第15話 『星崩の大魔宮』⑤ 幻影の檻
突然俺たちの前に現れた謎の存在。
奴らは全部で六体、目の前のドゥーベと合わせて七体だ。
「……『七星』」
アイリーンさんが呟いた言葉、さっきドゥーベが自らを『七星』の一人と名乗っていた。
ということは、後ろの奴らは残りの『七星』ってことか。
「あなた方は一体何者なのですか?」
セイラさんが問う。
「我らは『七星』、この『星崩の大魔宮』の守護を任された、『統率者』の一角だ」
そう答えたのは、六人の中でも一際大きな迫力を放つ男だった。
真っ赤な髪を逆立て、獣のような眼光をこちらに向けているこの男。
鑑定してみると、『セプテントリオン・アルカイド』とだけ表記されている。
恐らく間違いない、この男がこいつらのボス的存在なのだろう。
「うふふ、アルカイド様、こんな奴らにそこまで情報を開示しちゃって大丈夫だんですか?」
その隣にいる女性は、妖艶な雰囲気を漂わせているが、この面子に並んでいる限りただの女性ではないことは確かだろう。
この女性を鑑定すると表記されている名は『セプテントリオン・ミザール』だった。
「まあまあ、どうせこ奴らはここで皆殺しにするんじゃ、情報を漏らしたところで何の問題もあるまい」
次は、小柄な老人だ。
身長は130センチ程だろうか、普通の人と比較してもかなり小柄で、腰は曲がり杖をついている。
表記は『セプテントリオン・フェクダ』だ。
「ふん……しかしドゥーベよ、こんな人間相手に情けないな、正に『七星』の名折れではないか」
何と、ドラゴンの姿をした者まで存在している。
しかも身長5メートル程もあろうかというドラゴンが普通に人語を話しているから驚きだ。
このドラゴンも『セプテントリオン・アリオト』と表記されているため、『七星』の一体には間違いないだろう。
「まあまあ、ドゥーベは僕たちの中でも最弱だからねー、仕方がないんじゃない?」
更には少女まで並んでいる。
どう見ても普通の人間の少女としか思えないが、あそこに並んでいるからには人間ではないのだろう。
『セプテントリオン・メグレズ』、それが彼女の名前のようだ。
「最弱といえども『七星』の一人には違いない、人間どもに不覚を取るは恥としれい」
最後は全身黒づくめの忍者のような奴までいる。
細身で長身だが、顔まで漆黒の頭巾で覆われているため、顔までは窺い知れない。
『セプテントリオン・メラク』、その忍者はそう表記されている。
さっきまでアイリーンさんと戦っていた蛇男は『セプテントリオン・ドゥーベ』だ。
やはりこの七体が揃って『七星』、つまりセプテントリオンという存在なのだろう。
「ところで、ドゥーベよ」
「な、何だ!?」
アルカイドの言葉にビクッと身を縮こませるドゥーベ。
「相手の攻撃は受けられたのか?」
「……ああ、あの女の炎の攻撃の耐性は獲得できた。俺が脱皮した殻でも攻撃を受ければ条件は満たせるからな」
「ならば良し。後は我らに任せて眠るが良い」
「……な!?そんな、俺はまだ戦えるぜぇ!」
ドゥーベが声を張り上げて抗議したが、アルカイドは意に介さない。
無言でドゥーベの下へ歩みを進めるが……
「く、来るなぁ!」
ドゥーベが紫色の魔力を放出しながら槍を振り回す。
どうやら徹底抗戦の構えのようだ。
――が、アルカイドは全く止まる様子はなかった。
振り回される槍の穂先を素手で掴み、そのままドゥーベを抱きかかえる。
正に抱擁という言葉がぴったりな姿勢のままアルカイドは両腕に力を込めだした。
「ぐ、ぐガアアアア!?た、助けてくれぇえええ!!!!」
ドゥーベの体中から何かが砕けるような嫌な音が響き渡る。
そして、徐々にアルカイドの体に溶け込むように重なっていく。
……これは、吸収しているのか?
嫌な音を周囲に響かせながら、どんどんそのアルカイドに取り込まれていく。
「ぐ、ああアアアア、死にタクナィィ……」
とうとう、その全身を吸収されてしまい、そこに残るはアルカイドのみとなった。
「ふん……弱者は大人しく強者の糧となれば良いものを」
仲間の一人を吸収したにも関わらず涼しい顔を崩さないアルカイド。
やはり、こいつらは人間じゃねえな。
「なかなか悪趣味なものを見せつけてくれますわね……」
セイラさんが不快感を露わにする。
「ほう、貴様もかなりの強さを持っているようだな」
「あら?わかりますの?正直、今すぐあなた方を氷漬けにしてやりたい気分ですわ」
たった今目の前で起こった出来事がかなり不快だったのだろう。
露骨に不機嫌な様子を隠そうともせず、魔力を集中し始める。
「まあ待て、貴様の相手は我ではない」
「はあ?この期に及んで逃げるつもりですの?」
「逃げるわけではないわ、ミザール」
「はっ!『幻影の檻』」
アルカイドの指示を受けたミザールが謎のスキルを発動した瞬間。
ミザールの全身が発光し、周囲の空間が歪み出した。
「これは?何ですの!?」
驚くセイラさんの声を聞きながら歪んだ空間に飲み込まれてしまった。
そのまま、空間の歪みは大きくなっていき一瞬ではあるが、妙な感覚に教われる。
宙を浮いているかのような浮遊感と船酔いのような感覚だ。
そしてその感覚も一瞬で過ぎ去った時、目の前には見たこともないような光景が広がっていた。
「あれ?皆は?アイリーンさんはどこだ!?」
近くにいた、アイリーンさん、セイラさん、そして清十郎さん、さらには目の前にいた『七星』たちも一人残らず消えていた。
「一体何が起こったんだ!?」
全く何が起こったのか理解できなかった俺に、背後から突然声が掛けられる。
「貴様らはなかなか厄介な技を持っているみたいだったのでな、悪いが分断させてもらったまでよ」
そう話しながら、いつの間にか背後に立っていたのは……
『七星』の一人で、漆黒の装束を纏った忍者。
『セプテントリオン・メラク』だった。
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