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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第27話 『紅蓮の魔女』 VS 『邪海龍』

 

 「一体どうなってる!? 早く報告を上げてこないか!」


 「しかし、現状では報告しようにも情報が少なすぎます……!」


 「……っ! 一体何が起こってるんだ? こんなことは初めてだぞ!」


 怒号と困惑の声が飛び交っているのは、ダンジョン統括省第六支部――沖縄を管轄する支部の内部だった。


 ハヤトの配信を通じてダンジョン内部の状況を確認していた職員たちは、今回のSランクダンジョンが、これまでとは明らかに異なる状況にあることを理解していた。


 セーブポイントの撤去。


 アイテムの使用禁止。


 そして、想定を遥かに上回る強さを持つダンジョンボス。


 次々と判明していく異常事態に、支部内は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


 「セーブポイントとアイテムの使用禁止……一体、何故そんなことになるんだ!?」


 「しかも、今回のボスの強さは今までとは桁違いです!」


 「本部には連絡を入れたのか!? 『蒼氷の聖女』は来られないのか!?」


 「連絡は入れました! ただ、本部も例の『黄牙団』による襲撃の影響で混乱しているようです。それに『蒼氷の聖女』については、この後に出現する予定のグランドダンジョンに備えるため、動かせないとのことです!」


 アイリーンたちが挑んでいるSランクダンジョン【海魂の冥穴】を踏破すれば、ほどなくして新たなグランドダンジョンが出現する。


 新たなグランドダンジョンが出現すれば、『黄牙団』のような他国の勢力がそれを狙ってくる可能性がある。


 ダンジョン統括省としては、出現したグランドダンジョンを他国に奪われる前に、速やかに冒険者を派遣し、踏破しなければならない。


 セイラや清十郎は、そのための戦力として温存するという判断が下されていた。


 このダンジョン全盛期の時代において、Sランク冒険者は人類にとって貴重な戦力であり、まさに財産とも呼べる存在だ。


 そんなアイリーンが、セーブポイントもアイテムも使えない状況で、想定外の強敵と戦っている。


 これほど危険な状況を、ダンジョン統括省として見過ごすわけにはいかなかった。


 「ギルドに連絡して、他の冒険者を応援に向かわせられないのか!?」


 「お言葉ですが……この辺りで最も実力のある『斬ん人(きりんちゅ)』ですら、命からがら脱出した状況です。他の冒険者を向かわせても、助けになるとは思えません」


 「くそっ……どうすればいいんだ……」


 誰も答えを返せない。


 このままでは、本当にアイリーンたちの命が危険に晒される。


 しかし、現時点でダンジョン統括省が取れる手段は、ほとんど残されていなかった。


 祈るような気持ちで、配信画面を見つめるしかない。


 (……最終的には、あれを使うしかないのか?)


 脳裏に、一つの手段が浮かぶ。


 (……いや、駄目だ。さすがに、あれは危険すぎる)


 職員は拳を強く握り締めた。


 「頼むから……生き延びてくれよ」


 苦しげに呟き、天井を見上げる。


 最終手段、頭を過ったそれは、少なくとも、今はまだ使用する段階ではない。


 彼は苦渋に満ちた表情を浮かべながら、絞り出すように呟いた。


 「あれだけは……使うわけにはいかんのだ……」


 ◆


 「ギャギャギャギャァァア! 死ねぃ!」


 アトランティカの周囲を漂っていた海水が、突然その形を変えた。


 まるで意思を持った触手のように細長く伸び、激しく蠢き始める。


 その動きは、巨大な海蛇そのものだった。


 一本、二本、三本――


 数え切れないほどの巨大な水流が、それぞれ異なる軌道を描きながら、一斉にこちらへ襲い掛かってくる。


 「『イグナイト・ブレイド』!」


 アイリーンさんは即座に杖へ魔力を注ぎ込んだ。


 次の瞬間、杖の先から巨大な炎の刃が形成される。


 「はああああ!!!!」


 そのまま身体を翻し、舞うような動きで迫り来る水流へ斬撃を叩き込んでいく。


 ズバァッ!


 炎を纏った斬撃が水流を切り裂く。


 一撃、また一撃と、巨大な水流は次々と切断され、ただの海水へと戻った直後、纏わりついていた炎によって一気に蒸発していった。


 「ほおお!? やるではないかぁ!」


 アトランティカが嬉しそうに声を上げる。


 「これならどうだぁ! ギャギャギャギャァ!」


 次の瞬間、目の前の海面が大きく盛り上がった。


 大量の海水が一点へと集まり、巨大な何かを形作っていく。


 「……何だ、あれ?」


 徐々に輪郭が浮かび上がる。


 長大な胴体、巨大な頭部、鋭い牙。


 やがて姿を現したのは――巨大な龍だった。


 水だけで構成された、アトランティカそっくりの龍。


 まるで、水で作り出した分身のようだった。


 「ギャギャギャギャ! 俺の分身に八つ裂きにされるがいいわぁ!」


 アトランティカの真紅の瞳が妖しく輝く。


 同時に、水の龍が動き出した。


 「クリムゾン・メテオ!」


 アイリーンさんが杖を振るう。


 その瞬間、上空に無数の赤い光が現れた。


 数え切れないほどの灼熱の隕石群が、空を埋め尽くすように出現する。


 「な、何ぃ!?」


 次の瞬間、無数の隕石が、一斉に降り注いだ。


 ドドドドドドドドドドッ!!


