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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第4話 最強たる所以

 ――この世界で最強の冒険者は誰なのか?


 その問いは、世界中で幾度となく議論されてきた。


 だが、未だに明確な答えは出ていない。


 最強候補として名前が挙がるのは、決まってSランク冒険者たちだ。


 冒険者ギルドが定める厳格な条件を全てクリアした者だけが到達できる、冒険者の最高峰。


 世界中を見渡しても、その数は十人にも満たない。


 日本に所属するSランク冒険者は二人。


 『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレット。


 そして、『蒼氷の聖女』青羅・バーンシュタイン。


 二人とも世界最強候補として何度も名前を挙げられるほどの実力者だ。


 だが、最強という話題になった時、最も多く名前が挙がる人物がいる。


 『黄雷の戦妃』――劉愛蕾。


 中国の冒険者ギルドに所属するSランク冒険者であり、中国最大級のクラン『黄牙団』を率いるクランオーナー。


 その圧倒的な戦闘力と苛烈な戦いぶりから、世界最強の一角として知られている。


 しかし、彼女がどのようなジョブに就き、どれほどのスキルを保有しているのか。


 それを正確に把握している者は、ほとんどいない。


 強力な雷を自在に操る。


 瞬間移動に近い高速移動能力を持っている。


 あらゆる攻撃を防ぐ強力な盾を所有している。


 世間には様々な噂が飛び交っている。


 だが、その中で一つだけ、ほぼ確実だと言われている事実がある。


 劉愛蕾は、世界最高峰のステータスを持つ冒険者だ。


 誰よりも高い防御力。


 目で追うことすら難しい速度。


 そして、桁外れの攻撃力。


 スキルや神器に頼らずとも、素の能力だけで他の冒険者を圧倒する。


 そこへ強力なスキルや神器まで加わるのだから、その戦闘力に限界が見えない。


 それこそが、『黄雷の戦妃』が最強と呼ばれる最大の理由だった。


 彼女が全ての能力を解放して戦った場合、真正面から対抗できる者は世界中を探しても数えるほどしか存在しない。


 ◇


 舞台は、霞ヶ関にあるダンジョン統括省本部前へ戻る。


 「まさか、今の一撃で無傷だとは……あなた、ちょっとおかしいんじゃありませんの?」


 セイラは目の前に立つ劉愛蕾を睨みつける。


 先程放った『氷結地獄(コキュートス)』


 その『第二階層(アンティノラ)』による全力の一撃を、劉愛蕾は一切防御することなく受けた。


 それにもかかわらず、ほとんど傷らしい傷がない。


 「あはは! 確かに、あたしはちょっとおかしいかもしれないねぇ!」


 劉愛蕾は楽しそうに笑う。


 「まあ、全くの無傷ってわけじゃないさ。多少はダメージを喰らってるよ。だから、そう落ち込むことはないって」


 「多少のダメージ……?」


 セイラの眉が僅かに動く。


 「そんな程度で済む攻撃ではなかったはずですわ。その防御力……やはり異常ですわね」


 拳を叩き込んだ感触。


 そこにスキルや防御系能力を使用したような感覚はなかった。


 つまり、純粋な肉体の強度だけで耐えた。


 セイラは今の一撃によって、劉愛蕾のステータスがどれほど異常なのかを理解してしまった。


 (嫌になりますわね……)


 グランドダンジョンのボスにすら通用した、自分の必殺技。


 それが、ほとんど意味を成さなかった。


 (『第三階層(トロメア)』……あるいは『最終階層(ジュデッカ)』を使えば、まだ可能性はあるかもしれませんが……)


 セイラの残された切り札は、さらに上位の力を解放すること。


 だが――


 (駄目ですわ)


