第21話 『星崩の大魔宮』⑪ 龍殺
ここは、ハヤトがメラクと激戦を繰り広げていた空間とはまた違う空間。
……ではあるが、見える景色は全く同じだった。
壁も天井も無くあるのはただひたすら続く平面の床のみだ。
その異空間に連れて来られたのは、腰に刀を下げた一人の男性。
――『龍殺の守護者』こと轟清十郎だった。
(……一体ここはどこなんだ?)
『七星』の一人であるミザールのスキルが発動し、空間の歪みに捕らわれたと思いきや、気付けばここにいた。
ここに来てからもう30分程経ってしまっただろうか?
どこまで行こうが変わらない景色に多少うんざりしてきたところだった。
(お嬢様は……ご無事だろうか?)
案じるのは自らの主人、『蒼氷の聖女』、青羅・バーンシュタインのことだ。
「一刻も早く合流せねばならんな……」
先ほどから行く当てもなく歩き回っているが、当然のように同じ景色が続くのみ、敵に出会うわけでもなく何のイベントも起こらない。
如何に冷静な清十郎と言えども、この状況下では多少なりとも焦りが生まれてきてしまう。
(くそ……一体どうすれば?)
その時、清十郎の耳にとある音が聞こえてきた。
何やらモンスターの咆哮のようなものだ。
(何だ?モンスターか?)
清十郎は腰の刀に手を掛け警戒しながら咆哮が聞こえた方へ振り向く。
果てしない空間の遥か向こう側に何かが見えた気がした。
それは最初は豆粒のように小さい点でしかなかったが、時間が経つにつれその粒が少しずつ大きくなりはっきりと視認できるようになってきた。
「あれは……何だ?……まさか!?」
空間にどこまでも続く宇宙のような景色、その中をこちらに向かって真っすぐ向かってくる存在がいた。
……それは一体のドラゴンだった。
大きく翼を広げた漆黒の鱗を纏うドラゴン、『七星』の一人『セプテントリオン・アリオト』が凄まじい速度でこちらへ突き進んでくる。
「なるほど、私の相手はお前か」
間違いなく相手はこちらを認識しており、その凄まじい速度での突進を受ければ一溜りもないだろう。
「来るが良い……」
清十郎は腰の刀を静かに抜き、突進してくるアリオトに向かって構えを取る。
清十郎の剣は龍系統のモンスターに対しては絶大な効果を誇る。
どれだけ凄まじい速度で、威力で突っ込んでこようが自らの剣が届くならば必ず討ち滅ぼせる。
そんな絶対的な自信を清十郎は持っていた。
今やアリオトはその表情までもハッキリと視認できる程の位置までに接近している。
(射程に入り次第斬る……)
清十郎の手にも力が入り、更なる集中を始めた瞬間だった――
「――ガアアアアアア!!!!」
何と巨大な咆哮と共にアリオトの口から光を纏った炎が溢れ出した。
――龍の息吹、ドラゴン系統のモンスターが持つ必殺の切り札である。
アリオトはそのブレスを突進しながら一気に放出したのだ。
「ぬう!?いきなりブレスとはな!?」
眩い光の奔流が、燃え盛る火炎が、真正面から清十郎に叩きつけられる……
ブレスは着弾し、辺り一帯を薙ぎ払いながら清十郎の体をも焼き尽くす――かのように見えたが、そうはならなかった。
「ほう……我がブレスから生き残るか」
ブレスを放出後に突進を止め、地面に降り立ちながら清十郎の状態を確認するアリオト。
清十郎はその場から一歩も動かずブレスを防いだ……いや、斬り払ったのである。
「その程度のブレスでは私は倒せませんよ」
振り抜いた刀からは白銀の光が溢れ出ている。
「それが貴様のスキルか……確か」
「ええ、この白銀の光こそが私のスキル」
そのスキルは轟清十郎の二つ名そのものであり、彼の能力や功績を端的に表している。
彼の代名詞とも言えるスキルだった。
「その名も『龍殺』!」
星の名を冠するドラゴン『セプテントリオン・アリオト』と、
そのドラゴンの討伐を宿命とされた伝説の剣士『龍殺の守護者』との、
決戦の火蓋が今切られた。
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