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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第34話 『星崩の大魔宮』㉔ 七星の王

 『統率者』――


 それは、ダンジョンに巣くう数多のモンスターたち、その頂点に君臨する存在である。


 世界中に存在する無数のダンジョン。


 その中でも最高位に位置する『グランドダンジョン』には、通常のダンジョンでは決して見ることのできない、規格外のモンスターが存在している。


 それこそが『統率者』


 グランドダンジョンを支配し、そこに棲息するモンスターたちを統べる絶対的な存在。


 どれほど凶悪で、どれほど強大なモンスターであろうとも、『統率者』の前では数多の雑兵と変わらない。


 それほどまでに圧倒的な力を持つ存在だからこそ、彼らは『統率者』という名を冠している。


 そして、そんな『統率者』の中でも、ひときわ異質な存在として知られているのが、『七星衆・セプテントリオン』である。


 七つの星の名を冠する、七体の異形。


 それぞれが独立した意思を持ち、固有の能力を有し、他の『統率者』とは一線を画す特殊な存在。


 その七体が揃えば、世界でも数えるほどしか存在しないSランク冒険者でさえ、無事に生還できる保証はない。


 だが、その『七星』も、今や六体までが討ち倒された。


 そして残る最後の一体。


 仲間たちの力をその身に集め、最後の『統率者』として立ちはだかる男。


 その名は――『七星王・セプテントリオン・アルカイド』。


 グランドダンジョン『星崩の大魔宮』


 その最終決戦が、今まさに始まろうとしていた。


 ◆◆◆◆


 俺たちの前に、凄まじい地響きを立てながら姿を現した巨大な魔獣。


 俺たちの目の前までやって来ると、その歩みを止める。


 真っ赤な瞳をこちらへ向け、まるで獲物を品定めするかのように、じっと俺たちを見つめていた。


 その巨体は、優に五十メートルはあるだろう。


 巨大な四肢に全身を覆う分厚い筋肉、そして頭部から伸びる、巨大な二本の角。


 ただそこに立っているだけで、周囲の空気そのものが震えているように感じられる。


 「……タイラント・ベヒーモス」


 清十郎さんが、低い声でその名を呟いた。


 「清十郎さん、知ってるんですか?」


 「ええ。以前、茨城県のダンジョンから突然出現して、大きな被害を出した魔獣です。三年ほど前の事件でしたから、ハヤトさんもニュースで見たことがあるのでは?」


 「あ……」


 言われてみれば、確かに覚えている。


 ダンジョンから突然、巨大なモンスターが出現。


 市街地へ侵入し、多くの被害を出した――。


 当時は冒険者たちが総出で討伐に当たり、ようやく撃破したという、かなり大きな事件だったはずだ。


 その時に討伐されたモンスターが、まさか今、俺たちの目の前にいるとは。


 「……それほどのモンスターまで飼っているなんて。悪趣味ですわね」


 セイラさんが忌々しげに吐き捨てる。


 そして、目の前の巨大魔獣ではなく、その頭上に立つ人物へ視線を向けた。


 「さっさと降りていらっしゃい! それとも、そのまま戦うおつもりかしら?」


 その挑発を聞いた瞬間だった。


 タイラント・ベヒーモスの頭上に立っていた赤髪の大男が、軽々と地面へ飛び降りる。


 ズンッ!


