第31話 真の七星剣
ちょっと忙しすぎて更新遅れてしまいました……
今回、ちょっと今までとは違うアプローチの話になったと思います。
もしよろしければ感想など頂ければ嬉しいです!
――ここは、どこだ?
俺は確か、ダンジョンのボスフロアでアトランティカと戦っていたはずだ。
それなのに、俺が立っている場所は、さっきまでいたボスフロアとはまるで違っていた。
周囲を見渡すとそこには、どこまでも続いているような広大な空間が広がっていた。
頭上には、まるで宇宙そのものを切り取ったかのような満天の星空。
足元には、美しく整えられた石畳が隙間なく敷き詰められており、それが地平線の彼方まで延々と続いている。
……いや、この光景には見覚えがある。
どこで見た?
そう考えた直後、俺の脳裏に一つの場所が浮かび上がった。
間違いない、ここは――グランドダンジョン【星崩の大魔宮】だ。
つい先日俺たちが踏破したグランドダンジョン、その内部と全く同じ光景だった。
『――やっと来たな、待っていたぞ』
その声に、俺は反射的に振り返る。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
大柄な体格、逆立った真紅の髪。
険しい顔つきに、鍛え抜かれた肉体。
そして、腕を組みながらこちらを見下ろしている。
「お前は……」
この姿には見覚えがある……いや、忘れるはずがない。
グランドダンジョン【星崩の大魔宮】のボス――『セプテントリオン・アルカイド』
ただし、以前に対峙した時とは少しだけ雰囲気が違っていた。
険しい表情は相変わらずだが、以前感じたような敵意や威圧感は、随分と薄れているように思える。
『ふん……やっと我を呼んだと思えば、なんだその腑抜けた面は』
「いや、だって……なんでお前がここにいるんだよ? それに、ここは一体……」
『ここは七星剣の内部に存在する精神世界だ』
アルカイドは当然のことのように答える。
『正確には、お前の精神だけをこの空間へ招き入れている』
「……そういうことなのか」
なるほど、そう言われれば、今の状況にも納得できる。
俺は今、現実の肉体を残したまま、精神だけがセプテントリオンの内部へ呼び込まれているということか。
……でも、だったら何のために?
俺が考え込んでいると、アルカイドが呆れたように口を開く。
『いつまで考え込んでいるつもりだ? そろそろ本題に入ってもいいか?』
「……あ、ああ、悪かった。それで、本題って?」
『七星剣の全能力解放に伴う――覚醒についてだ』
「覚醒……?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中に一つの記憶が蘇った。
……そうだ。
以前、七星剣を鑑定した時に、そんな記述があった。
確か――
【七つの星に封印された能力を自在に使用することが可能。それら全てが解放された時に真価が発揮されるであろう】
そう書かれていたはずだ。
七つの星に封印された能力。
それはもちろん、セプテントリオンに備わっている七つの能力のことだろう。
そして、その全てが解放された時。
セプテントリオンは、本当の力を発揮する。
つまり……今から俺は、その力を手に入れるということなのか?
『ふん……ようやく理解したか』
「なるほど……そういうことだったのか」
ようやく話が繋がった。
「でも……真の力が覚醒するって、一体どんな力なんだ?」
『それは使ってみれば分かる』
アルカイドは意味ありげに口元を吊り上げる。
『何も心配する必要はない。お前ならば、使った瞬間に理解できるはずだ』
「そうなのか……だったら、もっと早く七つの能力を使っておけばよかったな」
『……その考えは浅いな』
「え?」
『今回、我が力を貸すのは、お前がようやくその資格を得たからにすぎん』
アルカイドの言葉に、俺は目を丸くする。
『以前のお前が我の能力を使用したところで、我は力を貸すつもりなど毛頭なかった』
「……なんですと?」
まさかの事実だった。
「じゃあ、以前の俺と今の俺では何が違うんだ?」
『そんなことまで我に説明させるつもりか?』
「いや、それは……」
アルカイドが呆れたようにため息を吐く。
『それくらいは自分で理解してほしいものだが……まあいい。ヒントくらいは教えてやろう』
そして、真っ直ぐに俺を見据える。
『お前の相棒への想い』
「……」
『そして、それに伴って強くなった精神力だ』
相棒への想い。
その言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだのは一人しかいなかった。
――アイリーンさん。
確かに俺は、あの人を守ると決めた。
