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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第24話 『星崩の大魔宮』⑭ 消魔


 『龍殺の守護者』と『星炎龍・セプテントリオン・アリオト』の決着が着いた頃――


 別の異空間では、また新たな戦いの幕が上がろうとしていた。


 「あなたがわたくしのお相手ですの?……本当に戦いになるんですの?」


 「へえ、お姉さんは相手が子供だと油断しちゃうタイプなんですか?」


 広大な空間の中で向かい合う二人。


 一人はSランク冒険者――『蒼氷の聖女』、星羅・バーンシュタイン。


 そしてもう一人は、『七星』の一角、『セプテントリオン・メグレズ』。


 その姿は、どう見ても戦闘を行う存在には見えなかった。


 年齢で言えば十歳前後だろうか。


 小柄な体に身に纏っているのは、魔導士が着用するようなローブ。


 その姿だけを見れば、どこにでもいる普通の少女にしか見えない。


 しかし、彼女はグランドダンジョン『星崩の大魔宮』を守護するボスモンスター。


 『七星』と呼ばれる、世界最高峰の脅威の一角である。


 「まあ、舐めているわけではありませんわ」


 セイラは小さくため息を吐く。


 「ですが、流石にその姿で強敵だと思え、という方が難しいですわね」


 「あはは、まあ私としてはその方がやりやすいんですけどねー」


 「……なるほど」


 メグレズの言葉を聞き、セイラは表情を引き締める。


 「獅子は兎を狩る時も全力を尽くす……でしたわね」


 そう呟いた瞬間、セイラは手に持つ杖を構えた。


 杖の先端に埋め込まれた巨大な宝玉へ魔力が集束していくと、周囲の空気が一変した。


 先ほどまで何もなかった空間に、急激な冷気が広がっていく。


 気温が下がり、地面には薄っすらと霜が張り始める。


 その異変に気付いたメグレズは、体を震わせながら白い息を吐いた。


 「あれれー? 急に本気になっちゃいました?」


 「ええ、ですがご安心ください」


 セイラは優雅に微笑む。


 「すぐに何も感じなくして差し上げますわ」


 そして――


 「――ヘル・スノーストーム」


 セイラの膨大な魔力が、極寒の吹雪へと変換される。


 周囲一帯を覆い尽くす白銀の嵐……もちろん、それはただの吹雪ではない。


 触れたもの全てを凍結させ、生命活動すら停止させる絶対零度の暴風。


 通常のモンスターであれば、一瞬で氷像へと変えられるほどの威力だった。


 「うふふ……これで終わりですわね」


 十分な魔法を放ったことを確認し、セイラは術を解除する。


 吹雪が晴れていくと、そこに残っているのは――


 凍り付いたメグレズの姿……のはずだった。


 「……え?」


 しかし、そこに立っていたのは、先ほどと何一つ変わらない少女だった。


 傷一つなく、凍結している様子もない。


 ただ、楽しそうに笑っている。


 「あはは、びっくりしました?」


 メグレズは首を傾げる。


 「私、意外と寒さに強かったみたいですね」


 「……違いますわ」


 セイラの表情から余裕が消える。


 「それは……寒さに強いなんていう次元ではありません」


 自身のスキル『蒼氷』――それは、セイラがSランク冒険者へ至るまでに磨き上げた最強クラスの氷結能力。


 ただ冷やすだけではなく、対象そのものを凍結させ、内部から破壊する絶対的な力――


 それをまともに受けて、全くの無傷だなんて、普通に考えればそんな存在などあり得ない。


 「一体……どんな理屈ですの?」


 「さあ?」


 メグレズは笑う。


 「もう少し戦えば分かると思いますよ?」


 「……そうですか」


 セイラは再び杖を構え直す。


 「ならば、確認させてもらいますわ」


 「アイシクル・ブラスターレイ!」


 杖の先端から放たれたのは、極低温の光線。


 それは、アイリーンの『ボルガニック・レイザー』と対になるような魔法。


 触れた瞬間に対象を凍結させ、そのまま粉砕する必殺の一撃。


 しかし――メグレズは避けない。


 真正面から受け止めるが――


 「……また無傷ですの?」


 セイラの表情が険しくなる。


 (あり得ませんわ……)


 ここまで来れば、答えは一つしかない。


 Sランク冒険者として積み重ねた経験が、ひとつの可能性を導き出す。


 「……『魔法無効化《アンチマジック》』」


 その言葉を聞いた瞬間。


 メグレズは嬉しそうに笑った。


 「やっぱり分かっちゃいますかぁ……正解ですよ!」


 少女は胸元に手を当て、軽く礼をする。


 「私の正式な名前は――『消魔・セプテントリオン・メグレズ』、以後、お見知りおきを」


 セイラは理解する。


 『魔法無効化《アンチマジック》』


 それは、魔法使いにとって最悪の天敵。


 相手が放つ魔法という攻撃手段そのものを否定する能力。


 どれほど強力な魔法を放とうとも、相手が魔法である限り、意味を成さない。


 つまり――


 「魔法特化のわたくしとは、最悪の相性ということですわね」


 「そういうことです」


 メグレズは楽しそうに笑いながら、両手を掲げる。


 「では、今度はこちらの番ですね。出でよ――『重断剣・グラビティ』」


 その瞬間、空間が歪み、巨大な両手剣が出現する。


 全長は三メートルを超える。


 普通ならば、大柄な戦士ですら扱うことが困難な代物だが、メグレズは軽々と持ち上げた。


 「これはまた……予想外ですわね」


 「よく言われます」


 メグレズは剣を構える。


 「でも、人を見た目で判断すると痛い目を見るってことですよ」


 次の瞬間、少女の姿が消えた。


 「――!?」


 セイラの想像を遥かに超える速度での突進、慌てて後退しようとするが――


 「甘いですよー!」


 さらに加速し、巨大な剣が振り下ろされる。


 「……くっ! やりますわね!」


 セイラは咄嗟に杖を地面へ叩きつけつと、地面から巨大な氷柱が伸びる。


 メグレズを貫くための迎撃魔法。


 しかし――


 「私の能力、忘れちゃいました?」


 氷柱はメグレズへ届く前に砕け散る。


 『魔法無効化《アンチマジック》』によって、氷の刃は存在そのものを否定された。


 「無駄ですよー!」


 巨大な剣が迫るが、氷柱による一瞬の時間稼ぎで出来た、僅かな隙を利用し、セイラは間一髪で回避する。


 距離を取ったセイラは、改めてメグレズを見る。


 「まさか……その小さな体で重剣士とは」


 予想外だった。


 巨大な武器を扱う戦士と言えば、当然ながら屈強な肉体を持つ者が多い。


 しかし、この少女は違う。


 小さな体、幼い外見、そして、その姿からは想像できないほどの怪力と速度。


 「なるほど……見た目だけで判断したわたくしの落ち度ですわね」


 セイラは杖をアイテムボックスへ収納する。


 そして――ゆっくりと拳を握る。


 「さて……ここからは、私も少しだけ本気を出しますわよ」


 そう言った瞬間――


 『蒼氷の聖女』は、魔導士ではなく――一人の戦士として構えを取った。

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