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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第35話 『星崩の大魔宮』㉕ 無敵のアルカイド

少し間が空いてしまいましたが更新です!


よろしくお願いします!

 四人の冒険者が『星崩の大魔宮』へ突入してから、すでに数時間が経過していた。


 グランドダンジョンという、人類が未だその全貌を把握しきれていない未知の領域。


 その攻略に挑む四人の様子を見守るため、ダンジョンの入り口には急遽、対策本部が設置されていた。


 その仮設された対策本部の中で、【ダンジョン統括省第三支部】の鏑木支部長は、眉間に深い皺を刻みながら、ひたすら険しい表情を浮かべていた。


 彼の目の前に設置された大型モニターには、現在進行形で一つの配信映像が映し出されている。


 画面に映っているのは、『紅蓮の魔女と神速の配信者』。


 つまり、草薙ハヤトが運営する配信チャンネルだった。


 そして、鏑木支部長がこれほどまでに頭を抱えている原因も、もちろんその配信である。


 これまで【ダンジョン統括省】が厳重に管理し、可能な限り世間へ公表しないよう努めてきた情報が、ほぼリアルタイムで世界中へと流出しているのだ。


 グランドダンジョンの内部構造。


 これまで存在そのものが確認されていなかったモンスター。


 そして、『統率者』と呼ばれる存在の実態。


 さらには、最高位神器(グランドレガリア)に関する情報まで。


 先ほどから鏑木支部長の携帯電話には、上層部や関連部署からの問い合わせや叱責がひっきりなしに届いている。


 着信音が鳴るたびに、鏑木支部長の眉間の皺がさらに深くなっていく。


 「……どうしてこうなった」


 思わずそんな言葉が漏れてしまう。


 そもそも、ハヤトによる配信を特別に許可したのには理由があった。


 数少ないSランク冒険者の一人であり、これまでダンジョン攻略において多大な貢献をしてきたアイリーン。


 彼女との約束であったことに加え、ハヤト自身も戦闘に同行する以上、一定の安全性は確保できると判断していた。


 何より、あの『紅蓮の魔女』が自ら認めた相棒である。


 まさかここまで大規模な情報公開になるとは、鏑木支部長も想定していなかった。


 結果として、彼は今、自らが出した許可を猛烈に後悔している最中だった。


 鏑木支部長は仮設デスクの前に座り、腕を組みながら、これから発生するであろう問題について頭を悩ませていた。


 そんな時だった。


 「ふふっ、あら? さすがの鏑木支部長も、今回は参っちゃってるのかな?」


 不意に、対策本部の入り口から柔らかな声が聞こえてきた。


 鏑木支部長が顔を上げる。


 そこには、一人の女性が立っていた。


 年齢は四十代ほどだろうか。


 落ち着いた雰囲気を持ちながらも、どこか親しみやすさを感じさせる女性だった。


 険しい表情を浮かべる鏑木支部長とは対照的に、彼女の表情には余裕がある。


 「あなたは……藤堂さんじゃありませんか。【冒険者ギルド】の関東地方のトップが、どうしてこんな場所に?」


 鏑木支部長が驚いたように尋ねる。


 女性は軽く肩をすくめながら答えた。


 「グランドダンジョンの攻略ともなれば、ギルドの責任者が顔を出さないわけにはいかないでしょう?」


 「まあ、それはそうですね。どうぞ、お座りください。今、お茶でも出しますので」


 彼女の名は藤堂かすみ。


 【冒険者ギルド関東支部】の責任者を務める人物である。


 現在では第一線から退いているものの、かつては自らも冒険者として数多くのダンジョンを踏破してきた、歴戦の冒険者だった。


 その実績と経験から、現役を退いた今でも冒険者たちからの信頼は非常に厚い。


 そして、さすがの鏑木支部長も彼女には頭が上がらない。


 鏑木支部長がお茶を差し出すと、かすみは礼を言って受け取り、一口飲んでからモニターへ視線を向けた。


 画面の中では、ちょうどハヤトが配信を続けながら、アイリーンたちの戦闘を見守っている。


 「それにしても……あの『紅蓮の魔女』の戦闘が、こうして世間に配信されるようになるなんてねぇ」


 かすみはどこか感慨深そうに呟いた。


 「『神速の配信者』だったかしら? 良い相棒を見つけたわね」


 「はい。彼女の戦闘は、とにかく周囲を巻き込みますからね。あの攻撃を避けながら、なおかつ戦闘を配信できる人間がいるとは……正直、私も驚いています」


 「ええ。戦闘面については、あなたの言う通りね。でも、それだけじゃないのよ」


 「それだけじゃない?」


 鏑木支部長が首を傾げる。


 かすみはモニターに映るアイリーンとハヤトを眺めながら、静かに続けた。


 「彼女が、あそこまで誰かに気を許していることよ」


 「……なるほど」


 「私が知っている限り、アイリーンは昔から人を寄せ付けないところがあったの。性格が柔らかくなったのは確かだけど、それでも誰かを心から信頼しているような姿を見せることは、ほとんどなかったわ」


