第15話 決戦は近し!
『紫光の女神』リゼル・エヴァンジェリスによって、多数の名のある冒険者が集められた様子は、ハヤトの配信、または『闇鍋騎士団』の配信担当であるメイによって世界中に生配信されている。
もちろん、世界初のグランドダンジョンが原因とされるスタンピードが配信されるとあって、配信開始から視聴者数は一気に膨れ上がり、五百万人を超えてなお、増加の一途をたどっていた。
しかも、リゼルやアベルの存在は今回初めて世間に明かされることとなる。
今まで世界を騒がせ続けてた『紫光』の関係者が史上初めて公の場に出てきているという事実が、さらにこの事態をセンセーショナルに騒ぎ立てる要因となっていた。
だが、視聴者のコメントの中でダントツに多かったのは、この決戦に立ち向かう面々への熱い応援だった。
面子を見れば、Sランク冒険者はもちろん、それに続く実力確かなAランク冒険者、国内有数のクランが勢揃いし、さらには新兵器を装備しているであろう軍隊まで存在している。
そんな国内の戦力を結集したかのようなドリームチームが、スタンピードから人々を守るために戦うとあっては、大多数の人々は心の底から声援を送るに決まっている。
極々少数の視聴者からは、アイリーンの危険性を説く声や、『闇鍋騎士団』の過去の炎上を持ち出し批判するような意見も出たのは事実だ。
しかし、そんな声は大多数の声援によってあっさりと搔き消される形となった。
〈いや、こんなドリームチームが見れる日が来るなんてな……〉
〈本当に、これだけの強者揃いならどんな危機でも何とかしちゃいそうだよなぁ〉
〈見渡す限り、猛者しかいねぇw〉
〈人類側からすると頼もしすぎるんですけど!〉
リゼルの尽力によって集められた戦力に歓喜の声を挙げる人々。
その声は、スタンピードに立ち向かう面々へ向かって惜しみない声援となってコメント欄を埋め尽くした。
〈まさか、『金剛の刃』と『九頭竜』が共闘する日が来るなんてな〉
〈私『九頭竜』のクランオーナーの顔初めて見た〉
〈でも、九人揃ってないんだな〉
〈まあ六人揃っただけでもレアなんだがw〉
その中に点在しているのは、それぞれのクランに対するコメントだ。
中でも『九頭竜』は、その特殊さからしても人気を得ているらしく、割合的にも多いように見える。
『九頭竜』のクランオーナーである『雷迅竜』武雷は、その整った容姿と凄まじい強さを併せ持ち、日本国内でも屈指の人気を誇る冒険者の一人だ。
彼は他の三人を連れて、他の場所でスタンピードの対処に当たっていたところ、リゼルによって連れてこられた。
「全く……こんな展開になるとは、頭が痛いですね……」
彼は本来、目立つことを嫌う性格であり、そのせいか他のメンバーとは違い、あまり表舞台に立つことは少なかった。
そのため、現在の状態に対して一際戸惑いを隠せなかった。
そのような状態でも全員がAランク冒険者である『九頭竜』の内の六名までが揃ったことは、冒険者側にとっては、非常に大きな戦力として多大な期待を寄せられたのである。
〈ていうか『闇鍋騎士団』もいるんだな……〉
〈まあ、彼らは戦力としては申し分ないだろう〉
〈でも、団長いないぜ〉
〈本当だ!俺たちのミズキたんが……〉
〈やめろそれw〉
〈本当にどこ行ったんだろ?〉
〈まあ、そのうち来るんじゃね?〉
そして、次に多かったのは『闇鍋騎士団』へのコメントだ。
しかし、『闇鍋騎士団』の中で最も人気を誇るクランオーナーの村雲ミズキの姿は見えなかった。
これには、彼らを呼びにいったリゼルも不思議に思ったが、時間も無かったため残ったメンバーを連れてきたというわけだ。
ミズキの不在に関しては、彼女のファンである『ミズキ親衛隊』を筆頭に落胆のコメントをする者も多く見られた。
実は、現在ミズキが不在なのには重大な理由があるのだが……
その理由は、クランのメンバーでさえも知らなかったのである。
〈それより、ほら、あのおじさんって誰?〉
