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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第3話 『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』

 俺の目の前でニコニコと愛想よく振舞うその女性は見れば見るほどそこまで強そうには見えなかった。

 いや、さっき一瞬で消し炭にされたから、その強さは十分に理解している。

 それでも、こうして実際に話してみると、その温和な笑顔と口調からは『紅蓮』の異名を持つS冒険者アイリーン・スカーレットだとはとても思えなかったのだ。


 「……あの、ハヤトさん?」

 「はい?」

 「さっきからその……私たちの周囲を徘徊しているそれは何でしょうか?」


 アイリーンさんが指差したのは、配信用ドローンだった。


 「ああ、これはライブ配信用のドローンです。こいつに付いているカメラで今もライブ中継で全世界に配信していまして……」

 「へえ……あれが噂の……それにしてもすごいですね」

 「はい?何がですか?」

 「さきほど、あなたと一緒に燃やしちゃったんですけど、こうしてまた復活しているなんて……よほど頑丈な作りなんですね」


 配信用のドローンは、ダンジョンで得た技術がふんだんに使用されている。

 その一つが再生能力だ。

 ダンジョンの中で採取可能な、自己再生機能を持つ金属を使用されているため、多少の破損であれば瞬く間に再生され、持ち主のところに帰ってくるというわけだ。

 もちろん、粗悪品などに関しては、この機能を省かれているものもあるが、危険なダンジョン内での配信ともなれば、この再生能力は必須といえよう。



 「ちなみに今も配信中でして……」

 「今もですか?じゃあ私も映っちゃってまるんですか?」

 「はい、あの問題だったら消しますが……」

 「いえいえ、別に問題ないですよ」


 アイリーンさん的には配信されるのは問題ないらしい。

 せっかくなので、アイリーンさんの表情がよくわかる位置にドローンを移動させてみる。


 〈『紅蓮の魔女』ってあんな感じの人なんだ〉

 〈初めて見たわ!何かイメージと違うな〉

 〈皆騙されるな!あんな顔してるのに出会った瞬間一瞬で焼き尽くしてくるんだぞ!〉

 〈……そうなんだよなぁ、俺も息つく間もなく灰にされた記憶が〉

 〈でも……アイリーンさんって可愛いよなぁ〉

 〈本当に、あれでSランク冒険者っていうのがたまらんなぁ……〉


 ギャラリーたちの中ではアイリーンさんの評価はほぼ二分している。

 概ね好評ではあるが、俺みたいに出会った瞬間、瞬殺されてしまった奴からはいくらか恨みを買ってしまっているようだった。


 「でもアイリーンさんの火力は凄いですね。地下99階のモンスターたちを一瞬で焼き尽くしちゃうんだから」

 「いえいえ、あんなくらい朝飯前ですよ。それにまだまだ本気じゃないんです」

 「ええ!?あれで本気じゃないんですか?」

 「私が本気を出したら周囲に何も残りませんから……」


 アイリーンさんは爽やかな笑顔のままで恐ろしいことを宣ってきた。


 「そんなに強いのに、アイリーンさんのことは配信とかでは見ないですね」

 「ええ、ちょっとその辺りには疎くて……」

 

 ちょっと困ったような顔を浮かべるアイリーンさん。


 「そんなに強いのに配信しないなんてもったいないなぁ、自分の力を世界中に配信してみたいとか思ったことはないんですか?」

 「何度か私の戦闘を配信したいとか仰った方はいたんですが……」


 俺の問いに一瞬困ったような顔を浮かべた後、申し訳無さそうにこう言った。


 「そういった方は漏れなく私の炎に巻き込まれて灰になっちゃいましたので……」


 ……その言葉を聞いた瞬間、全てを理解してしまった。

 確かにあの全方位爆炎攻撃を回避しながら配信できる者などいないだろう。


 「確かにそうですね、アイリーンさんの炎を耐えられるくらいの人じゃないと配信なんて難しいかもですね」

 「以前、炎耐性完璧だと仰る方が配信しようとしてくれたんですけど、やっぱり一瞬で焼き尽くしちゃったんです……」

 「そうかぁ、そんな人でもアイリーンさんの炎に耐えきれないんじゃ配信は難しいかもしれませんね、後はとてつもない速さで炎を回避できる人とかかなぁ?」


 ……あれ?


