第13話 究極?の選択
――超級職について。
超級職とは、上級職のさらに上に位置するジョブ。
言うまでもなく、現状、冒険者が就くことのできる中では最高位にあたる。
それ故に、超級職は多くの冒険者にとって憧れの存在だ。
そんな超級職に就くためには、二つの条件を満たさなければならない。
一つ目は、上級職に就いた状態でレベルをカンストまで上げること。
こちらの条件も決して簡単ではない。
だが、長年ダンジョンに潜り続けてきた熟練冒険者の中には、この条件を達成している者も少なくない。
問題は――もう一つの条件だ。
こちらは、冒険者たちの間でも極めて難しい条件として知られている。
その条件とは――ダンジョン統括省と冒険者ギルド、双方からの許可を得ること。
この二つ目の条件があるため、実力だけを見れば十分に超級職へ到達できるにもかかわらず、未だにその資格を得られていない冒険者は数多く存在する。
例えば、『金剛の刃』のクランオーナー、金剛寺アキラがその一人だ。
彼は上級職のレベルをカンストまで上げており、実力も並の冒険者を遥かに凌駕している。
それでも、未だに超級職には就いていない。
並外れた実力、模範となる素行、そして、それに見合った実績。
それらを総合的に判断した上で、両組織から許可を得なければならない。
アキラの場合は、そのいずれか、あるいは複数の項目が不足していると判断されているため、現在も保留扱いとなっているのだろう。
しかし――中には、そんな基準をある意味で豪快に踏み越え、例外的に超級職となった者もいる。
その代表例が、『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレットだ。
彼女は単独で活動する冒険者。
しかも、その圧倒的な火力によって数多くの冒険者を戦闘に巻き込み、場合によっては周囲をまとめて灰にしてきた。
普通に考えれば、素行面だけで超級職の許可を得るのは不可能に近い。
だが、彼女の実力は、並外れているなどという言葉では到底足りない。
もはや人外と呼んでも差し支えない領域にまで達している。
どれだけ素行に問題があろうとも、その圧倒的な実力によって他の冒険者では到底到達できない実績を積み上げることは明白。
そう判断された結果、アイリーン・スカーレットには、彼女の実力と特性に見合った超級職へ就く権利が与えられた。
余談ではあるが、同じような例として、『闇鍋騎士団』のクランオーナー、村雲ミズキも挙げられる。
彼女もまた、色々な意味で規格外だった。
そして――もう一つ、例外的なケースが存在する。
それが、今回のような緊急時だ。
どうしても早急な戦力増強が必要となった場合。
上級職でレベルカンストを達成している冒険者に限り、特例として超級職への昇格が認められることがある。
もちろん、誰でも簡単になれるわけではない。
あくまでも緊急措置であり、通常の手順を踏んだ冒険者との間に不公平感が生まれる可能性もある。
そのため、超級職になった後に世間から厳しい目を向けられることもあり、この制度が適用されるケースは極めて少ない。
そして、今回、その特例に該当したのが、冒険者ギルドへ向かっている俺、草薙ハヤトだった。
◆
そして現在――
俺は冒険者ギルドに到着していた。
隣には、寝起きで目が半分しか開いていないアイリーンさん。
そして俺たちの前を、鏑木支部長とかすみさんが先導するように歩いている。
二人の説明によれば、ダンジョン統括省と冒険者ギルドにとって、看過できない事態が発生したらしい。
なんでも、ダンジョン統括省本部が、中国のギルド集団に襲撃された。
その集団を、セイラさんや清十郎さんを含む冒険者たちが迎え撃った。
さらに、その戦闘中に謎の力が介入し、その場にいた者たちが全員、別々の場所へ飛ばされた。
……謎の力って何だよ!?
色んなことが一気に起こり過ぎて怖いわ!
しかも、その力について尋ねてみても、ダンジョン統括省ですら詳しいことは分かっていないらしい。
恐らくダンジョンに関係する「何か」だろう。
世界中で危険な事象が発生しそうになった時、稀に介入してくる存在。
今まで人々に害を与えたことはなく、むしろ多くの命を救っているため、現状ではそこまで危険視されていないらしい。
ちなみに、その存在には一応、名前が付けられている。
その存在が現れた際、必ず紫色の光を放つことから――
『紫光』
そう呼ばれているそうだ。
「まさか、こんな場所まで出てくるとはな……」
「意外と細かいところまで見てるのね」
「いや、今まで出現した時と比べて予測される被害が少なすぎる……」
「それもそうね……それじゃあ、あれが出てきた本当の理由は……まさか」
二人が何やら意味深な会話をしている。
……何だ?
俺にはさっぱり分からない。
もしかすると、思っていたよりも『紫光』って身近な存在なのかもしれない。
とにかく、そんな『紫光』の介入まで含めて、今回の騒動では色々な出来事が一気に起こった。
そして、その結果――俺は、栄えある超級職へと任命されることになったわけで……
……微妙だなぁ。
いや。
いつかはなってみたいと思っていた。
超級職だぞ?
冒険者なら誰だって憧れるだろう。
だけど……
こんな形でなりたかったわけじゃない。
俺、まだ初心者だよ?
それが色んな人を差し置いて超級職?
マジで?
怒られない?
大丈夫?
