第23話 『星崩の大魔宮』⑬ 星炎龍
『滅龍刀・銀嶺』
それは轟清十郎という冒険者を語る上で、決して外すことのできない存在である。
かつて清十郎が星羅・バーンシュタインと共にSランクダンジョン『銀翼の魔塔』を踏破した際、報酬として手に入れたSランク神器。
この刀が持つ最大の特徴は、ドラゴン系統のモンスターに対して絶大な効果を発揮するスキル『龍殺』である。
その名の通り、龍を討つためだけに存在するスキルである。
世間で最も有名な『龍殺』の使用例は、過去に発生した地龍討伐戦だろう。
当時、地上を恐怖に陥れていた地龍は、並の冒険者では傷一つ付けることすら困難な災害級の存在だった。
しかし、清十郎はその地龍と真正面から戦い、そして討ち果たした。
白銀の光を纏った刀を振るい、巨大な龍を斬り伏せる姿は配信によって世界中へ届けられ、後に伝説の戦闘映像として語り継がれることになる。
その功績によって、彼はこう呼ばれるようになった。
『龍殺の守護者』――と。
だが、世間が知っている『龍殺』は、あくまで滅龍刀・銀嶺が持つ力の一端に過ぎない。
本当の力は、未だ誰にも知られていなかった。
その力の名は――『銀嶺解放』
銀嶺に秘められた真の力を解放し、『龍殺』の効果を最大限まで引き出す奥義。
その力は凄まじく、ドラゴン系統のモンスターであれば触れるだけでも致命傷を与えられるほどの特効を発揮する。
まさに、龍を討つためだけに存在する究極の力だが――当然ながら代償も存在する。
それは――使用者自身の生命力を削ること。
『銀嶺』を完全解放した状態では、一般的な冒険者なら数分も持たず命を落とす。
Aランク冒険者であり、数々の死線を潜り抜けてきた清十郎でさえ、耐えられる時間は10分程度。
もちろん、このダンジョンではボスフロア前のセーブポイントに記録を残している。
そのため、本当の意味で死ぬわけではない。
しかし力を使い果たせば、セーブポイントまで戻されることになる。
つまり――この場で勝利しなければ、セイラの元へ向かうことはできない。
それでも、清十郎は迷わなかった。
全ては、自らの主人であり、大切な仲間である星羅・バーンシュタインを助けるため。
「目覚めろ……滅龍刀・銀嶺」
清十郎が静かに呟いたその瞬間、刀身から放たれていた白銀の光が、さらに膨れ上がった。
先ほどまでとは比較にならないほど濃密な光。
それはまるで、一振りの刀が太陽のように輝いているかのようだった。
同時に、清十郎の身体へ異変が起こる。
「……っ」
力が抜けていく。
まるで、自分自身の生命そのものを刀へ吸い取られているような感覚。
腕が重く、呼吸が苦しい。
だが――清十郎の瞳には迷いがなかった。
「……さあ、終わらせましょう」
そう呟いた瞬間、銀嶺から放たれる光が、さらに強く輝いた。
「はぁぁぁ!!!!」
清十郎が地面を蹴る。
白銀の光を纏った刀が一直線にアリオトへ迫る。
「グルァァァァ!!!!」
対するアリオトも、残された力を振り絞るように全身へ炎を纏う。
『星炎龍』――その名を持つ龍として、ここで退くことなど許されない。
そして――二つの力が激突した。
銀嶺の刀身と、アリオトの巨大な爪が激突する。
瞬間、白銀の光と灼熱の炎が弾け飛び、凄まじい衝撃波が周囲へと広がった。
無機質だった床には亀裂が走り、空間そのものが震える。
「グゥゥゥ……!?」
アリオトの瞳に驚愕が浮かぶ。
自身が誇る強靭な爪。
それは、並の武器であれば触れた瞬間に砕け散るほどの硬度を持っている。
しかし、目の前の刀は、それを容易く上回った。
「ガァァァァァ!!!!」
アリオトが力を込める。
全身を覆う炎がさらに燃え上がり、巨大な龍の膂力が清十郎へ襲い掛かる。
「……遅い」
しかし、清十郎は静かに呟きながら、刀を振ると白銀の閃光が走り――
「グゥアアアアア!?」
アリオトの爪が斬り裂かれた。
さらにその勢いは止まらず、腕へと深く食い込んでいく。
「これが……龍を討つための刃です」
清十郎が刀を振り抜くと、その一撃によって、アリオトの巨大な身体が大きく後退した。
「貴様……!」
アリオトは怒りに満ちた声を上げるが、そこには僅かな焦りも混じっていた。
自分が誇る強大な力が、目の前の人間には通用しないという事実を理解してしまったからだ。
「認めぬ……我が、人間如きに……」
アリオトは大きく息を吸い込む。
次の瞬間――
「ガァァァァァァ!!!!」
至近距離から、最大威力のブレスが放たれた。
逃げ場など存在しない。
普通の冒険者なら、一瞬で消し炭になるほどの灼熱の炎が清十郎を包み込むが――
「この程度で……」
炎の中から、白銀の光が現れる。
「私を止められると思いましたか?」
銀嶺の光が炎を押し退ける。
清十郎はブレスの中を真っ直ぐ進んでいた。
その姿を見たアリオトの瞳が大きく見開かれる。
「馬鹿な……我の炎を……!」
「終わりです」
清十郎が踏み込む。
そして――白銀の刃が、大きく弧を描いた。
アリオトが回避しようとする。
だが、銀嶺解放状態の清十郎の一撃は、それを許さなかった。
「――――!?」
一瞬、世界が静止したような感覚。
そして、ズン……と何かが落ちる音が響く。
それは――アリオトの首だった。
切断された首が地面へ落ち、赤く輝いていた瞳が清十郎を見つめる。
しかし、そこにはもう先ほどまでの強大な意志は残っていなかった。
遅れて、巨大な胴体が大地を揺らしながら倒れ伏す。
「……」
清十郎はしばらく無言でその姿を見つめていた。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……終わりましたか」
そう呟いた瞬間、全身を包んでいた白銀の光が徐々に消えていく。
『銀嶺解放』が解除され、いつもの滅龍刀へと戻った。
同時に、清十郎の身体へ強烈な疲労感が襲い掛かる。
「……やはり、負担が大きいですね」
膝に手を置きながら、清十郎は苦笑する。
短時間とはいえ、銀嶺を完全解放した代償は決して小さくないが――
「これで、セイラ様の元へ向かえます」
清十郎は再び立ち上がる。
仲間が戦っているのならば、一刻も早く駆けつけなければならない。
『七星』の一角を撃破したとはいえ、まだ終わってはいない。
「……急ぎましょう」
清十郎は、次なる戦場へ向かうために歩き出す。
こうして、『星炎龍・セプテントリオン・アリオト』は、『龍殺の守護者』轟清十郎によって討伐されたのだった。
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