 今何か変なことを言ってしまった気がするが、気のせいか。


 〈それって主のことじゃん!〉

 〈おう『神速』のスキルがこんなところで活きてくるとは!〉

 〈二人でコンビ組んだら面白いんじゃ?〉

 〈それめっちゃ良い!チャンネル作ったら絶対に登録する!〉


 ギャラリーたちが更に盛り上がっている。

 ちなみに同時接続数は一万を越えてしまっている。


 まあ、Sランク冒険者の『紅蓮の魔女』まで登場しちゃってるからな。

 俺でも絶対見るわ、こんな配信。


 「……あのアイリーンさん、折り入ってお話があるんですが」

 「はい?どうしました?」

 「僕は偶然『神速』なんてスキルを入手しまして、これはとてつもないスピードで動き回れるってスキルなんですね」

 「はい、すごいですね」


 アイリーンさんはにっこりと微笑みながら俺のスキルを褒めてくれる。

 多分、この時点では俺の意図を汲み取ってくれてはいないのだろう。


 「ありがとうございます。それで一つ提案がありまして……」

 「……??何ですか?」

 「『神速』のスキルだったらアイリーンさんの炎を避けながら配信できるかもなんて考えちゃったんですが……」


 俺の提案にアイリーンさんの大きな瞳がパチクリと見開く。

 そしてしばらく考え込んだ後にまたニッコリと微笑みながらこう言った。


 「それは素晴らしいですね。是非お願いしたいです!」


 〈おおお!これは面白い展開じゃないか!〉

 〈Sランク冒険者が『深淵の回廊』に挑むところが配信されるのか!?そんなの見るに決まってるじゃないか!〉

 〈今日の予定は全部キャンセルしたぜ!これは楽しみ過ぎる!〉

 〈……でも、全方位攻撃はどうするんだ?〉


 ……あっ、『アビスロード』の全方位攻撃のこと忘れてた!


 「あの、アイリーンさん、でかいこと言って申し訳ないんですが、さっきここのボスに挑んでみたんですけど、どうしても避けられない攻撃を放ってくるんです、それだけが心配かなって……」

 「なるほど、それじゃその攻撃がきたら私が何とかしますので、ハヤトさんは気にせず配信に集中してください」


 あっさりとOKを出してくるアイリーンさん、一体どうすればあの恐ろしい攻撃を何とかできるのか想像もつかないが、その頼もしすぎる言葉に心から安堵してしまったのも事実だ。


 〈アイリーンさんって頼もしすぎない?〉

 〈Sランク冒険者って全員あんな感じなの?〉

 〈世界に数人しかいないのにわかるわけがないだろ!〉

 〈本当に『アビスロード』倒しちゃいそうな予感〉

 〈主は配信に集中するだろうし、実質ソロ攻略だろ?ちょっと暑すぎじゃね?〉


 ギャラリーたちの盛り上がりはもはや最高潮に達していた。

 同時接続数は……


 3万人か……3万!?


 いやちょっと異常過ぎだろう!

 こんな数字、トップ配信者でもないと叩き出せないぞ!

 ポッと出の初心者が出せる数字じゃねえぞ!