自分の命を賭けてでも、彼女の力になると。
その覚悟こそが、今回の能力解放へと繋がったということなのだろう。
つまり、俺がアイリーンさんを守りたいと強く願ったことで、俺自身の精神力が強くなった。
そして、それを七星剣が認めた。
結果として、最後に残されていたアルカイドの力が解放される。
それによって七つ全ての能力が揃い、セプテントリオンの真価が発揮される。
……そういうことなのか。
「そうか……」
自然と、口元が緩んだ。
「そういうことだったのか……」
俺は胸の奥から込み上げてくるものを噛みしめる。
「だったら、本当にありがたい」
拳を握る。
「これで……アイリーンさんの力になれる!」
『……ああ』
アルカイドが静かに頷く。
『それでこそ、我らの持ち主に相応しい』
「ありがとう。これからはもっと頑張――」
俺はそこで言葉を止めた。
「……ん?」
「今……我らって言った?」
『……』
アルカイドは答えない。
その代わり――俺の背後から、次々と気配が現れ始めた。
ひとつ。
二つ。
三つ。
……六つ。
先ほどから存在しているアルカイドと合わせれば――
七つ。
七つの気配が、俺を取り囲むように集まっていく。
そして、その中の一人が豪快な笑い声を上げた。
『ギャハハハ! お前がどんだけやれるのか、ここから高みの見物と洒落込んでやるぜぇ!』
振り返ると、そこには緑色の髪をした蛇のような姿の魔族が立っていた。
「ドゥーベ……!」
『ほら、さっさと戻って戦ってきやがれ! あの海龍をぶっ飛ばしてこい!』
相変わらず騒がしい。
すると、その隣から別の声が聞こえてくる。
『……あれほど逃げ回っていた小童が、果たしてどこまでの傑物となったのか』
腕を組み、静かにこちらを見つめる漆黒の装束を纏った男。
「メラク……」
『しかと見届けてやろう』
その隣では、巨大なドラゴンが悠然と佇んでいた。
『我らの新たな持ち主が、どこまで昇りつめられるのか……存分に楽しませてもらおうぞ』
「アリオト……」
そのさらに隣から、少女の声が飛んでくる。
『まあ、私たちの持ち主がこんな普通っぽい人だなんて、ちょっと納得いかないんだけどねー』
「メグレズ!」
……こいつ、見た目はごついモンスターみたいな姿のくせに、喋るとやたらと軽いんだよな。
アイリーンさんから聞いて知っているぞ。
『ふぇっふぇっふぇっ! しかし、面白くなってきたのぉ!』
続いて聞こえてきたのは、老人のような笑い声。
「フェグダ……」
『ほれほれ、さっさと元の世界へ戻らんか! あの小娘を助けてやれ!』
……自分を焼き尽くした相手を心配するって、こいつも大概変な奴だよな。
そして最後、俺の視線の先には、ツンとした表情を浮かべる女性が立っていた。
『こんな人間が我らの持ち主になるとは……』
「ミザール……」
『……まあ、アルカイド様がお認めになったのであれば、仕方ありませんね』
相変わらず厳しい。
だが、不思議と以前のような強烈な威圧感は感じない。
むしろ、どこか温かさすら感じる。
そして、七人の視線が一斉に俺へ向けられた。
アルカイドが代表するように口を開く。
『――これで七星が揃った』
七人。
セプテントリオンに宿る七つの星。
それぞれ性格も、姿も、俺への言葉も全く違う。
厳しいことを言う奴もいる。
茶化してくる奴もいる。
上から目線の奴もいる。
それでも、不思議と、誰一人として敵意を向けているようには感じなかった。
「……ありがとう」
自然と、その言葉が口から出た。
「上手く言えないけど……俺、頑張るよ」
アルカイドが、ほんの僅かに口元を緩める。
『ふん……ならば、健闘を祈ってやる』
その瞬間だった。
周囲の景色が、徐々に白く染まり始める。
「……もう時間か」
どうやら、現実世界へ戻されるらしい。
七人の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
これで俺は、セプテントリオンの七つ全ての能力を使える。
そして、その先にある――七星剣の真の力。
ようやく俺は、その力へ手を伸ばすことができるようになった。
セプテントリオンを手に入れてから、ここまで来るのに随分と時間が掛かった。
それでも、今この瞬間、俺は確かに、七星剣の真の所有者としての第一歩を踏み出したのだ。
白く染まっていく視界の中で、俺は最後に七人の姿を見た。
アルカイド。
ドゥーベ。
メラク。
アリオト。
メグレズ。
フェグダ。
ミザール。
七つの星、七つの意思、その全員が――どこか誇らしげな表情で、俺を見つめていた。
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