↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
PR
79/123

第35話 配信裂覇


 今まで【????】と表示され、謎に包まれていたスキルが、突然使用可能になった。


 その名も――【配信裂覇】


 中二病なのか何なのか、全くもって意味のわからない名前のスキルだが、その効果は名前以上にぶっ飛んでいた。


 なんと、配信を視聴している人数が多ければ多いほど、攻撃の威力が上昇するというのだ。


 そして、この事実は俺の視界を通じて、今この瞬間も全世界へ配信されている。


 当然、視聴者たちも自分たちが間接的とはいえ、この戦闘に関わることができると理解し始めたようだ。


 〈『神速』さんのスキルに表示されてる視聴者の数って……俺たちのことだよな?〉


 〈ああ、間違いなくそうだろう〉


 〈ということは……あれだな〉


 〈ああ、俺たちの力が必要ってことだな〉


 〈ほう……〉


 〈そうか……いよいよ俺たちの出番か〉


 〈そこまで俺たちのことを必要としてくれるのなら……〉


 〈力を貸してやろうかな(ニヤリ)〉


 〈久々に本気出しちゃうぞ(ニチャア)〉


 いやいや、お前ら、視聴してるだけだからな?


 ちなみに、現在の配信の同時接続者数は――三百六十二万八千二百十四人。


 三百六十二万人を超えている。


 ……えーと、このスキルって、一人につきどれくらいの威力が上乗せされるんだ?