 「これはちょっとヤバいかもしれないな……」

 「……一体何がヤバいんですか?」

 「いや、今この配信をみている人が3万人を越えちゃったみたいで……」

 「へえ!私たちのことを3万人の人が見てるんですね!皆さ~ん、応援よろしくお願いします!」


 アイリーンさんが笑顔を振りまき、ドローンに向かって手を振る。

 

 〈ぐはぁ!可愛すぎるだろぉ!!!〉

 〈もう俺はアイリーンたん、一筋で行くことに決めた。今決めた!〉

 〈投げ銭どうするの!?あれ?口座開いてない!?ふざけんなぁ!〉

 〈『紅蓮の魔女』って本当は女神様だったんだなぁ……〉


 アイリーンさんの可憐な笑顔に撃ち抜かれた者が発狂しているようだ。

 コメントの中に危ないものが散見され始めた。


 今まで謎に包まれていたSランク冒険者の素顔がこんな美少女だったなんて、この事実だけで刺さる奴にはぶっ刺さるんだろう。


 「うふふ、皆さん面白いんですね」

 

 アイリーンさんが荒れ狂うコメント欄を見てクスクスと笑っている。


 その様子を見て更にコメント欄がより一層の熱を帯びているようだ。

 駄目だ、アイリーンさんは無意識に火に油を注いでしまう人だ。


 「と、とにかくそろそろ行きましょうか!あっ、アイリーンさんと一緒に戦うにあたって、注意点とか教えてもらえると嬉しいんですけど……」

 「注意点ですか?……えーと、私が攻撃する時には出来る限り私の背後に陣取ってもらえた方が良いと思います。私が攻撃する時は基本的には魔法名を詠唱しますので、その時は必ず私の背後に戻ってください」

 「背後に……ですね?」

 「はい!今回は出来る限り私より前方に効果がある魔法しか使いませんので!」

 

 ……今回は、か。

 まあアイリーンさんクラスになると全方位攻撃も使えそうだよな。

 それをされてしまうと『神速』でも避けようがないんだけどね。


 「それと、さっきハヤトさんが言っていたボスの全方位攻撃のタイミングでも同様です。出来ればその時のタイミングで教えて頂ければ嬉しいんですけど」

 「はい、さっき戦った時には、剣を地面に突き立てたタイミングで全方位攻撃が発動していました。一応俺がみてそのタイミングがわかれば合図しますので」

 「はい、それじゃあ行きましょうか!」

 「わかりました!……あっ、そういえば」


 一つだけやらなければならないことがあった。

 配信用ドローンを操作すると、ドローンの形状が変化しバックパックのような形になり、俺の背中に装着される。

 配信用カメラはヘッドセットへ移行され、これで万全の配信状態になった。


 「よし、これでドローンがアイリーンさんの攻撃に巻き込まれることはない」

 「へー、そんなこともできるんですね」


 俺の様子を見てニコリと微笑むアイリーンさん。


 いやぁ、こうして見ていると本当に癒し系の笑顔なんだよなぁ。


 「さて、今度こそ本当に行っちゃいましょうか!」

 「はい!よろしくお願いします!」


 〈いよいよだな!『紅蓮の魔女』と『アビスロード』の戦闘かぁ、ワクワクするぜ!〉

 〈『神速』の主、ちゃんと配信できるかな?〉

 〈何気に名コンビ誕生じゃね?〉

 〈コンビ名はどんなのが良いだろう?〉

 〈やっぱりあれじゃね?………『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』!〉


 こうして、アイリーンさんと俺が初めてコンビを組んだ戦闘が始まる。


 後に『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』と呼ばれ、世間を熱狂の渦に巻き込む名コンビの誕生の瞬間だった。

 

 

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― 新着の感想 ―
やった。アイリーンさんは顔出しOKでしたね♪ 同接三万人はすごいです。 名コンビ誕生の瞬間ですね♪ 我王 華純さん、ありがとうございます。 引き続き拝読致します♪
これまでの展開にハヤトの幸運の高さも半端ないと思いました!とても面白い展開が立て続けで息を飲む間もなく読み進みました。続きも楽しみに読ませていただきます。
恐ろしい保護者を得ましたね。生還の目処はつきそうですが、これはこれで恐ろしい展開ですね。可憐な女性ながらキレたら怖そうな感じもありますし(笑)今回もとても面白かったです。
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