれば中身は21人分の衣類や生活用品となっており、今回の訪日中に使う予定のものがたっぷり詰め込まれているらしい。
気軽に現地調達して体に合わなかったら困るから極力持ち込みなのだろう、理屈は理解できる。理屈は。
「これ全部開けるんですか?」
「今回は全部検査だからそうなるな」
目の前には50個以上の木箱が積み上げられ、これを扇さん・大曲さん・私の三人で全部開けて確認するという事にげんなりする気持ちが隠せない。
「エックス線とか金属探知機でパパっと片づけられないんですか?!」
「一般的な税関には大型X線検査場があるんだけどね、さすがに東京の中心部には作れなかったんだよ」
「ええー……」
つまり今回は全部手作業でこの箱の中身を開封して事前申告書と照らし合わせ、日本へ持ち込めないものが含まれていない事をチェックするのが仕事になるらしい。
シンプルにめんどくさすぎるので帰らせて欲しい。
「丸山、これ何かわかるか?」
見せられたのは紐のついた海綿体で、よく見ると紐には血が染みついている。
過去に読んだ資料だと海綿を生理用品として用いていると聞いたのでこれはおそらくタンポンのようなものではないだろうか。
「たぶんこれ生理用品だと思います、海綿体を中に入れて紐で引っ張り出すんだと」
「そうか。なら申告通りだな」
何の感情の揺らぎも無く実にあっさりと問題なしの印をつけて箱にしまい込む。
ちょっとは驚いたり動揺しているのを見たかった気がするが、ここで文句言ってもしょうがない。
「丸山さーん、これTDSかけてー」
「ティーディーエスってなんですっけ」
「不正薬物・爆発物探知装置ね!」




