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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第5話 激動

 時は少し遡る。


 ダンジョン統括省本部の正門付近で爆発が起こり、直後に正門そのものが破壊された。


 召集されていた冒険者たちは、異変を察知するなり一斉に現場へ向かっていく。


 その結果、本部内部に残された戦力はほとんどいなくなっていた。


 そんな状況を利用し、一人の女性がダンジョン統括省内部への侵入を果たしていた。


 彼女の名は、楊 梓晴。


 『黄牙団』に所属するAランク冒険者であり、クラン内序列は第二位。


 そして、クランオーナーである劉愛蕾を支えるサブオーナーでもある。


 序列第三位の呉 凌峰と同じAランクながら、その戦闘力は彼を遥かに上回る。


 だが、彼女の本領は戦闘ではない。


 ジョブは【諜報王】。


 潜入、情報収集、身分偽装など、諜報活動に特化した超級職だ。


 高い戦闘能力に加え、あらゆる場所へ潜り込み、必要な情報を確実に持ち帰る能力。


 その有能さを劉愛蕾に認められ、彼女は『黄牙団』の右腕として重用されている。


 今回、楊梓晴に与えられた任務は一つ。


 日本国内に新たに出現したSランクダンジョン、その正確な位置情報を入手すること。


 それこそが、『黄牙団』の真の目的だった。


 正門での破壊活動も、冒険者たちを誘き出したことも、全ては彼女を内部へ侵入させるための陽動だったのである。


 そして、その作戦は見事に成功した。


 楊梓晴は誰にも気付かれることなく、本部内部への侵入を果たしていた。


 (侵入は成功……『ステルス』も問題なく機能している。あとは情報を抜き取るだけね)


 現在、楊梓晴の姿は完全に周囲へ溶け込んでいた。


 【諜報王】のスキルの一つ、『偽装迷彩(ステルス)』。


 その効果によって、彼女は無人の部屋、その壁の一角へ完全に同化している。


 目の前には、一台の端末。


 おそらく、この部屋を使用している職員が普段から利用しているものだろう。


 楊梓晴は壁に同化したまま、端末へ手のひらを添える。


 「『データ・スティール』」


 【諜報王】には、潜入や情報収集に特化したスキルが数多く存在する。


 その中でも『データ・スティール』は極めて強力な情報収集能力だった。


 携帯電話やパソコンなどの端末に保存されているデータ。


 あるいは、その端末からアクセス可能なサーバー内の情報。


 自らが欲しいデータを頭の中で明確に思い浮かべれば、対象となる情報を瞬時に抜き取ることが出来る。


 「…………あった、これね」


 目的の情報は、端末からアクセス可能なサーバー内に存在していた。


 楊梓晴は迷うことなくデータを抜き取り、自らの端末へ保存する。


 画面に表示された情報を確認し、満足そうに口元を緩めた。


 「これで任務は完了ね……劉様の元へ戻りましょう」


 重要な情報が盗み出されたにもかかわらず、異変に気付く者は誰もいない。


 もし、様々な索敵系スキルを持つ冒険者たちが本部内に残っていれば、彼女の存在を見破る可能性もあっただろう。


 だが、彼らは全員、正門へ誘き出されている。


 『黄牙団』の作戦は、完璧に成功していた。


 新たなSランクダンジョンの位置情報は、ついに敵の手へ渡ったのである。


 ◇


 そして現在、その情報は『黄牙団』クランオーナー、劉愛蕾の手元にあった。


 楊梓晴から受け取った端末を眺めながら、劉愛蕾は楽しそうに笑う。


 「へえ、こんなところにあるのかい……なるほどねぇ」


 「早速、向かわれますか?」


 「そうだねぇ……」


 劉愛蕾は端末を楊梓晴へ返すと、手にしていた錫杖を地面へ突き立てた。


 シャラン――


 金属音と共に、錫杖から凄まじい電撃が迸る。


 雷光が劉愛蕾の全身を駆け巡り、再び彼女の身体が激しい帯電状態へと変化していく。


 「こっちが片付き次第、すぐに向かうとしようかねぇ!」


 その姿を見たセイラと清十郎は、同時に身構えた。


 先程の戦いで、二人は思い知らされている。


 真正面から戦えば、劉愛蕾には到底及ばない。


 それでも、ここを通すわけにはいかなかった。


 「心配せずとも、あなた方をそこへ行かせるつもりはありませんわ!」


 「へえ……どうやってあたしを止めるつもりだい? お手並み拝見といこうかね!」


 セイラには、まだ『最終階層(ジュデッカ)』という切り札が残されている。


 だが、それを使えば周囲へ甚大な被害が及ぶ。


 霞ヶ関の中心部で使うには、あまりにも危険な力だった。


 だからこそ、セイラは別の手段で食い下がるしかない。


 「全く……割に合いませんわね」


 ぼやきながらも、セイラは拳を構える。


 清十郎もその隣へ並び、刀を握り直した。


 そんな二人へ向かって、劉愛蕾が一歩踏み出す。


 「さあ、次の予定も出来たことだし、さっさと終わらせようかぁ!」


 錫杖を大きく振り上げた瞬間だった。


 「忍法……『影縛り・極』!」


 突然、劉愛蕾の身体が停止した。


 「……ああん?」


 何が起こったのか分からず、劉愛蕾が眉をひそめる。


 身体を動かそうとするが、動かない。


 まるで見えない鎖によって全身を拘束されたかのように、手足が完全に固定されている。


 「……誰だい?」


 劉愛蕾が周囲へ視線を巡らせようとする。


 しかし、身体そのものを拘束されているため、術者の姿を確認することが出来ない。


 一方、楊梓晴と上空にいる呉 凌峰からは、その姿がはっきりと見えていた。


 そこに立っていたのは、三人の冒険者。


 「お前たちは……何者だ!?」


 楊 梓晴が鋭い声を飛ばす。


 中央に立つのは、全身を重厚な騎士鎧で包んだ男だった。


 その左右には、忍者を思わせる装束を身に纏った女性と、魔導士を思わせるローブ姿の男が立っている。


 中央の騎士が、楊 梓晴の問いに冷たく答えた。


 「その質問に答える気はない……さあ、さっさと片付けるぞ!」


 号令と同時に、三人が一斉に動き出す。


 その姿を見た周囲の冒険者たちが、ざわめき始めた。


 「まさか……あいつら……」


 「知っているんですの?」


 セイラが問い掛ける。


 清十郎は三人を見据えたまま、苦々しい表情を浮かべた。


 「はい……どうやら、増援のようです」


 「それなら助かりますわね」


 「……いえ」


 清十郎が小さく首を振る。


 「増援としては……少々厄介かと」


 セイラも三人を見つめる。


 確かに、味方として駆け付けてくれたのなら心強い。


 だが、彼らの名前を知る者たちの表情には、安堵よりも困惑が浮かんでいた。


 セイラは小さく息を吐く。


 「……ここに来て『闇鍋騎士団』とはね」


 その名前が出た瞬間、周囲の冒険者たちが一斉にざわついた。


 『闇鍋騎士団』実力だけなら、決して侮れない冒険者たちだ。


 しかし、その言動や問題行動の多さから、ネット上では厄介者として有名なクランでもある。


 よりによって、この最悪の状況で駆け付けてきた増援が彼らだった。


 敵は世界最強候補のSランク冒険者。


 味方には、扱いに困ることで有名な『闇鍋騎士団』。


 果たして、この三人の乱入によって戦況は好転するのか。


 それとも、事態は、さらに混沌としていくのか。


 その答えは誰も知らない。

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