第6話 コンビ結成後の彼是
「アイリーンさん!そっち行きました!」
「はーい!クリムゾン・メテオ!」
アイリーンさんが杖を振るうと、天から灼熱の隕石が降り注いでくる。
「うわわわわ!!!相変わらず過剰防衛過ぎるでしょう!!!」
俺は『神速』を使用し、燃え盛る隕石をギリギリで避けながらアイリーンさんの戦闘を配信する。
今俺たちがいるところはAランクダンジョン『愚蟲の樹海』、屈強な魔蟲型のモンスターの巣窟だ。
その屈強なモンスターたちがアイリーンさんの魔法で、文字通り虫けらのように散っていく。
「いや、絶対にやりすぎだよなぁ……」
なぜ、地べたを這いずり回る蟲たちを倒すのに、空から隕石を落とすのか。
何となく突っ込んではいけないような気がするので、その疑問はそっと胸にしまっておこう……
何とか全ての隕石を避けきり、息を切らしながら配信を続ける。
〈相変わらず、『紅蓮の魔女』の火力が異常でワロタ〉
〈ていうか『神速』さん、回避も配信も上達したねー〉
〈本当に、最近は配信を見てても安心してられるというか……〉
〈その反面、アイリーンさんの火力が上昇し続けてるんだが〉
〈ある意味『神速』さんを信頼してるってことか〉
〈何その危ない関係〉
〈まあ、それも含めて配信見ちゃうんだけどねー〉
今回の配信の同時接続数は既に10万人を超えている。
俺とアイリーンさんの配信チャンネル【『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』】は現在進行形で絶好調だ。
え?Sランクダンジョンをクリアしたのに、何故こんなAランクダンジョンで油を売ってるのかって?
しかもせっかく解放されたグランドダンジョンにさっさと挑めとか言ってます?
……そんなの俺が一番わかっとるわ!
国の許可が下りないんだよ!!!
どうやら、グランドダンジョンの存在は国家機密レベルだったらしく、あの配信の直後にこの国の政府の関係者を名乗る者から接触があった。
曰く、いくら解放されたからといって、グランドダンジョンの存在は国の存亡に関わる。
そんなところに、アイリーンさんはともかく俺のような初心者を入れるわけにはいかないんだそうだ……
その政府関係者の横暴な物言いに怒ったアイリーンさんが、そいつらを一息で消し飛ばそうとしたが、それは俺が必死に止めた。
犯罪者になるわけにはいかないからな。
なんだかんだで、俺に政府から出された条件は二つ。
一つは、上級職へ就くこと。
今の俺は多少レベルこそ上がったものの未だバリバリの下級職だ。
ちなみに俺の今のジョブは『配信者』、そのままだと突っ込んだ君、その通りだ。
というわけで俺はジョブを下級職の『配信者』から上級職の『上級配信者』へと進化させなければならない。
ん?上級職までそのままじゃないか、だって?
そう、君は決して間違ってはいない。
話が逸れたが、もう一つの条件はAランクダンジョンを5つ以上踏破することだった。
これは単純にダンジョン攻略に置ける貢献度を要求されているとのことだった。
Aランクダンジョンを踏破するだけでも物凄い栄誉を得られるこの世界。
そこで5つものAランクダンジョンを踏破したともなると、その貢献度は凄まじい。
そこまでなって、初めてグランドダンジョンに挑戦する資格を得ることが出来るらしい。
……というわけで、俺とアイリーンさんは、俺のレベル上げ、Aランクダンジョンの踏破、配信の練習、これらを並行して進めていくために、片っ端からAランクダンジョンへ挑んでいるという状況だなのだ。
そしてこの『愚蟲の樹海』でちょうど5つ目のAランクダンジョンとなるわけだ。
ちなみに俺の今のレベルは90に達している。
後少しでレベル99、つまりカンストに達する。
ということは、もう一つの条件、上級職へ就くことが出来るようになるということ。
やっとグランドダンジョンへの挑戦権が見えてきたことに胸が高鳴る思いがする。
そんな俺たちは、ボスフロア前のセーブポイントに到達していた。
『愚蟲の樹海』は森林型のダンジョンだ。
セーブポイントの先には、『深淵の回廊』と同様にボスフロアへの大扉が設置されている。
森林なのに大扉とはちょっと意味がわからないが、ダンジョンだから仕方がない。
「さて、ハヤトさん行きましょうか」
「はい、ちょっと準備しますんで待ってもらえますか」
そう言いながら俺は『神式配信セット』を操作し、ドローン形態からバックパック形態へ変化させ背中に装着する。
ヘッドセットに配信用カメラを装着し、これで準備完了。
お馴染みのボス専用配信形態の完成だ。
『神式配信セット』は触れ込み通り、アイリーンさんの攻撃にも耐えうる耐久力を誇るが、ボス戦の場合、ドローン形態だとどうしてもアイリーンさんの配信が上手く出来ないのだ。
ボス戦ともなるとさすがのアイリーンさんも気合が入るらしく、強力な魔法を際限なく放ち続ける。
そうするとどうなるか?
