第33話 解放された力
一週間も空いてしまいました。
だって仕事が忙しかったんだもの……
また、更新ペースを戻せるように頑張りますね!
第二部も佳境です、今しばらくお付き合い頂ければ嬉しいです!
俺は覚悟を決めてアイリーンさんよりも前に出る。
『ハヤトさん、本当に大丈夫なんですか?』
魔神の姿のままでもわかってしまうほど、アイリーンさんが緊張感を持っているのがわかった。
アルカイドの能力で水での攻撃に対する耐性は身に付けることができた。
しかし、あのアトランティカの攻撃がそれだけで防げるとは思えない。
ただ自分の安全のことだけを考えるならば、魔神化しているアイリーンさんの援護に回っている方が遥かに安全だろう。
アイリーンさんもそれを重々理解しているからこそ、心配してくれているに違いない。
それでも俺の答えは決まっているんだ……
「ええ、大丈夫です……俺に任せて下さい!」
精一杯の声量で出したつもりの声はこれでもかというくらいに震えていた。
それでも、引くつもりだけは微塵もない。
『わかりました……きますよ!構えて!』
アイリーンさんがそう言った瞬間、目の前に巨大な水柱が出現する。
今の俺たちは、水属性の攻撃に対しては完璧な耐性を有しているため、この水柱を使用した攻撃でダメージを受ける心配はいらない。
しかし、だからといって警戒を怠るわけにはいかない。
……と思ったと同時に水柱の中央から青紫色の光が迫ってくるのが見えた。
青紫色の光……それはもちろん、アトランティカだった。
長い蛇のような下半身をくねらせるように飛行しており、両手に剣を二本持ち、恐ろしい形相のままこちらへ向かってくる。
……やはり、目くらましか!
水柱のせいで一瞬反応が遅れてしまったが、これが狙いだったのだろう。
全身を発光させながら、突っ込んでくるつもりのようだ。
その速さは常軌を逸しており、もはや『神速』より速いのでは?と考えてしまうほどだった。
俺もすぐに迎撃態勢を取る。
『神速』を使用しても回避できるかどうかの速度で突進してくるアトランティカに対して、俺が用いることが可能な対抗手段は一つしか存在しない。
もちろん、それは……
「頼むぞ、セプテントリオン……解放!」
俺はセプテントリオンを振り上げる。
輝く剣の柄にはめ込まれた七色の宝石が眩い光を放ち出した。
◆
――あれは、セプテントリオンの中に精神だけ取り込まれた時のことだった。
アルカイド率いる七星たちと話した後に現実世界に戻る直前……
(そういえば、セプテントリオンの真の力ってどんな感じなんだ?ちゃんと聞いておけば良かったな)
一番大事なことを聞き忘れていたことに気付いてしまった。
(……まあ、今さらどうしようもないよな。出たとこ勝負でやるしかないか)
半分あきらめの境地に達した俺の頭の中に、突然、何かが入ってきた感覚があった。
(……んん!?なんだこれ?……ていうかこれは?)
それはとある情報だった。
これでもかと凝縮された情報が一気に頭の中に入ってくる感覚。
人生でこれまで味わってきたことがなかった感覚に混乱していると……
『後は、お前次第だ……存分に我らの力を奮ってこい!』
アルカイドの声が頭の中に鳴り響いた。
(こ、これは……セプテントリオンの真の力の情報か!)
たった今、俺の頭に叩き込まれたのはまさにセプテントリオンの真の力の詳細な情報だった。
それは、どのような能力でどんな使い方をすれば良いか、まで事細かに解説されていた。
アルカイドたちが、現実世界に戻る前に俺に伝えてくれたのだろう。
どうして、あの時に教えてくれなかったのか……は敢えて聞くまい。
自分たちを倒した相手に力を貸すことに対しての抵抗か?はたまた、ただキャラ的に照れ臭かっただけなのか……
とにかく、考え得る限り簡略化され最適化された方法で俺に届けられた情報は……
まさに俺たちを救うことになるのだった。
(よし……行くぞ!)
