第36話 神域の魔法
なんとこの作品が、昨日まで注目度ランキング1位にランクインされていたようです!
驚きと感動で震えています!
新たにこの作品を読んで頂ける方も増えているようで……
皆様には感謝の気持ちしかありません( ;∀;)
これからもよろしくお願いします!
その時、俺は海面へ向かって一直線に落下していた。
それでも、視線だけは決してアイリーンさんから外さなかった。俺が必死になって稼いだ三分間。その時間を使って準備を終えた彼女が、今まさに最後の攻撃を放とうとしている。
その姿は――雄々しく、そしてこれ以上ないほどに心強かった。
『使用魔法へ全MPを注入……完了。最終セーフティ……解除。全準備完了……行きますよ、ハヤトさん!』
アイリーンさんが、全ての準備を終えたことを俺に告げる。
対する俺は、セプテントリオンの覚醒状態を維持できる七分間を使い切った反動によって、身体が鉛のように重くなっていた。
……あいたぁ。制限時間を超えると、こんな反動が来るのか。
幸い、身体を動かせないほどではない。これなら、このまま海に落ちたとしても溺れることくらいは避けられそうだ。
そんなことを考えていると――
『魔炎帝・エクスイフリート! あなたの力も、全てこちらに捧げなさい!』
アイリーンさんの目の前に一本の杖が出現した。
杖は濃密な赤黒い光を放ち始める。
彼女がそこへ手を添えると、赤黒い光が杖の先端へと集束していく。さらに、周囲に幾重にも展開されていた魔法陣からも様々な色の光が吸い寄せられるように集まり、杖の先端へと次々に注ぎ込まれていく。
そして――その瞬間、アイリーンさんの魔神化が解除された。
……魔神の姿すら維持できないほどのエネルギーを、全て杖の先端へと集中させているということなのだろうか。
やがて、全ての光が一点へと集束する。
最終的に形成されたのは――一つの火球だった。
大きさだけを見れば、手のひらに収まる程度。
しかし、その内部に凝縮されているエネルギーは、見ただけでも異常だとわかる。
……すげえな、あの火球。
下手をすれば、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』を攻略した際に見た【星崩】と同等……いや、それ以上の威力を持っているんじゃないか?
あんなものを一人で作り出してしまうなんて――
やっぱり、アイリーンさんは凄いよなぁ……。
〈とうとうアイリーンさんの最強攻撃が見れるのか〉
〈ぱっと見、ただのファイアボールにしか見えないけど〉
〈馬鹿w あれが普通のファイアボールに見えるなら節穴としか言いようがないw〉
〈俺も上級の魔導士だけど……あれは無理だわ。命を懸けても、あんな魔法は使えない〉
〈へえ……やっぱり相当ヤバいんだな、あれ〉
〈ああ。ていうか、あんなものを単独で作り出せる人間がこの世にいていいのか?ってレベルだぞ〉
〈そんなの、もはや神じゃんw〉
〈いや、だからそういう話なんだって!〉
……なんか、コメント欄まで少し荒れているように見える。
まあ、無理もないか。
あんなものを目の前で見せられたら、誰だってそうなるだろう。
それだけのポテンシャルを、あの小さな火球は秘めている。
そして――ついに、その瞬間が訪れた。
『神域魔法――【獄炎臨界砲】……発射!』
杖の先端に浮かんでいた火球が、アトランティカへ向かって放たれる。
その速度は凄まじい。
だが、見た目は驚くほど静かだった。
轟音を響かせるわけでもなく、爆炎を撒き散らすわけでもない。
ただ、静かに――そして凄まじい速度で、遥か上空を落下しているアトランティカへと迫っていく。
当のアトランティカも、地上から迫り来るものがどれほどの威力を秘めているのか、本能的に理解したのだろう。
猛毒に侵され、まともに動けない身体から無理やり力を引き出し、さらに上空へ逃れようとする。
だが、その抵抗は、ほんの僅かな時間しか続かなかった。
迫り来る火球が放つ熱を感じ取ったのか、アトランティカが地上へと視線を向ける。
そこには――もう、目と鼻の先まで迫った火球があった。
そして、火球がアトランティカへ着弾した瞬間――
