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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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20/123

第20話 『星崩の大魔宮』⑩ 多分一億超えてる

ちょっとストック尽きたので書き溜めておりました。

久しぶりの更新です!

よろしくお願いします。


 先ほどまで『セプテントリオン・メラク』との激闘が繰り広げられていた空間は、今や静寂に包まれていた。


 辺りには何も残っていない。


 最後の切り札として使用した大量のジェムが引き起こした大爆発によって、メラクの巨体は跡形もなく消し飛んでしまったのだろう。


 空気中には焦げたような臭いだけが漂い、つい先ほどまで命を懸けた死闘が行われていたことを物語っていた。


 俺はその何もない空間を見渡し、大きく拳を握る。


 「っしゃぁぁぁ!! やったぜ、みんなぁぁぁ!!!!」


 全力でガッツポーズを決める。


 もちろん、その相手は目の前にいる誰かではなく、画面の向こう側にいる視聴者たちだ。


 〈よっしゃぁぁぁ!!!!〉


 〈勝ったぁぁぁ!!〉


 〈さすが『神速』さん!!〉


 〈最後、マジで鳥肌立ったわ〉


 〈ちょっと格好良すぎるんじゃね?〉


 〈まあ俺たちのアドバイスのおかげでもあるけどな!〉


 コメント欄は歓喜の声で埋め尽くされていた。


 俺は思わず笑みを浮かべる。


 「いや、本当にありがとう。皆がコメントでヒントをくれなかったら、俺一人じゃ絶対に勝てなかった」


 心の底からそう思う。


 蜘蛛の能力を見抜けたのも、アイテムを使う発想が生まれたのも、すべて視聴者のおかげだった。


 この勝利は、決して一人のものではなく、俺と視聴者全員で勝ち取った一勝だった。


 〈ところでさ……〉


 〈今回いくら使ったんだ?〉


 〈エリクサー三本〉


 〈超衝撃爆弾一個〉


 〈ジェム大量〉


 〈……これヤバくね?〉


 ……おい。


 嫌な話題を掘り返すんじゃない。


 俺は苦笑しながら頬を引きつらせる。


 「まあ、その……必要経費ってやつだよ」


 〈計算してみた〉


 〈たぶん一億円超えてるぞw〉


 「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 思わず絶叫してしまう。


 そんなことは俺自身が一番わかってんだよ!


 今回の戦いで使ったアイテム代を冷静に計算したら、間違いなく胃が痛くなる。


 だから今だけは考えないようにしていたのに。


 「……はぁ」


 大きく息を吐く。


 とりあえず、生きて帰れたんだ。


 赤字だろうが何だろうが、命があるだけまだマシだ。


 そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替える。


 今、優先すべきことは一つ、仲間たちの安否確認だ。


 特に――アイリーンさん。


 俺は右腕に装着した腕時計へ視線を落とす。


 これはAランク神器『バグスカメラ発生装置』


 『愚蟲の樹海』踏破報酬として手に入れた神器で、小型の蟲型カメラを一体だけ遠隔操作できるという優れ物だ。


 異空間へ飛ばされる直前、俺は念のためこのカメラを起動し、アイリーンさんの近くへ飛ばしておいた。


 壊れていなければ、今も撮影を続けているはずだ。


 俺は腕時計を操作し、カメラの映像をヘッドセットへ転送する。


 画質こそ荒いが、十分状況は確認できる。


 頼む、皆、無事でいてくれ。


 そんな願いを込めながら映像を見た、その瞬間だった。


 「……こ、これは!?」


 俺は思わず息を呑んだ。


 そこに映っていた光景は、俺が想像していたものとはまったく違っていた。


  ◆◆◆◆


 その頃、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』最奥部――


 『七星衆《セプテントリオン》』を束ねる首魁、『セプテントリオン・アルカイド』は腕を組み、静かに目を閉じていた。


 「……メラクがやられたか」


 低く響く声。


 その言葉に、傍らに控えていたミザールが一歩前へ出る。


 「はい。メラク専用に構築していた隔離空間から、生命反応の消失を確認しました。恐らく討伐されたものと思われます」


 「ふん……」


 アルカイドは鼻を鳴らす。


 仲間を失ったというのに、その表情に悲しみはない。


 浮かんでいたのは怒りだった。


 「よりにもよって、あの程度の冒険者に敗れるとは。『七星』の名折れもいいところだ」


 「申し開きの余地もございません」


 「せめて耐性だけでも獲得できていれば、無駄死にではなかったのだがな」


 そう呟いたアルカイドに対し、ミザールは小さく微笑む。


 「アルカイド様。その件でしたら、ご安心ください」


 「何?」


 ミザールは掌へ魔力を集中させた。


 空間がゆっくりと歪み、小さな裂け目が生まれる。


 そこから現れたのは、一匹の黒い蜘蛛だった。


 「これは?」


 「メラクが生み出した眷属の一匹です。」


 ミザールは恭しく蜘蛛を掲げる。


 「眷属とはいえ、この蜘蛛はメラク自身の肉体から分裂して生まれた存在。言わば、メラクと同一の情報を持つ分身です」


 アルカイドは静かに目を細めた。


 「……なるほど」


 「この蜘蛛を吸収すれば、メラクが受けた攻撃の耐性も取り込めます。」


 メラクと眷属は一心同体、分裂した眷属も同じ情報を共有している。


 つまり、眷属さえ回収できれば、本体が敗北しても獲得した耐性だけは失われない。


 「こんなこともあろうかと、メラクが消滅する直前に一匹だけ回収しておきました」


 「見事た……ミザール」


 アルカイドは蜘蛛を受け取る。


 そして、その小さな蜘蛛を無造作に握り潰した。


 黒い体液が掌へ染み込み、そのまま蜘蛛の肉体がアルカイドの身体へと吸収されていく。


 「……これでメラクが得た耐性は我のものとなった」


 アルカイドは静かに拳を握る。


 「敗北は許せぬ。しかし、得た成果だけは無駄にせん」


 そして再びミザールへ視線を向けた。


 「他の隔離空間はどうなっている?」


 「現在、他の戦闘はまだ始まったばかりです。ただ――」


 ミザールは僅かに笑みを浮かべる。


 「アリオトが、まもなく標的と接触いたします」


 「……アリオトか」


 アルカイドは短く呟いた。


 「あやつならば、メラクのような失態を演じることはあるまい」


 「ええ。アリオトならば、必ず仕留めてくれるでしょう」


 その言葉に、アルカイドは静かに頷いた。


 グランドダンジョン『星崩の大魔宮』


 その最深部で待ち受ける『七星衆《セプテントリオン》』との死闘は、まだ始まったばかりだった。


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