 「あなたは、あの『紅蓮の魔女』とは長い付き合いでしたね」


 「ええ」


 かすみは懐かしそうに微笑む。


 「だからこそ、今の彼女を見ていると少し驚くのよ。配信から流れてくる言葉や表情を見ていると、昔のアイリーンとはまるで別人みたいに感じることすらあるわ」


 「それでは……今の彼女の変化は、やはり……」


 鏑木支部長がモニターを見る。


 その視線の先には、アイリーンのすぐそばで配信を続けるハヤトの姿があった。


 かすみは小さく頷く。


 「恐らく、あの『神速の配信者』――草薙ハヤト君のおかげね」


 「彼のおかげ……ですか?」


 「うーん……そう言われても、うまく説明できないんだけどね」


 かすみは少し困ったように笑った。


 「この配信をしばらく見続けていれば、鏑木支部長にも何となく分かってくるんじゃない?」


 「……そういうものですかね」


 鏑木支部長は首を傾げる。


 どうにも、彼にはまだ理解が追い付いていないようだった。


 「まあ、とにかく今は、あの子たちが無事にダンジョンを踏破してくれることを祈りましょう!」


 かすみはそう言って、ぱん、と両手を軽く叩いた。


 「……そうですね」


 鏑木支部長も小さく息を吐き、再びモニターへ視線を戻す。


 しかし、眉間の皺が消えることはなかった。


 グランドダンジョン『星崩の大魔宮』。


 そこで繰り広げられている戦いの行方は、もはや一つのダンジョン攻略という規模を遥かに超えている。


 そして、その戦いを世界中の人間がリアルタイムで見守っているのだった。


 ◆◆◆◆


 「ボルガニックレイザー!」


 アイリーンさんが放った超高熱の閃光が、一直線にアルカイドへと迫る。


 しかし――。


 「ふん! 効かぬと……言っているだろうがぁ!」


 アルカイドはそれを真正面から受け止めながら、怒号とともに剣を振り抜いた。


 次の瞬間、剣から赤黒い衝撃波が放たれる。


 地面を削りながら迫ってくるその一撃は、まともに受ければただでは済まないことが一目で分かるほどの威力を秘めていた。


 「ぬうん! 目覚めよ……『銀嶺』!」


 その攻撃を迎え撃つように、一人の男が前へ出る。


 清十郎さんだ。


 彼が手にする刀から、眩いばかりの銀色の光が溢れ出す。


 次の瞬間、刀を振り抜いた。


 銀色の斬撃と赤黒い衝撃波が正面から激突する。


 轟音とともに両者の力がぶつかり合い、互いの攻撃を相殺した。


 「清十郎、どきなさい! とぉりゃあああ!!!!」


 清十郎さんが道を開けた瞬間、その頭上を飛び越えるようにしてセイラさんが飛び出していく。


 セイラさんの身体からは青白い光が絶え間なく溢れ出している。


 その姿はまさに、戦場を駆ける一人の戦乙女そのものだった。


 「来い! 小娘ぇ!」


 「誰が小娘ですかぁ! はあああ!」


 アルカイドが剣を横薙ぎに振るう。


 しかし、セイラさんはその軌道を正確に見切っていた。


 身体を僅かに捻りながら剣閃を紙一重でかわし、そのままアルカイドの懐へと潜り込む。


 「せぇいっ!」


 まず一撃。


 「はあっ!」


 続けて二撃。


 さらに間髪入れず、三撃目を叩き込む。


 しかし――


 「貴様の攻撃も……効かぬわぁ!」


 アルカイドには、傷一つ付いていなかった。


 セイラさんの強烈な攻撃をまともに受けたにもかかわらず、アルカイドはまるで何事もなかったかのように立っている。


 「ちぃっ!」


 アルカイドが剣を地面へと豪快に突き刺した。


 直後、その身体を中心として強烈な波動が周囲へと放たれる。


 「ちぃ! やっぱり全然効いてませんわぁ!」


 セイラさんは素早く後方へ飛び退き、迫り来る波動を回避する。


 しかし、その表情には明らかな焦りが浮かんでいた。


 今の一連の攻防だけでも分かる。


