第19話 『星崩の大魔宮』⑨ ラスト散財タイム!!!!
俺と『セプテントリオン・メラク』の対決は今まさに最終局面を迎えようとしていた。
『小癪な……貴様のような小童が……我に勝てるとでも思っておるのか……まことに小癪な小童よぉぉぉ!!!!』
メラクの漆黒の全身が脈動する。
蜘蛛を象った本体から八本の触手の如く脚の先が、まるで生物のように脈打ちながら凄まじいプレッシャーを放つ。
「ああ、勝てるさ……」
俺は表情に余裕の笑みを浮かべながらさらに続ける。
「何故なら俺には……皆がついてるからなぁ!!!!」
〈オオオオオ!!!!〉
〈そうだ、そうだよ!『神速』さんには俺たちがついてるんだ!〉
〈一緒に勝とうぜ『神速』さん!!!!〉
〈年貢の納め時だぜ、蜘蛛野郎がぁ!!!!〉
ちょっと煽り過ぎたか、何だかコメント欄がえらいことになってしまった。
しかし、これも計算の内、さっきからコメント欄からもらえたヒントは数知れず。
まさに視聴者たちと一緒に戦っているといえる状況だ。
とにかくテンションを上げていくしかないな!
「よっしゃぁ!皆行くぞぉ!!!!」
『さっきから五月蠅いわぁ!!!!』
とうとうメラクの体に変化が起こる。
脈動していた本体や触手から一斉に何かが放出されたのだ。
……これは、糸か?
先ほど、俺の動きを封じたメラクの『蜘蛛の糸』がそこら中の至る所に張り巡らされてしまった。
しまった、これじゃ満足に動けないぞ!
『グフフフ、まだまだぁ!』
そう言ってメラクは無数の小型の蜘蛛を全身から放ち始めた。
数え切れないほどの蜘蛛たちが地面に蠢き、また『蜘蛛の糸』を伝ってそこら中に展開されていく。
「これは『蜘蛛転生』の……」
『如何にも、こやつらは全て我の眷属、これで我はどこにでも瞬間移動が可能となった!』
「それはいくら何でも反則だろうがぁ!」
これはヤバいぞ!
周囲に張り巡らされた『蜘蛛の糸』で生命線の『神速』を封じ込められた上に、『蜘蛛転生』でどこへ逃げてもすぐに追い付かれてしまう。
俺はどうやったらこの状況を打破できるか必死で考えるが、どうしても良い考えが浮かばない。
『グフフフ、どうした?さっきの威勢はどこにいった?』
「……はあ、これはやっぱり諦めるしかないかぁ……」
『ほう?生きるのを諦めるか、良かろう、それではすぐにその命を刈り取ってやろう』
「いや……諦めるのは命じゃない」
『むう?何を言っている?』
「諦めるのは……赤字を回避することだよぉ!!!!」
そう言いながら、俺はアイテムボックスから二つのアイテムを取り出す。
一つはエリクサー、そしてもう一つは手の平サイズのボールのような物だった。
〈あれって超衝撃爆弾じゃね!?〉
〈まじかよ『神速』さん……〉
〈あんな物まで買ってたのか〉
〈あれはあれで一千万超えてるよなぁ……〉
〈しかも、もう片手にはまたエリクサー持ってるし〉
〈本当だ!ということは……まさか!?〉
「そのまさかさぁ!!!!吹っ飛べおらぁ!!!!」
俺はそう言いながら手の平サイズのボール、もとい超衝撃爆弾をメラクに向かって力一杯投擲する。
そして、すぐさまエリクサーの蓋を開け、口に含みながらその場に伏せる。
『貴様……一体何をす……』
瞬間、超衝撃爆弾が起動し、周囲一帯に強力な衝撃波が発生した。
その威力は凄まじいの一言で、辺り一面に張り巡らされていた『蜘蛛の糸』や『蜘蛛転生』要員としてばら撒かれた小型蜘蛛たちを全て一斉に吹き飛ばしていく。
『ぐ、グフォオオオオオオオオ!!!!』
もちろんメラクも例外ではない、油断していたところに目の前に投げ込まれた超衝撃爆弾の衝撃波をもろに喰らってしまい、咆哮を上げながら吹き飛ばされていく。