気合を入れた俺は現実世界に戻っていくのだった。
◆
そして今、目の前にアトランティカが迫る状況で、そのセプテントリオンの真の力を発揮する瞬間が訪れた。
『ギャギャギャギャァアアア!死ネェエエ!!!!』
この世のものとは思えないほどの悍ましさを秘めた叫び声を響かせながら突っ込んでくるアトランティカへ向けて……
七色に光るセプテントリオンを、力の限り振り下ろした。
そこに巻き起こったのは、七色の光の奔流。
一見するとアリオトの輝く炎のような見た目をしているが、赤から紫までの鮮やかな虹色の光を放っているという点では、全く違うものだった。
そんな七色の波動がアトランティカの正面からぶつかり、凄まじい勢いで押し戻していく。
『アギャギャァ!?コ、コレハァ!?何ダァアアア!?』
突如として放たれた七色の波動に驚きながら盛大に吹き飛んでいくアトランティカを見ながら、俺も驚きの表情を隠せなかった。
「今のは……アリオトの……?」
たった今放った波動は、今まで何度も使用したアリオトの輝く炎と同じ能力だった。
しかし、その威力は今までとは段違いどころか桁が違う。
『神速』に匹敵するほどの勢いで目の前まで迫ってきていたあのアトランティカを、あそこまで一気に
吹っ飛ばしてしまうのだから、通常では考えられないレベルまで威力が上昇しているのだ。
そう、これが『七星剣・セプテントリオン』の真の力だった。
その能力は、七つの能力の爆発的な上昇。
ドゥーベ、メラク、アリオト、メグレズ、フェグダ、ミザール、そしてアルカイド。
それぞれの能力の効果を極限までグレードアップした状態で使用可能となる。
しかも、使用回数などの制限が無い状態でだ。
……いやぁ、大概ぶっ壊れだよなこれ。
そう思いながらふと頭上に視線を向けるとそこにはとあるウィンドウが表示されていた。
そこには何やら数字が記載されており、今は『396』と表示されているが、どんどんその数字は減少しているのが見えた。
いや、制限はあったな……でもこんなところまで『7』で統一しなくても良いのに。
唯一の制限は、使用可能な時間が制限されているところだった。
その制限時間は七分。
『解放』の宣言と共にタイマーが作動し、残り時間が『0』となった時点で状態が解除されてしまうのだった。
しかも、一度使用してしまうとそのクールタイムは一週間……つまり七日間に及ぶのだ。
まあ、確かにこんなぶっ壊れた能力だと、それくらいの制限は必要かもなぁ……
〈す、すげぇええええええ!何だ今の!?〉
〈きれい……とにかく、すごいきれい……〉
〈ああ……『神速』さんまで人間やめちゃったのか……〉
〈さすがにあんな馬鹿みたいな威力の攻撃しちゃって配信者は無理があるよ……〉
〈いや、でもさ、最初はあんなに弱かった『神速』さんがここまで強くなるなんて……俺はちょっとだけ嬉しいけどな〉
〈それはちょっとわかるw〉
〈だなwこれでアイリーンさんと肩を並べられるんじゃない?〉
〈確かになぁ……そう考えると感慨深いものがあるかもなぁ……〉
ちらっとコメント欄を見ると、よくわからない流れになっているが……
……まあ、概ね好評なのかな、うん、そういうことにしておくか。
そう考えていると、再びアトランティカが滑空しながらこちらに向かってくるのが見えた。
『貴様ァア!マタ妙ナチカラヲ使イヤガッテェエエエ!!!』
巨大な翼を最大まで広げながらこちらへ迫りくる……ように見えたが、少し様子がおかしかった。
まず先ほどまでの超スピードが出ていない。
いや、速いには速いが、先ほどの『神速』と見紛うレベルとは、天と地との差があるほどの速度だ。
それに、どんどん失速していっているように見える。
……いや、間違いなく失速しているなあれは。
とうとう、高速飛行を止めてその場で止まるアトランティカの表情はどことなく苦しそうに見えた。
『ア……アギャギャ?……ナンダコレハ……カラダガ……オカシイゾォ……?』
自分の体に何が起こっているか全く理解できていない様子だが、アトランティカの体に起こっている異変はもちろん俺の能力によるものだ。
それは、『毒蛇』ドゥーベの能力だった。
通常であれば、斬撃と共に猛毒状態を付与することが可能な能力ではあるが、覚醒状態ではわざわざ斬撃に頼らなくても、アリオトの炎にその効果を反映させることができるのだ。
もちろん、その毒の効果も桁違いに上昇している。
アトランティカクラスの魔物であれば、普通の毒攻撃なんて気休めにもならないだろうが、極限までパワーアップしたドゥーベの毒に耐えられるわけがなかった。
『アギャギャギャ!?ク、クルジィイイ!?』
とうとう、全身から血液と思われる青黒い液体を噴出しながら落下し始める巨体を見て、さらに追撃を加えるべく行動を開始する。
「さあ、アイリーンさん、行きますよ!これで……決めましょう!」
『はい……行きましょう!』
俺の掛け声に呼応するかのように行動を開始するアイリーンさん。
セプテントリオンの真の力の覚醒により、初めてアイリーンさんと肩を並べて戦うことが可能になるかもしれない……
今までとてつもなくパワーバランスが偏っていた『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』のコンビが……
今まさに新たな局面を迎えようとしている。
落下するアトランティカへ向かいながら、胸に熱いものがこみ上げてくるのを実感しているのだった。
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