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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第17話 『星崩の大魔宮』⑦ 神速 VS 黒蜘蛛

 「どらぁぁっ!!」


 『神速』を乗せた一撃が、メラクの背中へ突き刺さるが――


 「甘い」


 メラクは僅かに体を捻っただけで振り返り、そのまま忍刀を横薙ぎに振り抜いた。


 「……っとぉ!」


 反射的に『神速』を発動し、刃先が鼻先を掠める寸前で後方へ飛び退く。


 危ねぇ、紙一重だ。


 あと一瞬でも遅れていれば首が飛んでいた。


 「さすがに逃げ足だけは速いな……小童が」


 黒い面の奥から冷え切った声が響く。


 ……小童認定かよ。


 まあ、間違ってはいない。


 俺の攻撃は『神速』の代償で威力が十分の一。


 しかも相手はグランドダンジョンのボスだ。


 多少当てたところで、蚊に刺された程度にしか感じていないだろう。


 避けられるし当てられるが……倒せない。


 その現実だけが、嫌というほど伝わってきていた。


 俺は握り締めたダガーを見つめる。


 これは攻略前に奮発して購入した最高級品だ。


 防具も同じく、プロテクターからブーツまで、今の俺が揃えられる最高装備で固めている。


 ダンジョン報酬で稼いだ金を惜しまず注ぎ込んだ。


 準備不足と言われる筋合いはない。


 ……それでも届かない。


 相手は最高難度、グランドダンジョン、しかもそのボスだ。


 装備の性能だけで埋められる差ではなかった。


 〈『神速』さん頑張れ!!〉


 〈その装備ガーランドシリーズのフルセットだよな?〉


 〈全部揃えたら一千万超えるぞ〉


 〈それでも勝てないとか……相手どんだけ強いんだ〉


 〈また蜘蛛の糸食らったら終わりだな〉


 ……まさにその通り。


 あの糸でもう一度拘束されたら終わる。


 さっきは偶然ジェムで脱出できた。


 だが同じ手が二度も通用する保証はない。


 「くそぉぉぉっ!!」


 考えるより先に体が動く。


 『神速』を使用し、素早く移動する。


 景色が一気に流れ、俺は再びメラクの背後へ回り込んだ。


 「同じ手が何度も通じると思うな!!」


 メラクが振り向きもせず忍刀を薙ぎ払う。


 だが、その刃が届くより早く、俺は右手を振り抜いた。


 「これなら……どうだ!」


 俺が放ったのは、掌サイズの黄色い宝石。


 雷属性のジェムだった。


 「なっ──!?」


 メラクの目前で宝石が砕け散ると同時に、轟音と共に巨大な雷撃が炸裂した。


 「ぐああぁっ!」


 稲妻が全身を貫き、メラクの動きが止まる。


 「今だ!」


 硬直した一瞬を逃さず、今度は赤い宝石を投げ放つ。


 メラクの胸元へ命中した瞬間、爆炎が噴き上がった。


 轟炎がメラクを丸ごと飲み込む。


 「ぐおおおおおぉぉぉっ!!」


 炎の柱が天へ伸びる。


 〈おおおおお!!〉


 〈ジェムコンボ!!〉


 〈通常攻撃じゃなくアイテムで削るのか!〉


 〈なるほどその手があった!!〉


 〈でも一発数百万するぞ……〉


 ……うるせぇ!!


 ここでケチって死ぬくらいなら全部使ってやる!


 「どうだぁぁ!!」


 炎の中へ向かって叫ぶ。


 手応えは十分、これなら──


 燃え盛る炎の中で、メラクの身体が崩れ落ちる。


 膝をつき、そのまま黒く炭化していく。


 「やった……?」


 一歩ずつ、慎重に近付きながら様子を伺う。


 炎は弱まり、黒い残骸だけが残っていた。


 「よし……!」


 勝った……


 そう確信した、その瞬間だった。


 「ォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」


 黒い残骸が咆哮した。


 「なっ!?」


 爆発? いや、違う。


 黒い肉塊が内側から膨れ上がっている。


 鼓動するように脈打ち、収縮と膨張を繰り返す。


 俺は反射的に『神速』で距離を取った。


 その異形から目が離せない。


 肉が裂け、骨が軋む。


 嫌な音を立てながら、新たな身体が形成されていく。


 まず現れたのは八本の脚。


 細長く、鋭利な鉤爪を備えた巨大な脚が一本、また一本と伸びていく。


 続いて黒い胴体。


 そこへ真っ赤な眼が次々と開いた。


 一、二、三……八つ。


 最後に巨大な牙が左右からせり出す。


 ……蜘蛛だなこれは。


 その姿は、どこから見ても巨大な蜘蛛だった。


 「……それがお前の正体か」


 『グフフフフ……何百年ぶりだろうな。この姿になるのは……』


 低く湿った声が響く。


 「さっきまで忍者ぶってたのは、この姿を隠すためか」


 『如何にも、これこそ我が真なる姿……』


 巨大な蜘蛛は不気味に笑う。


 『この姿となった以上……貴様に勝機はない』


 「どうだかな」


 俺はダガーを構え直す。


 巨大化した分、動きは鈍く見える。


 『神速』なら十分翻弄できるに違いない。


 「その巨体じゃ、俺には追いつけないだろ」


 蜘蛛は静かに笑う。


 『……本当にそう思うか?』


 「もちろん──」


 言い終わる前だった。


 背後から声がした。


 『これでもか?』


 「っ!?」


 全身の毛穴が総毛立つ。


 振り返るとそこには、赤く輝く八つの眼。


 巨大な牙が、もう目の前まで迫っていた。


 「なっ──!?」


 『死ね』


 それを避けるには、距離は近すぎた。


 鈍い衝撃が走った次の瞬間、鋭い牙が俺の肩へ深々と食い込んだ。

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