第8話 『闇鍋騎士団』の本領
それは完全なる不意打ちだった。
目の前の敵に向けて意識を向けて踏み込もうとした瞬間、それぞれの武器を構えて飛び込んでくる四人の冒険者たち。
直前まで全く気配さえ感じさせなかった襲撃者の存在に思わず目を見開く劉愛蕾だった。
最強の冒険者と呼ばれる劉愛蕾に限って、不意打ちとは言えここまでの距離に近付かれるまで襲撃者の存在に気付かないなんて有り得ない。
……ということは、考えられる答えは一つ。
「隠蔽系のスキルか……スパイ系かそれとも忍者でもいやがるのか?」
『闇鍋騎士団』の序列二位に位置する『諜報王』楊梓晴も仲間たちの気配を完全に隠蔽することが可能なスキルを所持している。
先程、ダンジョン統括省内部で使用した『偽装迷彩』がそれに当たる。
恐らく同様のスキルを自分と仲間たちにも使用したのだろう。
偽装の高度さから、相手は超級職もしくは上級職のカンスト相当の練度を誇る手練れに違いないと劉愛蕾は推測した。
「当ったりー!」
「ご褒美にこれでも喰らえやこらぁ!」
「せっかくだしド派手に散りなぁ!」
「……覚悟」
そしてその推測は当たっていた。
奇襲を実行した『闇鍋騎士団』の四人の中にいたのは上級職『特殊諜報員』。
レベルはカンストしており、『偽装迷彩』の効果は周囲にいる仲間たちにまで及ぶ。
隠蔽効果にて近接まで接近することに成功した『闇鍋騎士団』の団員たちの攻撃が劉愛蕾に及ぼうとし……
「ざけんな……ていうか、なめんじゃねぇよ!」
怒号と共に振り回された錫杖から凄まじい量の雷撃が生じる。
怒りのままに解放された雷撃に、四人とも弾き飛ばされてしまった。
ある者は、先程のサダヨシと同じく正門の瓦礫に突っ込み、またある者は激しく地面に打ち付けられる。
如何に不意打ちを受けたとしてもそこは最強、劉愛蕾。
そう容易く攻撃を受ける程の隙は見せなかった。
「がはぁっ!……ちくしょう!やっぱり駄目かよ!」
「……理不尽」
「雷耐性かよ……どこまでも姑息だねぇ!」
地面の転がったまま、不満を吐き出す面々。
しかし、劉愛蕾は自らの雷撃で命を刈り取れなかったことに対して苛立ちを発する。
四人があれだけ強力な雷撃を喰らいながらも、何とか命を繋げているのは、特別に準備された装備のお陰だった。
その装備の名は『雷神の腕輪』、雷属性の攻撃に対して強力な耐性を獲得出来る神器だ。
Bランク神器に分類され、かなり高価ではあるが普通に世間には出回っている。
『黄雷の戦妃』と戦うことになるとわかった時点で、『闇鍋騎士団』はこの装備の調達に動いた。
サダヨシたちには時間的に渡すことが出来なかったが、後発の四人組には何とか人数分の『雷神の腕輪』の支給が間に合ったというわけだ。
強力無比な雷撃を喰らってしまったが、このお陰で即死は避けることが出来たため、準備した効果は十分にあったと言えるだろう。
しかし、即死を逃れることが出来たとは言え、四人が受けたダメージは甚大、たった一撃で行動不能に追い込まれてしまったことには変わりはない。
「結局、三人かよ……」
せっかくの増援も瞬殺されてしまったため、状況がほとんど変わらなかったことにサダヨシが溜息を吐く。
「あん?もしかしてこれでお前らの打つ手はお終いかい?」
瞬間的に肝を冷やす場面はあったものの、結局、少しのダメージも受けていないのが現実だった。
唯一、自分と互角に戦える可能性があるセイラたちは、周囲への影響を考え全力を出せない状況であり、現在は自らの部下たちと戦っている。
新たに出現した冒険者たちと、最初からいる冒険者たちは自分と比べても戦力的に脆弱過ぎる。
本当にこれで終わりならば、後は全滅させるだけだ。
(ふん……少しは楽しめるかと思ったが興ざめだな。やはりあたしの相手になりそうなのは……)
そんなことを考えていた彼女にサダヨシが答える。
「やはりお前には逆立ちしても勝てないな」
「おいおい、この期に及んで何を言い出すんだい?」
「だが……俺たちの役目は終わった」
「あん?」
「だから……時間稼ぎが終わったって言ってるんだよ」
サダヨシがそう口にした瞬間、劉愛蕾の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
何かが噴出される音と、何かが空気を斬り裂くような音が入り混じり、こちらに近付いてくる。
思わず空を見上げると何かが凄まじい速度でこちらに迫ってくるのが見えた。
「あれは……?」
それは羽根を生やした少女の姿だった。
羽根といっても『黄牙団』の呉李静のような羽ばたくタイプの羽根ではなく、航空機のような機械的な羽根。
その羽根からジェット音を響かせ、一直線にこちらに向かってくる。
「何だぁ!?」
「よいしょぉおおお!!!!」
少女はその手に持った一振りの剣を振り被りながら、その勢いのまま劉愛蕾に向かって全力で叩きつけてきた。
「くっ!『霊亀』!」
咄嗟にスキルを行使した劉愛蕾にの眼前に亀の甲羅を模したような光の障壁が出現し、少女の剣撃を受け止めた。
物凄い衝撃音が響き渡るが、劉愛蕾は微動だにしなかった。
少女の方は、攻撃を防がれたものの、華麗にくるりと身を翻し、その場に降り立つ。
通常では有り得ないような登場の仕方をしながらも、その少女は涼しい顔でそこに立っていた。
「あちゃー、失敗しちゃったなぁ……」
その少女は、背中に生えた機械仕掛けの羽根を収納しながら、そう口にした。
彼女は、水色の髪色をした小柄な少女だった。
そして、その手には見るからに切れ味が鋭そうな剣を持っている。
「お前は……何だ?」
少女の姿に、劉愛蕾は見覚えがなかった。
しかし、たった今劉愛蕾が受けた一撃は、今日戦った誰の一撃よりも強力だった。
それは、『最高位神器』のスキルを行使してしまうほどに強力だったため、最大級の警戒を込めて質問を投げかけた。
そして、その質問に対してその少女は自らを紹介し始める。
「はじめまして!私は『闇鍋騎士団』のクランオーナー……村雲ミズキと言います!」
少女がオーナーを務めるクランの名前と自らの名前を口にする。
「さて……団員の皆さんの仇は私が取りますから……覚悟してくださいね!」
そして、元気いっぱいに、まだ生きている団員たちの敵討ちを宣言した。
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