 セイラさんの攻撃は、アルカイドにまったく通用していない。


 ダメージを与えるどころか、傷一つ付けることすらできていないのだ。


 「やはり……こちらの攻撃手段に対する耐性は、完璧のようですね」


 アイリーンさんが悔しそうに呟く。


 その言葉通りだった。


 先ほどから三人が繰り出した攻撃は、ことごとくアルカイドに防がれている。


 いや、防がれているという表現すら正しくない。


 攻撃そのものは当たっている。


 それなのに、ダメージを与えられないのだ。


 アルカイドが先ほど口にした言葉。


 これまで戦った『七星』が受けた攻撃に対する耐性を、自らのものとして獲得できるという能力。


 どうやら、それは事実だったらしい。


 俺は指示通り、少し離れた場所から配信を続けている。


 だが、配信画面に流れるコメントを見れば、視聴者たちもこの状況がどれほど危険なのかを理解しているようだった。


 〈これは……ちょっとヤバくないか?〉


 〈ちょっとどころじゃなくて、もう詰んでね?〉


 〈こっちの攻撃手段、ほぼ全部耐性獲得されてるんじゃないか?〉


 〈さすがに四人で戦うには手数が足りないだろ〉


 〈これがグランドダンジョンのラスボスってことかよ……〉


 〈いや、普通に勝ち目なくね?〉


 コメント欄には、さっきまでの盛り上がりが嘘のように悲壮感が漂っていた。


 当然だ。


 こちらがどれだけ攻撃を仕掛けても通用しない。


 一方で、アルカイドの攻撃は確実にこちらへ届く。


 これだけ聞けば、どう考えても絶望的な状況だ。


 俺だって、正直かなり焦っている。


 しかし、まだ諦めるには早い。


 何故なら、俺たちの前にいるのはただの冒険者ではないからだ。


 『紅蓮の魔女』――アイリーン。


 『蒼氷の聖女』――セイラ。


 そして『龍殺の守護者』――清十郎。


 この三人は、俺が今まで見てきた冒険者の中でも間違いなく別格だ。


 たとえ相手が『統率者』であろうと、たとえこちらの攻撃に対する耐性を完全に獲得していようと、この三人なら何かしらの方法で状況をひっくり返してしまうのではないか。


 俺には、そんな予感があった。


 「さて、どうしましょうか?」


 アイリーンさんが二人へ問いかける。


 「ええ、清十郎。何か作戦を考えてちょうだい」


 「私がですか!?」


 突然指名された清十郎さんが目を丸くする。


 「ええ、あなたでしょう?」


 「いやいや、お嬢様! この状況で私に丸投げですか!? ええと……そうですね……」


 清十郎さんは額に手を当てながら、必死に考え始める。


 「少しだけ時間をください」


 「仕方ありませんわね」


 「ありがとうございます、お嬢様!」


 三人が話し合う姿を見ながら、俺は再びカメラの位置を調整した。


 正直なところ、現時点ではアルカイドを倒すための糸口はまったく見えていない。


 攻撃は通用しない。


 相手には強力な神器がある。


 さらに、これまで戦った『七星』の能力や攻撃への耐性まで獲得している。


 まさに、絶望的な状況だ。


 それでも、俺は配信を止めなかった。


 俺にできることは、今この場で戦っている三人を信じることだけだ。


 それに、俺は知っている。


 アイリーンさんも、セイラさんも、清十郎さんも、これまで何度も常識では考えられないような状況をひっくり返してきた。


 だから今回も、きっと何かを見つけてくれる。


 「……頼むぞ、みんな」


 俺は小さく呟きながら、カメラを構え直した。


 そして、世界中の視聴者が固唾を呑んで見守る中、『七星王・セプテントリオン・アルカイド』との決戦は、いよいよ本当の意味で佳境へと突入しようとしていた。

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