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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第33話 解放された力


 一週間も空いてしまいました。


 だって仕事が忙しかったんだもの……


 また、更新ペースを戻せるように頑張りますね!

 第二部も佳境です、今しばらくお付き合い頂ければ嬉しいです!


 俺は覚悟を決めて、アイリーンさんよりも前へ出る。


 『ハヤトさん、本当に大丈夫なんですか?』


 魔神の姿へと変貌している今でも、アイリーンさんが強い緊張感を抱いていることが伝わってくる。


 アルカイドの能力によって水属性の攻撃に対する耐性を得ることはできた。


 しかし、それだけであのアトランティカの攻撃を完全に防げるとは思えない。


 ただ自分の安全だけを考えるのであれば、魔神化したアイリーンさんの後方に回り、援護に徹した方が遥かに安全だろう。


 アイリーンさんも、それを重々承知しているからこそ、俺の身を案じているに違いない。


 それでも――俺の答えは決まっている。


 「ええ、大丈夫です……俺に任せてください!」


 精一杯の声量で叫んだつもりだった。


 しかし、自分でもわかるほど、その声は震えていた。


 それでも、引くつもりは微塵もない。


 『わかりました……来ますよ! 構えて!』


 アイリーンさんがそう叫んだ瞬間、俺たちの目の前に巨大な水柱が噴き上がった。


 今の俺たちは、水属性の攻撃に対して完全な耐性を得ている。だから、この水柱そのものによってダメージを受ける心配はない。


 だが、だからといって警戒を怠るわけにはいかない。


 そう思った――その直後だった。


 水柱の中央から、青紫色の光がこちらへ向かって突き進んでくる。


 青紫色の光、それが何なのかなんて、考えるまでもない。


 ――アトランティカだ。


 長い蛇のような下半身をくねらせながら空中を飛翔し、両手には二振りの剣を携えている。その顔には、先ほどまで以上の凶悪な表情が浮かんでいた。


 ……やはり、目くらましか!


 水柱によって俺たちの視界を一瞬奪い、その隙に突撃する。


 これがアトランティカの狙いだったのだろう。


 全身から青紫色の光を迸らせながら、こちらへ一直線に突っ込んでくる。


 その速度は、もはや常軌を逸していた。


 『神速』を使っている俺自身が、そう錯覚してしまうほどの速度だ。


 俺もすぐに迎撃態勢へ移る。


 『神速』を使ったとしても回避できるかどうかわからないほどの速度で迫ってくるアトランティカに対して、俺が選択できる対抗手段は一つしかない。


 もちろん、それは――


 「頼むぞ、セプテントリオン……解放(リリース)!」


 俺はセプテントリオンを頭上へ振り上げる。


 その瞬間、剣の柄に埋め込まれた七色の宝石が、眩いばかりの光を放ち始めた。


 ◆


 ――これは、セプテントリオンの中へ精神だけを取り込まれた時のことだった。


 アルカイドを始めとする七星たちとの話を終え、現実世界へ戻される直前。


 俺はふと、あることを思い出していた。


 (そういえば……セプテントリオンの真の力って、どんな感じなんだ? ちゃんと聞いておけば良かったな)


 一番重要なことを聞き忘れていた。


 今さら気付いても遅い。


 (……まあ、仕方ないか。出たとこ勝負でやるしかないよな)


 半ば諦めたような気持ちになった、その瞬間だった。


 突然、頭の中へ何かが流れ込んできた。


 (……ん? 何だ、これ?)


 次の瞬間、俺の頭の中へ膨大な情報が一気に叩き込まれる。


 まるで、圧縮された大量の知識を一瞬で解凍しているような感覚だった。


 これまでの人生で一度も経験したことのない感覚に、俺は混乱する。


 すると――


 『後は、お前次第だ……存分に我らの力を振るってこい!』


 アルカイドの声が、頭の中へ直接響いた。


 (こ、これは……!)


 理解した。


 たった今、俺の頭へ送り込まれたのは――セプテントリオンの真の力、その全てだった。


 どのような能力なのか。


 どのように使えばいいのか。


 どんな効果があるのか。


 その全てが、まるで最初から知識として存在していたかのように理解できる。


 アルカイドたちは、現実世界へ戻る直前にこの情報を俺へ託してくれたのだろう。


 どうして、その場で直接教えてくれなかったのか……それについては、あえて聞かないでおこう。


 自分たちを倒した相手に力を貸すことへの抵抗だったのかもしれない。


 あるいは――単純に、キャラクター的に照れ臭かっただけなのかもしれない。


 どちらにせよ、アルカイドたちが俺へ伝えてくれた情報は、考え得る限り無駄を削ぎ落とされ、最適化されたものだった。


 そして、その力こそが――俺たちを救うことになる。


 (よし……行くぞ!)