そんな不安が次々と頭の中を駆け巡る。
「大丈夫ですよ。超級職なんて、ただの飾りみたいなものです」
そんな俺の様子を察したのか、アイリーンさんが声を掛けてくれた。
超級職を「ただの飾り」なんて言えるのは、アイリーンさんくらいの強さがあるからだろう。
そう思ったが――
それが彼女なりの気遣いなのだと、すぐに気付いた。
「ありがとうございます。でも、やっぱり緊張しますよ」
確かに、アイリーンさんの役に立つために強くなりたい。
そう誓った俺にとって、この申し出がありがたいことは間違いない。
ただの配信者としてではなく。
ちゃんとしたパートナーとして、アイリーンさんの隣に立つために。
俺は超級職になる。
そして――もっと強くなってみせる。
そう心の中で決意しながら、俺はギルドの奥へと歩いていった。
◆
ギルドの中へ入り、受付カウンターへ向かう。
「マスターいる? ダンジョン統括省の藤堂が来たって伝えてほしいんだけど」
かすみさんが受付嬢にそう告げると、すぐに奥へと案内された。
通されたのは、大きなテーブルとソファが備え付けられた応接室だった。
しばらく待っていると――
「お待たせしました。遅れて申し訳ありません。少々仕事が立て込んでおりまして」
一人の男性が入ってきた。
年齢は四十代くらいだろうか。
一言で言えば、筋骨隆々。
見た瞬間に「屈強な冒険者」という言葉が頭に浮かぶような体格をしている。
ところが、その見た目とは裏腹に、口調は驚くほど柔らかく、紳士的だった。
「陸奥君。急に悪かったわね。早速だけど紹介するわ。こちらはアイリーン……の方は知っているわね。もう一人が草薙ハヤト君。今日お願いしている件の本人よ」
「ああ、君が草薙君だね。ここのギルドマスターを任されております、陸奥と申します。どうぞお見知りおきを」
「あっ、はい! こちらこそよろしくお願いします」
初対面の俺に対しても、陸奥さんは深々と頭を下げてくる。
間違いない、この人、良い人だ。
それにしても、アイリーンさんのことを知っているということは、顔見知りなのだろうか?
「アイリーンさんもお久しぶりですね。確か最後にお会いしたのは一年ほど前のクエストの時でしたか?」
「ええと……そうだった……ですかね? 多分そうじゃないですか……ね?」
「ああ……はい……ソウデスヨネ」
うん。
アイリーンさん、絶対に覚えてないな。
返事が適当過ぎる。
そして多分、陸奥さんも同じことに気付いたんだろう。
苦笑いを浮かべたまま、最後の方なんて片言になってる。
……可哀想に。
「それで、頼んでいた件は大丈夫だったかしら?」
「……え? ああ、はい! 草薙君ですね! 彼を超級職、それからAランク冒険者にするという件でしたら、冒険者ギルドとしても承認が下りました!」
……Aランク冒険者?
Aランクになるの、俺?
それ、初耳なんですけど。
「……あの、Aランク冒険者とは?」
「ん? ああ。別にどちらでも良かったんだけどね。さすがにBランク冒険者で超級職という人は今までいなかったから、ついでに推薦しておいたの!」
かすみさんが、パチクリとウインクしながら答える。
……そうなんだ。
まあ、もうその辺りはどうでもいいかな。
うん。
驚き過ぎて、ちょっと疲れてきた。
「というわけで、現時刻をもって、この冒険者ギルド第二支部ギルドマスター、陸奥イワオの承認により――草薙ハヤトをAランク冒険者とします!」
おお。
こんな簡単な感じでいいのか?
Aランク冒険者って。
「まあ、今回は緊急時ですからね。認定証などの細かい手続きは、後ほどということで……」
陸奥さんも、色々な手続きを省略しながら俺をAランク冒険者として認定してしまった。
……出世が早過ぎる。
「よし! 鏑木君、これでハヤト君を超級職に昇格させる条件は、全て整ったっていうわけね」
「はい。超級職に就くための条件は、上級職のレベルカンスト。そして、ダンジョン統括省と冒険者ギルド、双方からの許可です。草薙ハヤトは、その両方の条件を満たしました。超級職への昇格に問題はありません」
相変わらず険しい表情の鏑木支部長が淡々と説明する。
その言葉を聞きながら、俺は自分の鼓動が高鳴っていくのを感じていた。
……いや、やっぱり、いざ超級職になることが決まると緊張する。
こればっかりは仕方ないだろ。
この緊張を、少しくらい共有してくれているのではないか。
そんな淡い期待を抱きながら、俺はアイリーンさんへ視線を向ける。
すると――
ニコリ。
それはそれは、とても柔らかな笑顔を返してくれた。
……うん、全く緊張してないな。
期待した俺が悪かった。
「陸奥君。それで、ハヤト君が就くことのできる超級職っていうのは、どれになるの?」
「はい。こちらで草薙君の全てのデータを調査したところ……候補は二つございます!」
おお、二つもあるのか。
俺も捨てたもんじゃないのかもしれない。
これは大事な選択だぞ。
そう思うと、再び鼓動が高鳴ってくる。
「まず一つは……『神速王』ですね」
……おお!
『神速王』!
これは凄いぞ!
恐らく俺が持つスキル、『神速』から派生したものだろう。
何を隠そう、俺は――『神速の配信者』だ。
これ以上、俺に相応しい超級職が存在するだろうか?
いや、ない。
もう一つの候補を聞くまでもなく、これで決まりでもいいんじゃないだろうか?
「かなり良いわね。一応、もう一つも聞いておこうかしら」
「はい。そうですね……私も『神速王』で良いと思うんですが、一応、もう一つの候補もお伝えしますね」
かすみさんも陸奥さんも、どうやら俺と同じ意見らしい。
『神速王』。
強そう。
速そう。
そして何より――カッコいい。
俺の心は、すでに九十九パーセントほど『神速王・草薙ハヤト』という未来に支配されていた。
……が、この後、陸奥さんの口から放たれた一言によって。
俺の心は、盛大に揺さぶられることになる。
「ええと……もう一つの候補は……」
陸奥さんが、手元の資料を確認する。
「『配信王』ですね」
…………。
……そうきたかぁ。
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