世界から、音が消えた。
『ギャギャギャ!? ァ……ぁぁ…………』
次の瞬間、着弾地点を中心として猛烈な熱量が一気に解放される。
周囲の大気が瞬時に加熱され、プラズマ化。
もはや通常の温度計や魔導具では測定することすら困難なほどの熱量が、局所的に発生していた。
アトランティカの口から、かろうじて断末魔のような声が漏れる。
しかし、それすらも一瞬だった。
その巨体は瞬く間に炭化し、身体の端から次々と蒸発していく。
だが――それだけでは終わらなかった。
アイリーンさんが全ての魔力を注ぎ込み、幾重にも重ねた極大魔法を合成し、さらに【大賢者】のスキルによってその効果を限界まで増幅させた魔法が、こんな程度で終わるはずがない。
ここからが――この魔法の本当の威力だった。
火球の着弾地点で煌々と輝いていたプラズマの中心から、さらに別種の魔力が解放され、巨大な火柱が一気に立ち上がった。
まるで意思を持っているかのように炎は空へ向かって伸び続け、その中心には、もはや燃え残りとしか呼べないアトランティカの姿が辛うじて確認できる。
だが、それも長くは続かなかった。
続いて、火球に残されていた最後の魔力が解放される。
それはおそらく――【魔炎帝・エクスイフリート】の力。
赤黒い地獄の炎が横方向へと広がり、先ほどの巨大な火柱と交差する。
縦に伸びる灼熱の火柱。
それと交差する、横長に広がる赤黒い地獄の炎。
その中心では、超高温のプラズマが凄まじい輝きを放ち続けている。
巨大な十字架のようにも見えるその光景は――
あまりにも美しく、そして、あまりにも地獄そのものだった。
その中心にいるはずのアトランティカの姿は――
もう、どこにも見えない。
……こんな状態になって、それでも生き残れる生物なんて存在するのだろうか。
そう思ってしまうほど、目の前で繰り広げられている光景は凄まじかった。
俺は先ほど、あの火球を見た時に『星崩』と同等の威力なのではないかと考えた。
だが――もしかすると、本当に同等。
いや、あるいはそれ以上なのかもしれない。
それほどまでの攻撃を、一人の冒険者が単独で作り出した。
その事実に、俺だけではなく、この場にいる全ての冒険者、そして配信を見ている世界中の視聴者が畏怖を覚えているに違いない。
〈いや、アイリーンさん……ヤバすぎねぇ?〉
〈うん、すごいんだけどさぁ……〉
〈人外すぎて、ちょっと引いちゃったかも……〉
〈ええ、私も……〉
〈いやいや! 何その反応!? すごかったじゃん!〉
〈そうだぞ! 『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』のファンの風上にも置けない奴らだな!〉
〈いや、まあ……それはそうなんだけどさ〉
〈目の前の光景が恐ろしすぎて、ちょっと怖くなっちゃったんだ……〉
〈うん、俺も〉
〈ええええ……私は逆に感動したけど!? アイリーンさん凄すぎ!〉
〈実は俺もちょっと怖くなったな……〉
……現に、コメント欄には恐怖を感じているものが少しずつ増え始めていた。
今までのように、純粋な興奮や称賛だけではない。
そこには――畏怖が混じっている。
まあ……こうなることは、ある程度予想していた。
あれだけの力を目の当たりにして、何も感じない方がおかしいだろう。
しかし、これは配信している俺の責任でもある。
視聴者にどんなものを見せるのか。
そして、世界中に知られることになる『紅蓮の魔女』という存在を、どう伝えていくのか。
それもまた、彼女の隣に立つ俺の仕事なのだろう。
……さて、これはこれで、また忙しくなりそうだな。
俺は改めて、『紅蓮の魔女』の相棒でいることの責任の重さを噛み締めながら――
未だ眩い光を放ち続ける空を見上げる。
その光の中には、もうアトランティカの姿はない。
強敵――【邪海龍・アトランティカ】。
あれほどの再生能力を誇り、何度倒されても進化を続けた怪物は、今度こそ完全に葬り去られたのだ。
俺はしばらくの間、ただ黙ってその空を眺め続けていた。
アトランティカ戦、決着!
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