 着地しただけで、地面が大きく揺れた。


 そして、その男はゆっくりと顔を上げる。


 「……よくも我が同胞たちを倒してくれたな」


 赤い髪、鍛え上げられた巨体。


 そして、こちらを睨みつける鋭い眼光。


 その男こそ――


 『七星』の首魁。


 『セプテントリオン・アルカイド』だった。


 「だが、ここまでだ」


 アルカイドは静かに言い放つ。


 「貴様らは、我が直々に葬ってくれる」


 そう言いながら、アルカイドが腰に携えていた一本の剣を抜いた。


 ――その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


 柄の部分は漆黒。


 そして刀身は、アルカイドの髪と同じく真紅。


 その刀身から放たれる異様な気配だけで、それが尋常ではない武器だということが伝わってくる。


 「……皆さん、気を付けてください」


 アイリーンさんの表情が変わった。


 先ほどまでの柔らかな笑顔が消え、真剣な眼差しでその剣を見つめている。


 「ただならぬ力を感じます」


 「ええ、わたくしも同感ですわ」


 セイラさんも警戒を強める。


 「恐らく神器……それも、Sランク以上は間違いありません」


 清十郎さんも頷いた。


 「ほう……我が剣、『恒星剣・破軍』の恐ろしさが分かるか」


 アルカイドは満足げに笑いながら、剣をこちらへ向ける。


 「だが、無駄だ」


 剣に魔力が集まり始める。


 すると真紅の刀身が徐々に赤黒い光を帯びていく。


 同時に、周囲を覆う威圧感が一気に膨れ上がった。


 空気が重い。


 まるで、目の前に巨大な何かが立ちはだかっているかのようだ。


 「我が剣の前では、いかなる者も無力……」


 アルカイドが剣を構える。


 「さあ――貴様らの命を捧げよ!」


 アルカイドが目を見開くと同時に、剣を横薙ぎに振り抜く。


 ――ズバァァァンッ!!


 刀身から赤黒い斬撃が放たれた。


 それは一瞬にして距離を詰め、俺たちへ向かって飛来する。


 「プロミネンス・ウォール!」


 アイリーンさんが即座に杖を掲げる。


 俺たち四人を包み込むように、真紅の障壁が展開された。


 直後――赤黒い剣閃が障壁へ激突する。


 凄まじい衝撃音が響き渡り、周囲の空気が大きく震えた。


 しかし、アイリーンさんの障壁はその一撃を受け止め、剣閃はやがて光の粒となって消滅した。


 「さあ! 始めるぞ!」


 アルカイドが叫ぶ。


 「我が同胞たちの無念……その身にしかと刻むがいい!」


 その叫びに呼応するかのように――


 背後にいたタイラント・ベヒーモスが、天を震わせるほどの咆哮を上げた。


 「グオオオオオオオオオオッ!!」


 「来ます!」


 アイリーンさんが叫ぶ。


 次の瞬間、タイラント・ベヒーモスがアルカイドを飛び越えるようにして、俺たちへ向かって突進を開始した。


 ズシン!


 ズシン!


 巨体が大地を踏みしめるたび、地面が大きく揺れる。


 数十メートルにも及ぶ巨体が、巨大な角をこちらへ向けながら迫ってくる。


 「甘いですわぁ!」


 しかし――セイラさんは一歩も退かなかった。


 「グレイシア・インフェルノ!!!」


 杖を振るうと、タイラント・ベヒーモスの足元に巨大な魔法陣が出現した。


 「――なっ!?」


 魔法陣から、凄まじい量の冷気が一気に噴き上がる。


 ゴォォォォォォッ!!


 空気そのものが凍りつくほどの極低温。


 タイラント・ベヒーモスの巨体が、その冷気に飲み込まれていく。


 『ガ……!? ガァアアアアアアアアアッ!!』


 咆哮を上げる。


 しかし――次の瞬間、巨大な魔獣の全身が、一瞬にして凍りついた。


 「さすがお嬢様です!」


 清十郎さんが叫ぶ。


 そして、そのまま地面を蹴った。


 「ドルァアアアアアッ!!」


 凍結したタイラント・ベヒーモスの頭上まで跳躍。


 両手で握った刀を、一直線に眉間へ突き立てる。


 ――ガキィィンッ!


