第8話 いざグランドダンジョンへ ~ダンジョン統括省へ許可をもらいに行こう~
本日二話目の更新です!
この世界には、ダンジョンに関わる公的機関が二つ存在する。
一つは【冒険者ギルド】
冒険者の登録やランク認定、昇格試験、上級職・超級職へのクラスチェンジ、さらにはダンジョン踏破報酬の管理まで――冒険者に関するあらゆる業務を担う機関だ。
ほとんどの冒険者はここに所属し、その管理下に置かれている。
そして、もう一つ。
【ダンジョン統括省】
こちらは冒険者ではなく、ダンジョンそのものを管理する国家機関である。
国内すべてのダンジョンのランク認定。
モンスターの調査、危険度の更新、そして、特定ダンジョンへの入場許可。
ダンジョンに関する行政のすべてを取り仕切る、言わば国の中枢だ。
そして今――俺とアイリーンさんは、その【ダンジョン統括省】へ向かっていた。
……いや、殴り込みに来たと言った方が近いかもしれない。
もちろん目的は一つ、グランドダンジョン【星崩の大魔宮】への入場許可を受け取るためだ。
元を辿れば、Sランクダンジョン『深淵の回廊』を攻略したことで解放されたグランドダンジョン。
普通に考えれば、その挑戦権は攻略者である俺たちにある。
そこへ待ったを掛けたのが、この【ダンジョン統括省】だった。
もっとも、一方的に拒否されたわけではない。
Aランクダンジョン五つ踏破と上級職への昇格。
その二つを条件として提示され、俺たちはそれをすべて達成してきた。
だから今日は、その約束を果たしてもらいに来たというわけだ。
◇
もっとも、俺たちが訪れたのは本省ではない。
【ダンジョン統括省第三支部】
本省は霞ヶ関にあるが、ここは地方支部になる。
それでも建物は十分すぎるほど立派だった。
ガラス張りの高層ビルは周囲の建物を圧倒する存在感を放っている。
「それじゃあ行きましょう」
「はい」
二人で建物へ入り、受付で用件を伝える。
すると受付嬢は少し驚いたような顔をしたあと、
「支部長がお待ちです」
そう言って、俺たちを最上階へ案内した。
……支部長?
いきなり?
エレベーターを降りると、そこには一枚だけ重厚な木製の扉。
その上には金文字でこう刻まれていた。
【ダンジョン統括省第三支部 支部長室】
思わず背筋が伸びる。
軽くノックすると、
「入りたまえ。」
低く威厳ある声が返ってきた。
恐る恐る中へ入る。
広々とした執務室、その中央に置かれた机。
そして、その奥に一人の男性が腰掛けていた。
銀縁眼鏡にきっちり撫で付けられたオールバック。
白髪の混じった髪。
年齢は五十代くらいだろうか。
何より目が鋭い。
こちらを見るだけで、まるで心の中まで見透かされているような錯覚を覚える。
「ようこそ」
男は静かに立ち上がった。
「私は鏑木、【ダンジョン統括省第三支部】支部長を務めている。」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまふっ!」
……噛んだ。
盛大に噛んだ。
くっそ!
あの眼力のせいだ!
めちゃくちゃ緊張するじゃないか!
隣を見ると、アイリーンさんはいつもの笑顔。
余裕そのものだった。
「今日はグランドダンジョン【星崩の大魔宮】への入場許可についてだったな」
「はい。」
アイリーンさんが一歩前へ出る。
「提示された条件はすべて達成しました。約束通り、入場許可を頂きに参りました」
鏑木支部長は黙って頷く。
そして腕を組んだまま、しばらく俺たちを見つめていた。
……怖い。
その鋭い眼光だけで泣けそうだ。
「確認した」
やがて静かに口を開く。
「確かに条件は達成している」
そこで視線が俺へ向いた。
「草薙ハヤト君だったな」
「は、はい!」
「まず君に伝えることがある」
嫌な予感しかしない。
「君の冒険者ランクは、本日付けでEランクからBランクへ昇格となる」
「…………はい?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「ええええぇぇぇっ!?」
思わず素っ頓狂な声が飛び出す。
「何を驚いている」
鏑木支部長は呆れたように肩を竦めた。
「君はすでに上級職だ。それにAランクダンジョンを五つ踏破している。そんな冒険者がEランクのままでいる方がおかしい」
「それはそうですけど……Eから一気にBなんて聞いたことありませんよ!?」
「いや、ある」
鏑木支部長はさらりと言った。
「君の隣にいるアイリーン君だ」
「…………え?」
「彼女はEランクから一気にSランクまで昇格している」
「な、何ですってぇぇぇぇ!?」
また叫んでしまった。
横を見ると、アイリーンさんはいつものようににこにこしている。
いやいやいや。
そんな経歴、聞いてないんですけど!?
「私の知る限り、そんな昇格をした者は二人だけだ」
鏑木支部長が静かに続ける。
「そして、そのもう一人も今日ここへ来てもらっている」
「……え?」
その瞬間だった。
「それより……」
アイリーンさんが柔らかな笑みを浮かべたまま口を開く。
「グランドダンジョンへの入場許可は頂けるのでしょうか?」
「ああ」
鏑木支部長は頷く。
「約束だからな。許可は出す」
そこで言葉を区切った。
「ただし、一つだけ追加条件がある」
「…………追加条件ですか?」
笑顔――なのに、部屋の空気が一瞬で重くなる。
アイリーンさんから放たれる圧力に、思わず息を呑んだ。
笑っているのに、怖い。
「約束が違いますね。」
静かな声だったが、その一言だけで執務室の空気が凍り付く。
鏑木支部長が珍しく焦ったように手を上げた。
「待ちたまえ! 最後まで聞いてくれ!」
アイリーンさんは数秒見つめたあと、小さく頷く。
「……一応、お聞きしましょう」
「条件は一つ」
鏑木支部長が入口へ視線を向ける。
「グランドダンジョン攻略には、君たちだけでなく、こちらの二人にも同行してもらう、入りたまえ」
扉が静かに開いた。
入ってきたのは男女二人。
一人は二十代半ばほどの青年。
そしてもう一人、青と白を基調とした騎士鎧を身に纏う、美しい女性だった。
淡い栗色の長い髪、整った顔立ち、凛とした立ち姿。
柔らかな笑顔のアイリーンさんとは対照的に、その女性は一輪の氷花のような冷たい美しさを纏っていた。
「お久しぶりですわね」
女性は優雅に微笑む。
「アイリーンさん――いえ、『紅蓮の魔女』」
「あらあら」
アイリーンさんも微笑み返す。
「こちらこそ。セイラさん……『蒼氷の聖女』」
「……蒼氷の聖女? ってまさか!?」
「ああ、草薙君。」
鏑木支部長が口を開く。
「紹介しよう」
「彼女は青羅・バーンシュタイン。我が国が誇る、もう一人のSランク冒険者だ」
「そして、アイリーン君と同じく、Eランクから一気にSランクまで駆け上がった伝説の冒険者でもある。」
「なっ……!」
思わず息を呑む。
「初めまして」
女性は優雅に一礼した。
「青羅・バーンシュタインです。どうぞセイラとお呼びください」
隣の青年も一歩前へ出る。
「執事の轟清十郎です。以後、お見知りおきを」
紅蓮と蒼氷
炎と氷
この国に存在する二人のSランク冒険者
永遠の好敵手とも呼ばれる二人が――今、一つの部屋で相対した。
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