第7話 天之四瑞
いやぁ、劉愛蕾の出番が終わらなくて……
アイリーンさんとかハヤトとか書きたいのになぁ(遠い目)
もうすぐ……もうすぐ『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』出てきますので……
お待ち下さいませ!
東京、霞ヶ関――
ダンジョン統括省本部へと続く人気のない道路を、数人の男たちが全速力で駆け抜けていた。
「さあさあ! 早く行かねぇと獲物を取られちまうぜ!」
「いやいや、さすがにSランク相手じゃ、サダヨシさん一人じゃ無理でしょ……」
「わかんねぇぞ! シンゴとアオイが付いてるからな!」
「とにかく急げ! 終わっちまう前に間に合わせろ! ヒャッハー! 腕が鳴るぜぇ!」
ガヤガヤと騒がしい声が夜の霞ヶ関に響き渡る。
時折、品のない言葉まで飛び出しているが、彼らの身のこなしは明らかに一般人のそれではない。
常人では到底追いつけない速度で道路を駆け抜けていく。
それは、彼らが高レベルの冒険者であることを如実に物語っていた。
その中の一人が、ふと疑問を口にする。
「そういや、オーナーはどこ行った?」
「ああ、今回は別行動ですよ。配信担当のメイと一緒にいるはずです」
「ますます心配だな……下手したら抜け駆けされちまうぞ!」
「それは洒落にならねぇ! 俺たちのクランって、こういう時にまとまりが無いんだよなぁ!」
「まあまあ、それも僕たち『闇鍋騎士団』の個性ってことで……」
「まあ……そうだけどよぉ!」
彼らはクラン『闇鍋騎士団』の団員たち。
そして彼らが目指しているのは、もちろんダンジョン統括省本部だった。
クランオーナーからの召集を受け、全速力で現場へと向かっているのである。
その目的は――
「待ってろよぉ! 俺の報奨金!!!!」
……実に彼ららしいものだった。
『闇鍋騎士団』には、他のトップクランに見られるような強固な仲間意識は存在しない。
クランという組織そのものを、自分たちの目的を達成するための手段として捉えている者が大半を占めている。
ある者は、クランに所属することで得られる収入のため。
またある者は、世間に名を売り、有名冒険者になるため。
そしてまたある者は――単純に騒ぎを起こすことを楽しむため。
社会から迷惑系クランと認識されている『闇鍋騎士団』。
その団員たちもまた、例外なく一癖も二癖もある者ばかりだった。
そんな彼らが今、ダンジョン統括省へ集結しようとしていた。
◇
そして、その騒動の爆心地。
ダンジョン統括省本部、正門前――
そこでは今まさに、『闇鍋騎士団』と『黄牙団』による戦闘が繰り広げられていた。
「よぉし! これで……もらったぁ!」
高らかな声を上げたのは、大盾を構えた騎士風の男。
『闇鍋騎士団』サブオーナー、サダヨシ。
個性が強く、基本的に誰も彼も歯止めが利かない『闇鍋騎士団』において、数少ない冷静な判断力と統率力を持つ男である。
その彼の眼前では、シンゴが放った必殺の魔法――
『ストーン・バインド』の光が、劉愛蕾の全身を覆い尽くしていた。
この魔法をまともに受けて生き残った者はいない。
故に、着弾した瞬間に勝利を確信してしまったのも無理はなかった。
……しかし、それは、相手が普通の冒険者だったならば、という話だ。
今、彼らが相手にしているのは――Sランク冒険者。
『黄雷の戦妃』、劉愛蕾。
人間の常識では測ることすら出来ない怪物である。
そんな存在を相手にした経験など、彼らには無かった。
そして、その僅かな油断が――致命的な隙となる。
「『麒麟』……」
石化の光に包まれた劉愛蕾の口から、低い声が漏れた。
「……また、面倒臭ぇ手を使いやがって」
次の瞬間――
「覚悟は出来てるんだろうな?」
「……っ!?」
サダヨシの背後から声が響いた。
咄嗟に振り返ろうとした、その瞬間。
ドゴォンッ!!!
劉 愛蕾の拳が、サダヨシの顔面を捉えた。
凄まじい衝撃音と共に、その巨体が地面とほぼ平行に吹き飛んでいく。
そのまま破壊された正門の瓦礫へと突っ込み、土煙が一気に舞い上がった。
「いつの間に!?」
「全然……見えなかった……」
シンゴとアオイが目を見開く。
その視線の先に立っていたのは――
先ほどまでの余裕ある笑みを完全に消し去り、怒りに満ちた表情を浮かべる劉愛蕾だった。
左拳は固く握り締められている。
そして――右腕。
そこには、異様な光景が広がっていた。
右腕が、完全に石へと変わっている。
「……やっぱり効いてる」
シンゴが呟く。
『ストーン・バインド』による石化は、確かに劉愛蕾へ届いていた。
しかも石化は右腕だけに留まらず、徐々に肩へ向かって広がり始めている。
このまま放置すれば、全身へと石化が広がる可能性すらある。
だが――
「こんな腕……邪魔だなぁ!」
劉愛蕾は一切迷わなかった。
左手を鋭い手刀へと変える。
そして――。
ズバァッ!