 『第三階層(トロメア)』も『最終階層(ジュデッカ)』も、広範囲へ凄まじい凍気を撒き散らす。


 ここはダンジョンではない。


 周囲には冒険者だけではなく、ダンジョン統括省の職員も大勢いる。


 下手をすれば、戦闘とは無関係な人間まで巻き込んでしまう。


 冒険者として、その選択だけは取れなかった。


 「他にあたしへ通用しそうな攻撃があるなら、もう一発くらい受けてあげてもいいけどねぇ」


 劉愛蕾が笑う。


 「それが無いなら、そろそろ終わりにしようか。次はあたしが攻撃するよ」


 「……!」


 セイラが身構える。


 その時、劉愛蕾がアイテムボックスから一本の武器を取り出した。


 長い柄。


 そして、その先端には黄金色に輝く巨大な輪。


 その輪には、さらに二つずつ、計四つの小さな輪が通されている。


 頂点には槍の穂先。


 まるで錫杖と槍を組み合わせたような奇妙な武器だった。


 「さあ、今度はあたしから行かせてもらうよぉ!」


 劉愛蕾が錫杖を地面へ突き立てる。


 シャラン――


 金属音が響いた。


 次の瞬間。


 バチッ!


 錫杖から発生した電撃が、劉愛蕾の全身を駆け抜ける。


 腕から肩へ。


 胸から背中へ。


 全身を黄金色の電流が走り抜けていく。


 それでも劉愛蕾は微動だにしない。


 むしろ――楽しそうに笑っていた。


 「これが……『黄雷の戦妃』……」


 誰かが呟いた。


 錫杖を手に、雷を纏うその姿。


 まさに、彼女の二つ名そのものだった。


 「ふうん……これがあなたの能力というわけですの?」


 セイラが尋ねる。


 「ああ。あたしのジョブは『轟雷王』。雷を自在に操る魔導士系統の超級職さ」


 「……!?」


 あまりにもあっさりとした回答に、セイラは目を見開いた。


 「へえ……随分と簡単に自分の情報を話すんですのね」


 「だって、あんたのジョブもスキルも、前の配信で知っちゃったからねぇ」


 劉愛蕾は肩を竦める。


 「あたしだけ隠してるんじゃフェアじゃないだろ?」


 そして、口元を吊り上げた。


 「それに――全部教えたところで、あたしの勝ちは変わらないしね」


 「…………っ!」


 セイラの表情が険しくなる。


 「ちなみに、こいつは『雷迅杖・凶摩』。Sランク神器だ」


 劉愛蕾が錫杖を掲げる。


 「こいつにも、あたしの雷撃を強化する能力がある。今からこれで、あんたを攻撃するからね」


 ジョブ。


 能力。


 神器。


 その詳細まで、全て自ら明かしていく。


 それでも勝てると確信しているのだ。


 セイラのプライドが、これでもかというほど刺激される。


 「……ふん!」


 セイラは拳を胸元で握り締めた。


 「さっさと……来なさいな!」


 「いいねぇ、その顔!」


 劉愛蕾も錫杖を構える。


 「それじゃあ――行くよぉ!」


 ドンッ!


 地面が爆ぜた。


 劉愛蕾の姿が消える。


 「お嬢様! 避けてください!」


 清十郎が叫ぶ。


 「はん! 間に合うかよ!」


 上空から呉 凌峰が笑う。


 「劉様の攻撃から逃げられる奴なんて、そうそういねえよ!」


 その速度は異常だった。


 周囲の冒険者には、劉愛蕾の姿を捉えることすらできない。


 辛うじて視認できているのは、セイラ。


 そして清十郎と呉 凌峰だけ。


 「終わりだよぉ!」


 雷光が走る。


 「死ねぇぇぇぇっ!」


 「こんなところで……死んでたまるかぁぁぁっ!」


 セイラも拳を構える。


 次の瞬間、劉愛蕾とセイラの姿が交差した。


 ――ドゴォンッ!!


