第31話 『星崩の大魔宮』㉑ ミザールの本気
ハヤトとアイリーンが『セプテントリオン・ミザール』と相対していたその時――
セイラと清十郎は別の空間に飛ばされていた。
「へえ……このモンスターの大群がわたくしたちの相手というわけですわね」
「はい、お嬢様、そのようですね。しかし……このモンスターたちは……」
「ええ、目の前に大量にいる甲冑を着ているモンスターは『アビスロード』、確かあの二人が踏破したSランクダンジョン『深淵の回廊』のダンジョンボスですわ。そして、あの空にうようよと飛んでいるのは……」
「『シルバーウイング・ワイバーン』……私たちが踏破したSランクダンジョン『銀翼の魔塔』のダンジョンボスですね」
二人の眼前に存在するモンスターは二種類。
『アビスロード』と『シルバーウイング・ワイバーン』、共にSランクダンジョンのダンジョンボスとして冒険者に立ちはだかるモンスターである。
しかし、たった今、二人の目の前にいるモンスターの数は合計で軽く百体を越えている。
いずれのモンスターも二人の冒険者『蒼氷の聖女』と『龍殺の守護者』の存在に気付いており、激しく威嚇をするなどの敵意を剥き出しにしている。
「参りましたわね。いくらグランドダンジョンとはいえこれは少しやり過ぎではなくて?」
「お嬢様、私も同感です……しかし、ここを越えなければグランドダンジョンの踏破は……」
「わかっています。こうなったらとことんやってやりましょう!」
二人が身構えると同時に、モンスターたちも動き出す。
『アビスロード』の大群がそれぞれ武器を振りかざし突進してくる。
空からは、『シルバーウイング・ワイバーン』の群れが翼を広げて二人目掛けて滑空を始める。
「さて……行きますわよぉ!」
「はい!お嬢様!」
二人がモンスターの大群を迎撃しようと気合を入れる。
ミザールの采配は、自らは『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』に当たり、他の二人には『星崩の大魔宮』のモンスターの精鋭を全てぶつけるというものだった。
ミザールがアルカイドに宣言した「勝率をより確実にするための策」がたった今、開始されようとしたいた。
◆◆◆◆
そして舞台は戻り、ミザールとの戦闘が始まろうとしていた。
俺はすかさず、配信セットを装着し、アイリーンさんの戦闘を配信する準備を完了する。
アイリーンさんが本気で戦う以上、俺が余計な手出しをする必要はない……というか邪魔になるだろう。
さっきの『セプテントリオン・メラク』の時のような一対一にでもならなければアイリーンさんに任せる方が圧倒的に勝率は高いだろう。
……となればやることは一つ、俺は少し距離をとりながらどんな攻撃が飛んで来ようとも『神速』で回避できるように態勢を整える。
〈おお、やっぱりアイリーンさんといる時は『神速』さんは配信に専念するのか〉
〈当然だろう。まあ、『紅蓮の魔女』と比べるとレベルが違うわな〉
〈さっきの戦闘で『神速』さんも十分強いってわかったけどね〉
〈ああ、だけどアイリーンさんが人外過ぎるw〉
「その通り!皆にこの目の前の光景を届けることこそが俺の役目なんだ!」
俺はコメント欄の視聴者の反応を見ながら、高らかに宣言する。
〈そう!それで良いんだよ!〉
〈それでこそ俺たちの『神速』さん!〉
〈それでこそ……『神速の配信者』!!!!〉
〈これからもよろしく頼むぞ!!!!〉
俺の宣言にコメント欄が盛り上がりを見せる。
この辺りのさじ加減もかなり理解出来てきた気がする。
配信者としての俺の実力も上がってきているということなのだろうか。
そうこうしているうちにアイリーンさんとミザールの戦闘が始まろうとしていた。
まず仕掛けるのはミザールだった。
ミザールが取り出したのはしなやかに伸びる鞭だった。
鞭には至る所に鋭い棘が付いており、当たればただでは済まないような代物であることが一目でわかってしまった。
「さて、覚悟は良いかしら……?」
「はい、いつでも良いですよ」
ミザールの問いかけに応えながらアイリーンさんが杖を構える。
「それでは遠慮なく……行かせてもらうわ!」
ミザールが鞭を振るうと、蛇のように唸りながらアイリーンさんを襲う。
「イグナイト・ブレイド!」
アイリーンさんが杖に魔力を込めて炎の大剣を作り出す。
「てえええい!」
そのまま、迫りくる鞭に向かって炎の大剣で薙ぎ払う。
鞭は大剣から発生し燃え盛る炎に吹き飛ばされ消し飛んでしまった。
「……なるほど、やはり一筋縄では行かないわね」
ミザールは怪しげな笑みを浮かべながら、半分ほどの長さで吹き飛ばされた鞭を投げ捨てる。
「今度はこっちから行きますよ、ボルガニックレイザー!」
アイリーンさんが杖を掲げ、超高熱の閃光を放つ。
閃光は真っ直ぐにミザールへ向かうが――
「それくらいは防御できるわよ!」
ミザールの眼前に空間の歪みが発生し、ボルガニックレイザーを飲み込む。
空間の歪みが消えた後には、無傷で佇むミザールが立っていた。
「……なるほど、空間転移能力を防御にも応用できるわけですね」
アイリーンさんの魔法がどれだけ規格外の威力を誇ろうが、空間ごとどこかへ飛ばされてしまったら意味がない。
「……これは厄介だな」
俺は、少し距離を取ったところから二人の攻防を配信していた。
〈いやいや、これは興味深い対決だな〉
〈美女対決ってことか!〉
〈そうじゃねぇよ!超攻撃力 VS 鉄壁の空間魔法って感じか?〉
〈そうそう!ていうかあんなの反則じゃね?〉
〈どちらにせよ、両方とも規格外すぎて付いていけないぜ!〉
視聴者たちも今の攻防を見て盛り上がりを見せている。
「さて、それでは私もそろそろ本気で行くわよ!」
ミザールの左右の空間が再び歪みを見せる。
その歪みの中にそれぞれ左手と右手を差し入れると、中から何かを取り出した。
……あれは、二本の短剣みたいだな。
「『双獣牙・デュアルファング』……これであなたもおしまいよ、覚悟しなさい!」
『セプテントリオン・ミザール』に、さっきまでの余裕の笑みは見られない。
獰猛な魔獣の如く、アイリーンさんへ向けて濃密な殺意を放ち続けていた。
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