第16話 『星崩の大魔宮』⑥ 蜘蛛の糸
グランドダンジョン『星崩の大魔宮』のボスと思われる集団『七星』。
その一人である『セプテントリオン・ミザール』のスキル『幻影の檻』により引き起こされた奇妙な空間の歪みは俺たちを一斉に飲み込んでしまった。
そして気付いた時には異なる空間に身を移されていた。
その空間には壁も天井もなく、ただただ、無機質な平面が続いてる。
障害物も無ければ出口も無い、そんな異常な空間に……
『七星』の一人『セプテントリオン・メラク』と二人きりになってしまったのだ。
「そ、そんなことが……」
「貴様に恨みはないがここで死んでもらう。抵抗しなければ一思いに死なせてやっても良いが?」
そう良いながらメラクは背中に装着していた忍刀を抜き、構える。
……これはまずい。
恐らくメラクの実力は俺より遥か格上に違いない。
アイリーンさんやセイラさん、清十郎さんとまで隔離されてしまった今、メラク相手に俺が出来ることと言えば……
配信しながら逃げるしかねぇ!!!
俺は配信用のドローンを起動しながら『神速』を使用し、一気阿世に駆け出した。
「むう!?逃げるとは卑怯な!」
メラクが慌てて追いかけようとするが、こちらは『神速』追い付かれるわけがない。
〈配信が復活したと思ったら何だこれ!?〉
〈『七星』とかいう奴らはどうなった?〉
〈ていうか『神速』さんは何から逃げてるんだ?〉
〈いや、今一瞬映ったのって、『七星』の一人の忍者みたいな奴じゃね?〉
〈本当だ!?ということは『神速』さん……隔離されちゃったのか!?〉
〈それはやばい!『紅蓮の魔女』がいない『神速』さんなんて、ただの配信者じゃないか!〉
本当にそうだよ、馬鹿野郎!
アイリーンさんがいない俺なんてただの足が速い配信者だっつーの!
自分でもわかっとるわ!
それでも今の俺には逃げる他に手段がない。
この空間はどこまで行っても行き止まりが無く、ひたすら地平線が続いている。
どこまで逃げれば良いのか、どうすればこの状況が改善するのか、今の俺には全くわからないが、それでも『神速』を発動しながら全力でメラクから距離を取り続けた――が。
「……このまま逃げられるとでも思ったのか?」
突然、背後から声が聞こえたと思ったら、体の動きが鈍くなった。
「何だぁ!?」
全速力で走っていた途中に急に足が動かなくなったために、もんどりを打って倒れてしまった。
急いで体を起こすとそこには腕を組んで仁王立ちをしているメラクがいた。
「ふん、戦って死ぬならともかく、突然逃げ出すなど、愚の骨頂よ」
黒装束で表情こそ見えないが、明らかに苛立ちを見せているのがわかる。
それにしても、何故俺の足は突然動かなくなったんだ?
そう考えながら自らの足を見ると、何やらキラキラしたものが纏わりついている。
「これは……糸か?」
「如何にも、貴様は逃げ足だけは速いようなので、我が『蜘蛛の糸』で封じさせてもらった」
メラクの手の平からキラキラとした無数の糸がこちらに伸びている。
まさか、あれが絡まったから……
「この『蜘蛛の糸』は絡まったら最後、動きを完全に封じることが出来る、最早貴様は身動き一つ取れないはずだ」
「そんな……か、体が動かない!?」
さっきは足が動かなくなっただけだったが、気付けば体中に糸が纏わりついており、身動きが取れなくなってしまった。
「そのままにしておれば、苦しまずに逝かせてやろう」
再度、背中の忍刀を抜き、こちらに向かってくるメラク。
くそっ!何か無ければ死ぬのは確定、どこかに生き残るヒントはないのか!?
体は動かないため、顔の向きを何とか変えると、傍らに落ちている端末が見える。
そこには配信のコメント欄が見えた。
〈駄目だ駄目だ駄目だ!〉
〈『神速』さんが死んじゃう!〉
〈どうにか手はないのか!?〉
コメント欄に悲痛な内容が溢れている。
何か……何かヒントはないのか!?
そう思いながら必死でコメントを見ていた瞬間だった。
〈アイテムはないのか!?ジェムとか!〉
……そうだ、アイテムだ!
必死で動かなくなった体で藻掻くと、手の先は何とか動くようだ。
何とか自らのポケットを弄り……
中に入っていた赤色の宝石を取り出し、傍らに落とす。
その瞬間、赤色の宝石から炎が噴き出し燃え上がる。
炎が糸にも引火し一気に燃え上がる。
俺は動きが戻ったのを確認した瞬間、素早く転がりメラクから距離をとった。
「うわっちぃ!!!でも助かったぁ!ありがとコメント欄!!!」
危なかった。
コメント欄がアイテムを使うアイデアをくれなかったら間違いなく死んでいた。
そして、もしもの時のためにポケットにジェムを忍ばせておいて本当に本当に良かったよ。
「ふん、無駄な足掻きを……」
メラクが忍刀を持ちながら不機嫌そうに呟く。
〈おお!ファイアジェムで自ら燃えるとは!〉
〈でも助かったじゃないか!〉
〈さすが『神速』さん!〉
〈これで何とか戦えるか?〉
〈いや、さすがにそれはきついんじゃない?〉
コメント欄も盛り上がりを見せている。
しかし俺は既に心に決めていた。
もう逃げても無駄だろう。
ということは、あいつを倒すしかない。
「まさか貴様、我を倒せるとでも思っているんではあるまいな?」
「……そのまさかさ、俺はもう逃げない……俺は、貴様を!倒す!!!!」
俺はそう言いながらメラクに向き合う。
「ふん……良かろう、返り討ちにしてくれるわぁ!」
メラクの怒声が空間に響き渡る。
負けて元々、こうなったらとことんやってやろうじゃないか!
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