 凄まじい轟音と共に、隕石の雨がアトランティカへ襲い掛かる。


 同時に、水の龍も隕石の直撃を受け、次々と身体を貫かれていく。


 巨大な水の身体が崩れ、無数の水滴となって海面へ落下していった。


 「ぐおぉぉォオオオ!? 何だこれはぁ!?」


 アトランティカも無傷では済まない。


 咄嗟に大量の水を操り、何重もの障壁を作り出したようだ。


 しかし――


 「そんなもので止められるわけないだろ……」


 隕石は次々と水の障壁を貫いていく。


 そして、そのままアトランティカの巨体へと突き刺さった。


 「ぐおおおおおおお!?」


 巨体が大きく揺れる。


 何発もの隕石が、その身体を容赦なく穿っていく。


 やはり、アイリーンさんの魔法は桁が違う。


 セーブポイントが使えなくても。


 アイテムの使用を禁止されても。


 そもそもの戦闘能力が、規格外なのだ。


 目の前で繰り広げられている光景が、その事実を嫌というほど思い知らせてくる。


 「ギャギャギャギャァアアアア! いい加減に……しろぉおおおオオオオオ!!!!」


 隕石を浴び続けていたアトランティカの身体が、突如として激しく発光し始めた。


 全身を覆っていた青紫色の光が急激に強まり、周囲の海まで青紫色に染め上げていく。


 「……何だ?」


 嫌な予感がした。


 アトランティカが大きく頭を持ち上げる。


 「――ガァァァァァアアアア!」


 凄まじい咆哮と共に、その口腔から、青紫色の光が溢れ出す。


 龍が持つ最大級の攻撃――ブレスだ。


 「来るぞ……!」


 直後、アトランティカの口から凄まじい光の奔流が放たれた。


 一直線に伸びる青紫色の閃光が、俺たちへ向かって襲い掛かってくる。


 「――『ボルガニック・レイザー』!」


 アイリーンさんが迎え撃つ。


 杖の先から、極太の熱線が放たれた。


 赤々と輝く熱線と、青紫色のブレス。


 二つの極大攻撃が真正面から衝突する。


 「ギャァァァァァ!?」


 拮抗していたのは、ほんの一瞬だった。


 極太の熱線がブレスを押し込み、そのまま真っ二つに切り裂いていく。


 青紫色の光が左右へ弾け飛ぶ。


 「……な、何だとぉ!? 俺のブレスがァアア!」


 熱線は止まらない。


 そのままアトランティカへ向かって突き進み、頭部を正面から貫いた。


 「――ッ!?」


 巨大な頭部が、熱線に飲み込まれる。


 次の瞬間、粉々に吹き飛んだ。


 百メートルを超える巨体が、まるで糸が切れたように動きを止める。


 「……す、すげぇ……」


 何度も見てきた。


 アイリーンさんの圧倒的な魔法攻撃。


 それでも、目の前で繰り広げられた光景には言葉を失ってしまう。


 頭部を完全に破壊されたアトランティカは、そのまま海面へ崩れ落ち――


 動かなくなった。


 〈すげぇええええ!!!!〉

 〈いや、ちょっと待てw 結局これかいw〉

 〈アイリーンさんにはアイテムもセーブポイントも必要なかったんや〉

 〈あんな化け物をあっさり倒すとか……やっぱり凄すぎる〉


 配信のコメント欄も、驚愕の声で埋め尽くされている。


 「アイリーンさん! やりましたね!」


 俺は思わずアイリーンさんへ駆け寄った。


 ようやく終わった。


 そう思ったが、何かがおかしい。


 俺は足を止め、アイリーンさんの表情を見た。


 「……?」


 いつもの笑顔がない。


 アイリーンさんは、真剣な表情でアトランティカを見つめていた。


 全身から一切の気が抜けていない。


 「……どうしたんですか?」


 俺が尋ねた瞬間だった。


 「……まだです!」


 アイリーンさんが鋭く叫ぶ。


 「気を付けてください!」


 その声が響いた直後――頭部を失ったはずのアトランティカの巨体が、激しく爆ぜたのだった。

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