 刀が突き刺すと、そこを起点として、巨大な亀裂が全身へ走っていき、タイラント・ベヒーモスの巨体が、粉々に砕け散った。


 「……すげぇ」


 俺は、ただ呆然としながらその光景を配信用カメラに収めていた。


 〈いや、あのタイラント・ベヒーモスをこんなあっさり……〉


 〈あの時にこの人たちがいたらなぁ……〉


 〈それは言っちゃいけないよ……気持ちは分かるけど〉


 〈……とにかく! 凄いぞ! 勝てるよ! 絶対に勝てる!〉


 コメント欄も一気に沸き上がっている。


 中には数年前の事件を思い起こさせるコメントも流れていた。


 ……まあ、無理もない。


 あれだけの事件を起こしたモンスターを、たった二人で、しかも一瞬で倒してしまったのだから。


 しかし、まだ終わっていない。


 「このまま決めますわよ!」


 セイラさんが杖を構える。


 「アイシクル・ブラスターレイ!」


 放たれたのは、極低温の閃光。


 触れたものを瞬時に凍結させるほどの凄まじい冷気を纏った光線が、一直線にアルカイドへと突き進み、見事に直撃、確かにアルカイドの身体を捉えたが――


 「……え?」


 アルカイドは――微動だにしなかった。


 凍結するどころか、傷一つ付いていない。


 「あなたも無効魔法(アンチマジック)を使っている……というわけでもなさそうですわね」


 セイラさんが眉をひそめる。


 「それに、あの老人のような超再生能力というわけでもなさそうですね」


 アイリーンさんもアルカイドを観察しながら呟く。


 いったい、何が起きている?


 あれだけの攻撃を受けて、なぜ無傷なんだ?


 すると、アルカイドが、ゆっくりと笑った。


 「ふん……分からぬか?」


 「……何ですって?」


 「貴様らの攻撃手段については、すでに全ての耐性を獲得済みよ!」


 「……耐性?」


 俺は思わず聞き返した。


 アルカイドは自信に満ちた表情で剣を構える。


 「ああ、我が能力は――『耐性の獲得』」


 「……!」


 「貴様らの攻撃を受けて散っていった我が同胞たち。その力、その経験、その身体に刻まれた耐性……それらは全て、我の中へ取り込まれている」


 アルカイドの身体から、凄まじい魔力が噴き上がる。


 「炎も!」


 赤黒い炎が舞い上がる。


 「氷も!」


 足元が凍りつく。


 「毒も、物理攻撃も、魔法攻撃も……我が同胞たちが受けたあらゆる攻撃を、我はすでに克服している!」


 アルカイドが剣を掲げる。


 「即ち――」


 その表情からは、絶対的な自信が感じられた。


 「貴様らに、我を倒す術はない!」


 耐性……


 つまり――これまで俺たちが戦ってきた『七星』が受けた攻撃。


 そして、その身体に刻まれた耐性。


 それらを全てアルカイドは吸収したということなのか。


 もしそれが本当なら――俺たちの攻撃は、ほとんど通用しない。


 「……そんな」


 思わず声が漏れる。


 ここまで来て、『七星』を六体も倒して。


 ようやく最後の一人まで辿り着いたというのに。


 その最後の一人が、これまで戦ってきた敵の能力を全て吸収している。


 そんなの――あまりにも理不尽じゃないか。


 「我は負けぬ!」


 アルカイドが咆哮する。


 「我が同胞たちの力は、全てこの身に宿っている!」


 その姿からは、先ほどまでの『七星』の面影すら感じられない。


 俺たちがこれまで戦い、打ち破ってきた七星たち。


 その全てが、今この男の中に集約されている。


 「我は、同胞たちの無念を背負う者!」


 アルカイドが『恒星剣・破軍』を振り上げる。


 「我は、七星の最後にして唯一の王!」


 凄まじい魔力が周囲を震わせる。


 「我が名は――『七星王・セプテントリオン・アルカイド』!!!」


 その咆哮が、広大な空間全体へ響き渡った。


 「さあ、掛かってくるがいい!」


 真紅の眼光が俺たちを射抜く。


 「貴様らがこれまで倒してきた我が同胞たちの力――その全てを、この身で思い知らせてやろう!」


 ――絶望的な状況だった。


 だが、それでも、俺たちはここまで来た。


 六体の『七星』を倒し、この最後の敵の前まで辿り着いた。


 逃げるわけにはいかない。


 ましてや、ここで負けるわけにはいかない。


 グランドダンジョン『星崩の大魔宮』。


 その最奥で待ち受けていた最後の敵。


 『統率者』の中でも異質な存在――『七星』。


 その全ての力を受け継いだ、最後の王


 『七星王・セプテントリオン・アルカイド』との最終決戦が――。


 今、始まろうとしていた。

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