石化していない肩口から、右腕そのものを切り落とした。
「なっ!?」
「自分で切った!?」
切断された右腕が地面へ落ちる。
同時に、切断面から大量の血が流れ落ちた。
誰もが思った。
いくら何でも、これは無茶だ。
右腕を失えば、どれほど強力な冒険者であろうとも戦闘力は大幅に低下する。
ましてや、これほどの出血。
普通ならば、戦闘どころではない。
しかし――
「ふん……!」
劉愛蕾は苛立たしげに鼻を鳴らした。
「『鳳凰』!」
その瞬間、切断面から溢れていた血が、まるで時間を巻き戻したかのように止まった。
ズズズズズッ!肉が、骨が、皮膚が。
恐ろしい速度で再構築されていく。
僅か数秒後、そこには――完全に再生した右腕が存在していた。
「えええ……反則じゃん……」
思わずアオイの口から本音が漏れる。
まさに、その一言に尽きた。
『ストーン・バインド』で石化させ、追い詰めたはずだった。
ところが劉愛蕾は、石化した腕を自ら切り落とし、瞬間移動で距離を詰めたかと思えば、今度は失った腕そのものを再生させてしまった。
しかも――
「毒も……消えてる?」
アオイが呆然と呟く。
先ほど『毒霧の術・極』によって付与したはずの毒状態まで、いつの間にか消失している。
あまりにも理不尽。
あまりにも規格外。
これがSランク冒険者。
いや――これが『黄雷の戦妃』なのか。
「諦めるなぁ!」
瓦礫の中から怒声が飛んだ。
「まだ手はあるだろう!」
「サダヨシ!?」
三人が振り返る。
先ほど劉愛蕾の拳をまともに顔面へ受けたはずのサダヨシが、瓦礫を吹き飛ばしながら立ち上がっていた。
「うっそ……あれ喰らって生きてるの?」
「さすがサブオーナー……って言いたいところだけど、ひょっとしてスキル使った?」
「……ああ」
サダヨシは苦笑しながらエリクサーを取り出す。
「残念ながら、『最後の根性』は今ので打ち止めだ」
サダヨシのジョブは、上級職『聖騎士』
レベルはカンストしており、『闇鍋騎士団』において不動のタンク役を務める実力者だ。
そして『聖騎士』の固有スキル――『最後の根性』。
これは致死量のダメージを受けた際、一度だけHP1の状態で踏みとどまることが出来るスキル。
つまり、レベルカンストの上級職『聖騎士』。
しかも、タンク役として鍛え上げられたサダヨシのHPを――。
劉愛蕾は、たった一発の拳で削り切ったのだ。
「……マジかよ」
「洒落にならないですね……」
「……化け物だな」
三人の表情から、先ほどまでの余裕が消える。
しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がった。
「それにしても……瞬間移動に超再生って、チートスキル使い過ぎじゃない?」
アオイが呟く。
「超級職だからって、あんな便利なスキルばっかり揃ってるわけじゃねぇだろ」
サダヨシも眉をひそめる。
「……ああ」
シンゴが劉愛蕾を見据えた。
「恐らく、あれは――」
三人の考えが一致する。
瞬間移動、超再生、状態異常の解除。
これほどの能力を、一人の冒険者が同時に所持しているなど通常では考えられない。
Sランク神器を複数所持していたとしても説明がつかない。
ならば――
「最高位神器……か?」
サダヨシが呟く。
シンゴとアオイが同時に頷いた。
その答えを聞いた劉愛蕾は――。
「へえ……ご明察だよ」
不敵な笑みを浮かべた。
「冥途の土産に教えてやるよ」
そう言って、自らの首元へ手を伸ばす。
そして服の中から取り出したのは、一つの首飾りだった。
精緻な装飾が施されたその首飾りには――四つの宝珠が取り付けられている。
青、赤、白。そして――黄。
それぞれ異なる色の光を放つ宝珠が、妖しく輝いていた。
「これが、あたしの最高位神器――」
劉愛蕾が首飾りを掲げる。
「『霊獣輪・天之四瑞』さ!」
それは、グランドダンジョン『霊獣の大秘境』を踏破報酬。
そこに存在する『統率者』――『四霊獣・天之四瑞』を討伐することでのみ入手可能とされる、正真正銘の最高位神器だった。
「さて……」
劉愛蕾が首飾りを胸元へ戻す。
先ほどまでの苛立ちを隠そうともせず、口元を吊り上げた。
「さすがに、あんたらにはかなりムカついたからねぇ」
バチィッ!と全身から黄金色の雷が迸る。
「ここからは――遠慮なく行かせてもらうよぉ!」
殺気が膨れ上がり、空気そのものが震える。
「ちぃっ! 構えろぉ!」
サダヨシの怒声が響くと同時に、シンゴとアオイも即座に戦闘態勢へ移行した。
先ほどまでの余裕は完全に消え失せ、劉愛蕾の全身から凄まじい殺気が放たれている。
その殺気を真正面から受けながらも、サダヨシは大盾を構え、二人へ視線を送る。
「俺が正面を抑える! シンゴ、アオイは――」
サダヨシが必死の形相で二人に指示を出そうとした、その時だった。
「報奨金、見ーっけ!!!」
「おっしゃぁ! 俺の獲物だぁぁ!」
「オーナー、俺の活躍、ちゃんと見ててくださいよぉ!」
「行くぞぉぉぉ!!!」
突如として四人の冒険者が姿を現し、それぞれが異なる方向から劉愛蕾へと殺到していく。
こちらへ向かっていた『闇鍋騎士団』の団員四人が合流し、そのまま奇襲を仕掛けたのだ。
「……ははっ」
その光景を目にした劉愛蕾の顔に浮かんだのは、驚愕でも恐怖でもなかった。
――歓喜
「いいねぇ……!」
黄金の雷が、さらに激しく迸る。
「そうこなくっちゃなああああ!!!」
轟音と閃光が迸り、東京・霞ヶ関を震わせる。
こうして、壮絶な乱戦が始まった。
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