 凄まじい衝突音。


 同時に、閃光が炸裂する。


 一瞬、本当に一瞬の出来事だった。


 清十郎も呉 凌峰も、その攻防を完全には捉えられなかった。


 ただ一つ、破壊された正門脇の壁へ向かって、何かが猛烈な勢いで吹き飛ばされたことだけは確認できた。


 「お、お嬢様ぁ!」


 清十郎が叫ぶ。


 吹き飛ばされたのはセイラだった。


 壁面へ激突した彼女の元へ、清十郎が駆け寄る。


 「お嬢様!」


 「……っ」


 幸い、意識はある。


 だが、かなりのダメージを負っている。


 「これを!」


 清十郎は即座にエリクサーを取り出し、セイラへ飲ませる。


 しばらくすると、傷が急速に癒えていった。


 セイラはゆっくりと立ち上がる。


 「……やはり、あれを使うしかありませんわね」


 「お嬢様……」


 「『最終階層(ジュデッカ)』ですわ」


 先程の攻撃で、はっきりした。


 『第二階層(アンティノラ)』では足りない。


 あの女を倒すためには、さらに上の力が必要だ。


 たとえ周囲への被害が出るとしても――


 もはや、それを躊躇している余裕はない。


 その一方、攻撃を終えた劉愛蕾も、少し意外そうな表情を浮かべていた。


 「……へえ」


 自分の攻撃を受けて吹き飛ばされながらも、セイラが反撃していたことに気付いたのだ。


 「今の攻撃の途中で、あたしに一発入れてきたのかよ」


 劉愛蕾が楽しそうに笑う。


 「あんた、やっぱりやるねぇ」


 セイラは吹き飛ばされながらも、最後まで攻撃を諦めていなかった。


 劉愛蕾の圧倒的なステータス差によって、大きなダメージを与えることこそできなかった。


 それでも、一撃を返した。


 Sランク冒険者としての意地だった。


 「くっ……!」


 セイラが拳を握り直す。


 「こうなれば……『銀嶺』!」


 その瞬間。


 清十郎の全身から凄まじい力が噴き上がった。


 主人が敗北するのを、黙って見ていることなどできない。


 セイラから戦闘を禁じられていたとしても――今は、そんなことを言っている場合ではなかった。


 「お嬢様、加勢いたします!」


 「ああん?」


 劉愛蕾が振り返る。


 その直後――


 「おいおい、二人がかりか?」


 上空の呉 凌峰がライフルの照準を清十郎へ向けた。


 「だったら俺も混ぜてもらうぜ」


 「……!」


 清十郎が空を見上げる。


 「次はあんたが相手かい?」


 劉愛蕾は嬉しそうに笑った。


 「別に二人同時でも構わないけどねぇ!」


 錫杖を再び地面へ突き立てる。


 ――バチィッ!


 再び全身を雷が駆け巡った。


 清十郎とセイラ。


 Sランク冒険者と、その従者。


 二人で戦ったとしても、勝ち目があるとは思えない。


 それでも――引くわけにはいかなかった。


 最悪、相討ち。


 二人の脳裏に、そんな覚悟が浮かんだ。


 その時だった。


 『お待ちください……劉様』


 聞き覚えのない女性の声が響いた。


 セイラも清十郎も、思わず周囲を見回す。


 「んあ?」


 劉愛蕾が声のした方向へ視線を向ける。


 「良いところだったのに……楊の奴、やっと来やがったのかい」


 「……楊?」


 次の瞬間。


 劉愛蕾の足元にある影が、不自然に揺らめいた。


 そこから、一人の女性が浮かび上がってきた。


 最初に現れたのは顔。


 黒髪。


 そして、口元を覆う布。


 続いて首、肩、腕、胴体。


 まるで影の中から身体を構築するかのように、徐々に全身が姿を現していく。


 やがて完全に姿を現した女性は、劉愛蕾へ向かって深々と頭を下げた。


 「お待たせしてしまい、申し訳ありません」


 「遅かったじゃないか」


 「申し訳ございません。想像以上に内部の警備が厳重だったもので……」


 「言い訳はいいよ」


 劉愛蕾は錫杖を肩に担ぐ。


 そして、何気ない口調で尋ねた。


 「それで?」


 女性が顔を上げる。


 「欲しいものは、手に入ったかい?」


 「はい」


 女性は迷いなく答えた。


 「新たに出現したSランクダンジョンの情報――確かに入手して参りました」


 その言葉が響いた瞬間。


 その場にいた冒険者たちの表情が一斉に凍り付いた。


 ――新たなSランクダンジョン。


 ――その情報を盗むために、『黄牙団』はここへ来た。


 ならば、目の前で繰り広げられていた戦闘も、全ては、そのための陽動だったのか。


 霞ヶ関の夜に、重苦しい沈黙が落ちた。


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