ドローンは破壊こそされなかったが、そんな激しい攻撃にさらされ続けたため、撮影用カメラには全く何も映らなかったのだ。
ギャラリーたちからゼロ距離で花火を見ているようで面白くない、と苦情が相次いだため、ボス戦に限っては俺が直接カメラを装着しながらの配信とすることに決めたのだ。
「お待たせしました。準備完了です」
「はい、じゃあ行きましょう」
「わかりました。ええと、それではみなさん、只今からAランクダンジョン『愚蟲の樹海』のボスに挑みたいと思います」
〈待ってました!〉
〈これでAランクダンジョン5つ目だね!〉
〈何気に偉業を達成してて草〉
〈次はグランドダンジョンか、いよいよだね〉
〈まあまあ、まずはここのボス戦だよ。一応Aランクだよ?〉
コメント欄を見ながら気を引き締める。
俺とアイリーンさんは、大扉をくぐりボスフロアへとたどり着いたのだった。
◆◆◆◆
そこは、今までの木々が生い茂っていた森林地帯とは違い、広大な草原のような場所だった。
その草原の中央に巨大なモンスターが鎮座している。
『アルティメット・ビートル』、巨大なカブト虫の形をしたモンスターだ。
どうやらこいつがこの『愚蟲の樹海』のボスらしいな。
「それじゃあ、いつも通り私が相手をしますので、ハヤトさんは配信をお願いしますね」
にっこりと微笑みながら無造作に『アルティメット・ビートル』の方へ歩いていくアイリーンさん。
俺はいつも通り、アイリーンさんとボスの戦闘が一番よく見える場所を探り、そこへ『神速』を使い高速移動する。
今回は、少し離れた場所に大きな岩の台座のようなオブジェがあったので、その上を陣取りアイリーンさんをカメラで狙うことにした。
アイリーンさんが普通にテクテクと歩き続け、『アルティメット・ビートル』の射程距離に侵入した瞬間、けたたましい羽音が鳴り響き始めた。
『アルティメット・ビートル』がその巨大な羽根を激しく振動させている。
どうやらアイリーンさんを威嚇しているようだが、全く通じていない。
「キシャァァアアアアアアア!!!!」
『アルティメット・ビートル』はその巨大な角をアイリーンさんへ向けながら突進を始めた。
いや、でもこれは……
「グランド・エクスプレージョン!」
アイリーンさんは杖の先端を『アルティメット・ビートル』へ向けて魔法を放つ。
その瞬間、巨大な大角の中央辺りで一瞬火花がチカッと光ったかと思うと……
『アルティメット・ビートル』の体長の何倍もの大爆発を巻き起こした。
あまりの威力に一瞬で消滅する『アルティメット・ビートル』。
しかしその爆発の余波で周囲には衝撃波が吹き荒れ、巻き上げられた岩石は火山弾と化し周囲に降り注ぎ始めた。
「いや、またこのパターンかよぉ!!!」
当然、俺は巻き込まれまいと『神速』を発動するが、今回は激しい衝撃波と火山弾の雨あられだ。
衝撃波は地面すれすれを超スピードで走ってきたので特大ジャンプで回避する……が、次は火山弾が降り注ぐ。
素早く地面の着地した俺は右に左に『神速』で駆け回り、頭上から落ちてくる火山弾の雨を避けまくる。
……やがて、災害と呼んでも差し支えない程の余波が収まった時、草原の真ん中に優雅に立ちながらニコニコと微笑み続けるアイリーンさんを発見した。
Aランクダンジョン『愚蟲の樹海』、踏破の瞬間だった。
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