 何だか急に恐ろしくなってきたぞ、これ。


 とはいえ、もう打つ手が残されていないのも事実だ。


 俺は覚悟を決め、【配信裂覇】を叩き込む標的――アトランティカへと視線を向ける。


 ……ん?何か、様子がおかしい。


 落下を続けるアトランティカは、相変わらず猛毒による苦痛から逃れるように全身を暴れさせている。しかし、先ほどまでとは明らかに違う何かを感じる。


 苦しげな咆哮を上げ続けながら、その大きく開かれた口の奥では、今にも溢れ出しそうなほど青紫色の光が激しく輝いていた。


 ……これは、ブレスを放つつもりだ。


 さらに、アトランティカの周囲には、先ほども見たものと同じ形状の魔法陣が次々と形成されていく。


 海へ落下することを妨害され、再生能力を使えないと判断したアトランティカが、最後の足掻きとして攻撃を仕掛けようとしているのだろう。


 水の弾丸については、先ほどの攻撃を受けたことで【アルカイド】の効果による耐性を獲得している。だから、今さら恐れる必要はない。


 しかし、ブレスまで同時に放たれてしまえば話は別だ。


 現在、俺の背後ではアイリーンさんが最後の一撃を放つための準備を進めている。そこへあのブレスを撃ち込まれてしまえば、この作戦そのものが失敗に終わる可能性が高い。


 それだけは絶対に避けなければならない。


 その間にもアトランティカはどんどん高度を下げている。海面まで、あと一分もないだろう。


 ほとんど猶予は残されていない。


 アトランティカの口の中で渦巻く青紫色の光は、さらに強くなっていく。いつブレスが放たれてもおかしくない。


 海面へ落下する瞬間を狙うのは論外だ。


 それでは遅すぎる。


 だったら――こちらから向かうしかない。


 問題は、どうやってあそこまで移動するかだ。


 俺が持っている能力の中で、あれほどの上空まで一瞬で移動できるものなんて限られている。


 ……なら、あれしかない。


 ふと、俺は背後へ視線を向ける。


 そこではアイリーンさんが、最後の攻撃の準備に全神経を集中させていた。


 『極大魔法合成処理スキル、完了まで残り一分。大賢者の魔法攻撃力上昇効果を全て炎系統上昇へ転換……スキル【大賢者の叡智】を使用。MPを三倍に増幅』


 彼女もまた、正念場を迎えている。


 【大賢者スキル】を総動員し、これまで見たこともないほどの大魔法を完成させようとしているのだ。


 そんな彼女の姿を見て、俺の腹も決まった。


 「よし! 行くぞ……視聴者のみんな! 俺に力を……あいつを倒す力を、貸してくれ!」


 〈おおおおおおおおおお!!!!〉


 〈任せろぉおおおおおお!!!!〉


 〈『神速』さんには俺たちがついてる!!!!〉


 〈俺たちの想いを……〉


 〈私たちの未来を……〉


 〈お前に託すから……〉


 〈全力で行けぇえええええええええ!!!!!〉


 おお……


 今までで一番熱いコメントの嵐が押し寄せてくる。


 「しゃあああ! 行くぞぉ! メラク!」


 テンションが一気に跳ね上がった俺が使用するのは、もちろんセプテントリオンの能力の一つ――【メラク】。


 これまでの【メラク】は、俺がはっきりと視認できる範囲までしか効果を及ぼすことができなかった。


 しかし、覚醒した今なら違う。


 ほんの少しでも視界に捉えることができる場所ならば、どれだけ離れていようとも効果範囲に収めることができる。


 俺はアトランティカを視界に捉えたまま、能力を発動する。


 次の瞬間――アトランティカの眼前に、巨大な蜘蛛の紋章が出現した。


 そこから俺の身体が一気に飛び出す。


 移動した場所は、まさにアトランティカの目と鼻の先。


 大きく口を開き、今まさに地上へ向けてブレスを放とうとしているアトランティカを、俺は下から見上げる形になった。


 『ギャギャギャァ!?』


 一瞬前まで遥か下方にいたはずの俺が、突然目の前に現れたのだ。


 アトランティカが驚くのも当然だろう。


 『ギャギャギャァ! シネェエエ!!!!』


 驚きから立ち直るよりも早く、水の弾丸が雨のように降り注いでくる。


 だが、この攻撃に対する耐性は、すでに獲得済みだ。


 避ける必要すらない。


 無数の水弾が俺の身体に次々と命中するが、ダメージはほとんど感じない。


 そして、アトランティカは間髪入れずに次の攻撃へ移った。


 その巨大な口の奥で、青紫色の光がさらに膨れ上がる。


 ――来る。


 あのブレスが放たれる。


 だが、それを待っている暇はない。


 俺はセプテントリオンを構えた。


 「遅いよ……ここまで来たら、俺の勝ちだ! 【配信裂覇】ぁ!」


 セプテントリオンをアトランティカへ向けて突き出す。


 「いっけぇええええええええええ!!!!」


 その瞬間、俺の身体から凄まじい力が溢れ出した。


 俺一人の力ではない。


 今、この戦いを見ている――三百六十二万人を超える視聴者たちの想いを乗せた一撃だ。


 放たれた刺突は、真正面からアトランティカのブレスと激突する。


 ――そして、七色の光を纏った一撃は、凄まじい勢いでブレスを突き破った。


 そのまま勢いを一切失うことなく、アトランティカへと到達する。


 「――おおおおおおおおおおおおお!!」


 セプテントリオンの切っ先がアトランティカを捉えた瞬間、その巨体が大きく仰け反った。


 下方から突き上げるように放たれた強烈な一撃によって、全長百メートルにも届こうとしていた巨体が、まるで何かに打ち上げられたかのように再び上空へと吹き飛んでいく。


 『ギャァアアアアア!? 何ダ……オマエハ……イッタイ何者ナンダァアアアアアア!?』


 もはや、何が起こったのか理解できていないのだろう。


 アトランティカは絶叫しながら、遥か上空へと吹き飛ばされていく。


 ……俺が何者なのかって?


 いいさ。


 答えてやろう。


 俺は――


 「【神速の配信者】だよ……」


 その瞬間、俺のMPが完全に尽きた。


 身体から力が抜け、そのまま俺自身も海へ向かって落下を始める。


 だが、不思議と怖くはなかった。


 むしろ、今の俺の心は晴れやかだった。


 アイリーンさんから任された役目は、きっちり果たした。


 後は――任せるだけだ。


 俺はゆっくりと身体を翻し、アイリーンさんのいる方向へ視線を向ける。


 「後は任せましたよ……」


 そして、彼女の姿を見ながら呟く。


 「『紅蓮の魔女』さん……」


 その視線の先には、すでに最後の準備を終えたアイリーンさんの姿があった。


 『ハヤトさん、ありがとうございます! 後は……私に任せて下さい!』


 彼女の周囲には、数え切れないほどの魔法陣が幾重にも重なっている。


 それぞれが異なる色の光を放ち、まるで巨大な魔法の要塞そのものだ。


 いったい、いくつのスキルを同時に発動しているのか。


 もはや俺には理解できない。


 ただ一つだけ、はっきりとわかることがある。


 あれは――アイリーンさんが持つ、最大最強の一撃だ。


 『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレット。


 超級職【大賢者】の力を極限まで引き出した彼女の一撃が、今まさに放たれようとしている。


 その標的は――


 不死身の邪海龍、アトランティカ。


 文字通り、この世から消滅させるための一撃が――今、放たれようとしていた。

少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。

ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。


良ければ、感想もお待ちしております。


評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。

いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。