〈いや、俺もそれずっと考えてるんだけど……〉
〈どこかで見たことあるような……〉
〈どうしても思い出せないんだよな……〉
一際、異質な存在として一人佇む隻眼剣士の存在に関しても、興味を持つようなコメントが散見される。
彼に関しては、皆一様にどこかで見たことがあるような、無いような、と言ったようなどっちつかずのコメントが目立つ。
その壮年の剣士に一人の男性が近寄ってきた。
「まさか、あなたまで駆り出されるとは……」
「おお、清十郎か、久しいな……」
彼に話しかけたのは清十郎だった。
同じ剣士同士、何かの縁があるのだろうか。
かなり親し気な様子で話し合っている。
「あなたと会うのは、もう十年ぶりでしょうか?未だ現役を続けておられたとは驚きです」
「いや、儂はとっくに引退をしていたんじゃよ、しかしあのリゼルとかいう娘に熱心に説得されてしもてな。こうして老体に鞭打ってのこのこと馳せ参じたというわけじゃな」
「そうだったんですね。しかし、再びあなたと共に戦えるとは、夢のようです……我が師、輝柳斎殿」
「ふふふ……儂もお主と一緒に戦えると聞いて、心の底から楽しみじゃわい。我が一番弟子よ」
彼の名は、布施 輝柳斎、『龍殺の守護者』轟清十郎の剣の師であり……
過去には、日本最強の剣士としてその名を轟かせていた大剣豪である。
輝柳斎の年齢は既に六十歳を上回っている。
常人であれば、とっくに引退している年齢であり、事実、彼も一線を退いていたが……
今回、リゼルの熱心な説得により、戦線に復帰したというわけだ。
「まあ、こんな老いぼれでも世間様のお役に立てれば本望よの……」
布施 輝柳斎は、そう言いながら腰の刀に手を掛け臨戦態勢に入る。
〈ところで、あの軍隊は一体何なんだ?〉
〈いや、それは俺も気になった。全身紺色の軍隊って……〉
〈多分、ダンジョン統括省の軍隊なんだろうけどね〉
〈おい!ダンジョン統括省のホームページにあの軍隊のことが載ってるぞ!〉
〈本当だ!……紺鉄、っていうのかあの装備〉
〈へえ、ダンジョン統括省の新兵器なのか〉
〈今までモンスターには太刀打ちできなかった軍隊でも、対応可能な新兵器、だってさ!〉
〈すげえw冒険者に加えてそんな新兵器まで投入されたら勝ち確じゃん!〉
ダンジョン統括省の軍隊が現地へ赴く準備をしているところへリゼルが出現したのはついさっきのことだ。
突如として現れたリゼルの姿に驚く指揮官に対して持ち掛けられたのは、すぐに現地へ転移させる代わりに冒険者と共に戦って欲しいという依頼だった。
一瞬、躊躇した指揮官と隊員たちではあったが、この国を守りたいという想いは同じ。
すぐに了承し『紫光』によって現地へ移動したというわけだ。
既に軍隊の半数は散開し、残存しているモンスターの各個撃破に動いている。
残りの半数は前線へ残り、冒険者たちと共に戦うことになっている。
ちなみに、後一つ、ダンジョン統括省の最新兵器が残ってはいるが、未だ戦場へは到着していない。
こうして集結した戦力が『紫光の女神』リゼルを先頭に、鬼の軍勢と対峙している。
「はっはぁ!面白いじゃねえか!こうなったらとことん殺ってやるからよぉ!」
鬼の軍勢の先頭に立つのは『統率者』大凶丸だ。
さっきまでアベルと斬り結んでいたはずが、いつの間にか鬼の軍勢に合流している。
そして、その相手をしていたアベルは……
「リゼル様、お疲れ様です」
こちらもいつの間にかリゼルの脇に控えている。
大凶丸が鬼の軍勢へ合流してしまったために、アベルもリゼルの元へ合流することにしたようだ。
ともかく、舞台は整った。
未曾有の大災害を食い止めるために集められた日本国内屈指の戦力と、大凶丸を先頭に殺気を露わにする鬼の大軍勢。
グランドダンジョン『鬼皇の死都』から起因したスタンピード。
最終決戦の幕が上がろうとしている。
次回、いよいよ激突しますよ!
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