俺も衝撃波を受け、盛大に吹き飛ぶ、警戒をしていたとはいえ発生した衝撃波の威力はあまりにも強く、激しく回転しながら地面に何度もぶつかり転がっていく。
「くそぉ、いてぇよぉ!ちくしょう!」
恐ろしいほどの勢いで吹っ飛ばされた俺の全身はまさに満身創痍。
手足はあらぬ方向に曲がり、恐らく肋骨も折れているだろう。
口からはとめどなく血が溢れ出てくる。
……が、すぐに痛みは治まり、体中のダメージが治り始める。
「……よし、効き始めたな、エリクサー」
吹っ飛ばされる前から飲み始めたエリクサーが絶大な効果を発揮する。
「さすが……五百万円!!!!行くぞコラァ!!!!」
ヤケクソ気味に叫びながら即座に『神速』を発動、メラクに向かって駆け出す。
俺と違って無警戒のところに衝撃波を受け、吹き飛ばされたメラクのダメージは殊更大きいはずだ。
……つまり、チャンスってことだ!!!!
〈おおおお!!!!すげぇな『神速』さん!!!!〉
〈エリクサーを利用した自爆攻撃とはな!!!!〉
〈身体的にも金銭的にも捨て身とは……〉
〈それでこそ俺らの『神速』さんだよ!!!!〉
コメント欄の言う通り、今の俺には金銭的なダメージが無視できないほどに入っている……
しかしそのおかげで明らかに格上のメラクと勝負できているのも事実。
「やはり俺には……この道しかないのかなぁ!!!!」
自嘲気味に呟きながら全力でダッシュする。
そして、間もなくメラクの姿を発見することができた。
メラクは、やはり衝撃波のために大ダメージを受けているみたいで、体中が歪になっているように見える。
『グググ……貴様、キサマァァァ!!!!』
俺の姿を見つけたようでメラクが激しい怨嗟の叫び声を上げながらこちらに触手を放ってくる。
「はん!決着を付けに来たぜぇ!!!!」
俺は触手を避けるように全力で上空へ飛び上がる。
『う、上かぁ!無駄だぁああアア!!!!』
メラクは残りの触手をジャンプ中の俺に向かって放ってくる。
「さあ、ラスト散財タイムだぜぇ!!!!」
俺はアイテムボックスから再びエリクサーを取り出す。
そして、空いたもう片手でさらにアイテムボックスを弄り、中からジェムを大量に引っ張り出す。
図らずも空中でばら撒かれる形になったジェムは赤、青、黄、緑と色とりどりの光を放ちながら俺と一緒にメラクに目掛けて落下していく。
「いっけぇぇぇ!!!!」
メラクの触手が俺を捉えようとするが、空中で身を翻して避ける。
深刻なダメージを負ったメラクの触手の動きは鈍く、避けるのは容易だった。
俺はまたまたエリクサーを口に含みながらメラク目掛けて突っ込む。
そして、がら空きのメラクの顔面へキックを見舞い、その勢いを利用して『神速』で退避を試みる。
しかし、ほぼ同時に大量のジェムがメラクに着弾、一斉に効果が解放される。
炎、氷、雷、風とそれぞれの魔法が混じり合いながら迸り――最後には大爆発を起こした。
『グォォォオオオオ!!!!』
メラクの断末魔のような叫び声が聞こえる。
俺ももちろん爆発の余波に巻き込まれかなりのダメージを負ったが、エリクサーの効果ですぐに回復する。
爆発に吹き飛ばされながらも何とか体勢を整え、メラクの方を見ると……
そこにはもう何もなかった。
恐らく爆発で跡形も無く吹き飛ばされたのだろう。
「勝った……のか?」
個人的には天文学的なコストをつぎ込んだ戦いだったが。
『セプテントリオン・メラク』を撃破した瞬間だった。
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