 覚悟を決めた俺は、現実世界へと戻っていった。


 ◆


 そして今、目の前には、アトランティカが迫っている。


 セプテントリオンの真の力を発揮する瞬間が、ついに訪れた。


 『ギャギャギャギャァアアア! 死ネェエエエ!!!!』


 この世のものとは思えないほど悍ましい咆哮を響かせながら、アトランティカが突っ込んでくる。


 俺はそれを真正面から迎え撃つため――七色に輝くセプテントリオンを、力の限り振り下ろした。


 その瞬間、剣から七色の光が爆発的に迸った。


 巻き起こったのは、赤から紫まで鮮やかに色を変化させる、七色の光の奔流。


 一見すると、アリオトの『輝く炎』にも似ている。


 だが、その性質は全く違う。


 七色の波動は凄まじい勢いでアトランティカへと直撃し、その巨体を正面から押し返していく。


 『アギャギャァ!? コ、コレハァ!? 何ダァアアア!?』


 突如として放たれた七色の奔流に、アトランティカが驚愕の叫び声を上げる。


 そのまま、凄まじい勢いで後方へと吹き飛ばされていった。


 それを見ていた俺自身も、驚きを隠せなかった。


 「今のは……アリオトの……?」


 たった今放った攻撃は、これまで何度も使用してきたアリオトの『輝く炎』と同じものだった。


 ただし――その威力が、今までとはまるで違う。


 桁が違う。


 『神速』に匹敵するほどの速度で迫ってきたアトランティカを、真正面から一気に吹き飛ばしたのだ。


 通常の『輝く炎』とは比較にならないほど、その力が跳ね上がっている。


 そう、これこそが――『七星剣・セプテントリオン』の真の力。


 その能力は、七つの能力そのものを爆発的に強化することだった。


 ドゥーベ。


 メラク。


 アリオト。


 メグレズ。


 フェグダ。


 ミザール。


 そして――アルカイド。


 七つの能力全てを、極限まで強化された状態で使用することができる。


 しかも、通常なら存在する使用回数などの制限すら存在しない。


 ……いやぁ。


 大概、ぶっ壊れだよな、これ。


 そう思いながら、ふと頭上へ視線を向ける。


 そこには、見慣れないウィンドウが浮かんでいた。


 そこに表示されている数字は――『396』。


 そして、その数字は少しずつ減少している。


 ……あ。


 制限、あったわ。


 こんなところまで『七』で統一しなくてもいいのに。


 唯一の制限。


 それは――使用可能な時間だった。


 『解放(リリース)』を宣言した瞬間からタイマーが作動し、残り時間が『0』になった時点で、この状態は強制的に解除される。


 その時間は――七分。


 さらに、一度使用するとクールタイムは一週間。


 つまり――七日間だ。


 まあ、これだけぶっ壊れた能力なら、それくらいの制限があって当然なのかもしれない。


 〈す、すげぇええええええ! 何だ今の!?〉


 〈きれい……とにかく、めちゃくちゃきれい……〉


 〈ああ……『神速』さんまで人間やめちゃったのか……〉


 〈あんな馬鹿みたいな威力の攻撃して、もう配信者ってレベルじゃないだろw〉


 〈でもさ、最初はあんなに弱かった『神速』さんが、ここまで強くなるって……ちょっと感慨深いよな〉


 〈それはちょっとわかるw〉


 〈だよなw これならアイリーンさんと肩を並べられるんじゃない?〉


 〈確かになぁ……そう考えると、なんか感慨深いわ〉


 ちらりとコメント欄へ目を向ける。


 ……なんだ、このよくわからない流れは。


 まあ、概ね好評ってことでいいのかな。


 うん、そういうことにしておこう。


 そんなことを考えていると、再びアトランティカがこちらへ向かって滑空してくる姿が見えた。


 『貴様ァア! マタ妙ナチカラヲ使イヤガッテェエエエ!!!』


 巨大な翼を最大まで広げ、こちらへ迫ってくる。


 ……ように見えた。


 しかし、どうも様子がおかしい。


 まず、先ほどまでの速度が出ていない。


 いや、十分に速い。


 それでも、先ほど『神速』と見紛うほどの速度で突っ込んできた時とは比較にならない。


 それどころか、どんどん速度が落ちている。


 ……いや、間違いない。


 失速している。


 やがてアトランティカは高速飛行を維持できなくなり、その場で停止した。


 その表情には、明らかな苦悶が浮かんでいる。


 『ア……アギャギャ……? ナンダ、コレハ……カラダガ……オカシイゾォ……?』


 自分の身に何が起こっているのか、全く理解できていないようだ。


 だが、俺にはわかる。


 今、アトランティカの体を蝕んでいる異変。


 それは――俺の能力によるものだ。


 『毒蛇』ドゥーベ。


 通常であれば、斬撃と共に猛毒を付与する能力。


 しかし、覚醒状態となった今のドゥーベは違う。


 わざわざ斬撃を当てる必要すらない。


 アリオトの『輝く炎』そのものに、ドゥーベの毒を乗せることができる。


 しかも、その毒の効果は通常時とは比較にならないほど強化されている。


 アトランティカほどの化け物なら、通常の毒など気休めにもならないだろう。


 だが――極限まで強化されたドゥーベの毒なら話は別だ。


 『アギャギャギャ!? ク、クルジィイイ!?』


 とうとうアトランティカの全身から、血液と思われる青黒い液体が噴き出し始める。


 その巨体が大きく揺らぎ、やがて力を失ったように落下を始めた。


 俺はそれを見逃さない。


 すぐさま追撃へ移る。


 「さあ、アイリーンさん! 行きましょう! これで……決めます!」


 『はい……行きましょう!』


 俺の声に呼応するように、アイリーンさんも動き出す。


 セプテントリオンの真の力が覚醒したことで――


 初めて俺は、アイリーンさんと肩を並べて戦えるのかもしれない。


 これまで、とてつもなく偏っていた『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』。


 その二人の力関係が――今、ようやく変わろうとしている。


 落下していくアトランティカへ向かって飛翔しながら、俺は胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じていた。

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